「ゾロ、ゾロ、花火やろうっ! はなびっ」
大きな声を出しながら開け放した家の縁側に飛び込んできたのは、
何日か前に友達になったアイツだった。
縁側で竹刀の糸を張り替えて、竹片を並べ替えてナイフで削る作業をしていたゾロは、
勢いあまって突っ込みそうになったルフィに慌ててナイフを手元から頭上へと上げた。
「どわっ、ルフィ、あぶねーっ」
「迎え火で花火、すんだっ。ゾロも来いよっ」
何だか毎日、毎日朝から晩まで遊んでいる気がしながら、
気付くとゾロは自分の家の家族にまで自然に迎えられている、
目の前の少年の引力に抗えなかった。
少し離れた居間にいる母親へと、縁側から大声でゾロは声をかけた。
「かーちゃん、ルフィとこに花火に行くっ」
「あら? ルフィくんとこで花火するの?」
「おう! おばちゃん、コンバンワっ」
「こんばんわ、そうだ、ゾロ、そしたらとうもろこし持っていきなさい」
「えー?」
「オレ、好きっ! おばちゃん、オレとうもころし、好きだぞっ!」
「とうもろこし、だろ?」
「じゃ、ルフィくん、一杯食べてね?」
「おーっ!」


脇に大事そうに薪の上に置かれた袋の中の、
茹でられたとうもろこしの暖かさと、ふわりとした甘い香りが、
時々花火の火薬が燃える匂いの隙に、すくんと彼らの鼻をくすぐった。
エースは少し離れたところで、楽しそうにロケット花火を田圃へ向かって飛ばしていて、
それに気付いた祖母に叱られたりしていた。
ルフィはゾロと一緒に手にした花火をくるくると回して、
瞳の中に残る残像を作り出して遊ぶ事に熱中していた。
シャワシャワとまるで滝が流れるような音をたてながら、手元の花火は光の流れを作り出す。
「これで買ってきた奴、終わりだから」
エースがルフィに最後に渡したのは、
さっきまでもう何本と数える事も出来ないほどに火をつけた花火の色違いだった。
青い色の紙が巻かれていて、火が青系だという事を薄明かりのなかでも見えた。
「うん」
じ、と音をさせて、次に聴きなれた流れる音が火の中で浮かび上がった。
エースはその様子を見ながら、そのまま家の中へと戻ろうとした。
その背中へと、ゾロは声をかけた。
「エース、迎え火、このままで大丈夫か?」
「へーきだ、オレが後で見に来てやるから」
ルフィはさっきまではくるくると回転させたりして、花火を振り回していたが、
最後の1本は神妙な顔つきで前へと掲げていた。
やがてゆっくりと勢いは削がれていき、小さな音をたてて白い煙が花火の終わりを告げた。
途端に煩いほどのかえるの鳴き声が聞こえ出す。
さっきまでは、花火が出す音に紛れて聞こえなかったのが、
音の奔流となって二人の周りを覆った暗闇の中で響き渡る。
「ルフィ、家の中、入ろう」
「うん、なあ、ゾロ?」
「何だ?」
「…空、すげえなあ」
「空?」
ルフィの言葉にゾロは頭上を仰ぐ。
そこに散らばるのは、まるで吸い込まれそうな、
その手を伸ばせば届いて掬い取れるかのような、満点の星空。
大きな光から、小さな欠片のような光まで、
その夜空に小さな針で無数の穴を開けてそこから光が漏れているようなそんな星が、
視界の端から端まで、あふれ出しているかのようだった。
所々、まるで帯のように白くうねっているのは、恐らく天の川だろうか、
ゾロは七夕の時に短冊に書いた「天の川」という言葉を、自然に思い出した。
「…普通だろ?」
「オレのいる街、こんなに見えないもん」
「そか」
ルフィの掌が圧倒されたその迫力に押されたのか、
不安げに隣に並んで立つゾロの掌をぎゅ、と握った。
それに気付いてゾロは、自分よりも一回り分小さなその掌を握り返した。
「ゾロ、ありがとな」
「何がだよ?」
「オレ、ゾロと一緒に遊べて、すっげー、楽しかった。だからだ」
「…じゃ、来年も一緒に遊んでやるよ」
「おう、ヤクソクだな! 一緒に遊ぼうっ!」
「分かった、約束だな」
握ったお互いの拳を、胸の高さにまで掲げた。
顔を見合わせてにしし、と二人は同じ表情で笑った。
星明りに照らされたルフィの顔が奇麗だと思った。
しっかりと握ってくれたゾロの掌の強さが、かっこいいと思った。
「おし、とうもろこし、食おうぜ!」
「ああ、食う食うっ! 後、ばあちゃんがスイカ冷やしてくれてるぞっ!」
お互いの手をしっかりと握り合ったまま、
ゾロとルフィは家の窓から漏れてくる、その暖かな光へと向かって歩き出した。


ヤクソクは、結局果たされるまでは随分と時間がかかり、
お互いの努力を必要としたのだけれど。
それは大事な夏の夜の思い出。







〜Fine〜

SAMIの実家では、迎え火で必ず花火をします。
だから迎え火というと、何だか花火をしなくてはいけないような、そんな気にもなります。
でも、迎え火って、全国的に焚いたりしないのでしょうかね?

BGMは種ともこ「きゅうりdeVacation」でした。
天の川、渡るよ。ぼくたちのVacation!


SAMIサマからこんなにもおステキな暑中のお見舞いを頂いてしまいましたvv
この二人って、もしかしなくとも『はなび』の二人ですよね? ね?
この二人が後に、切ないお別れを経てから再会して、
少しずつ近づき合う、それはそれは優しいお話を紡いでゆくのかと思うと、
何だかもうもう、ステキに切なくて。
本当にありがとうございましたvv

SAMI様のサイト 『Erdo.』サマへ⇒****

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