■ 冬空 ■



今年は、夏が終わったなぁ…と想っている間に、あっと云う間に秋が駆け足で走って行って。
秋を確かめる前に、一気に冬の寒さが押し寄せて来たから、冷たい指先の感覚も、何処か曖昧で。
一番好きな季節なのに、一番胸の中に吸い込みたい季節の空気なのに、何だか物足りない。

白く染まる息を吐き出しながら呟くと、隣を歩くゾロは、怪訝そうな顔で振り向いた。
俺が、何で秋が好きか…とか悔しがってるとか、そんな事…きっと全然判らないんだろうな。
変な処で敏感で、何でもお見通しの癖に、こんな簡単な事が判らないんだよな…ゾロは。

だけど、其処がゾロがゾロらしい処で、そんなゾロだから俺もゾロが好きなんだけど。
俺の歩幅に合わせて、ゆっくり歩くゾロの背中を思い切り殴って、先を歩く。

「何、拗ねてんだよ」
「拗ねてねぇよ、ゾロの馬鹿」
「其れの何処が、拗ねてねぇんだよ、この馬鹿」

先を歩き出した俺の足、だけど追い着くのはゾロにとっては、凄く簡単な事で。
一瞬、解けかけたスニーカーの紐に気を取られた間に、すいっとゾロは俺の隣に並んで。
そうして、ほら…また、子供扱いして髪をクシャクシャ撫でて、先を歩き出す。

何となく、追い駆けるのも悔しくて…俺だけが、必死に追い駆けるみたいで、悔しいから。
屈み込んで、一度結び掛けた靴紐をワザと解いて、寂しそうな電信柱の下に、しゃがみ込んで。
悴み掛けた指先で、何度も何度も、何かを誤魔化す様に結んでは緩めて…何となく繰り返してしまう。

「何してんだよ」
「何でもねぇよ」
「…ったく、不器用なんだからよ」
「…ゾロに云われたくねぇ」
「イチイチ、突っ掛かって来るんじゃねぇよ」

この馬鹿…と、今日何度目だろう…同じ言葉を繰り返して、ゾロは笑って。
先を歩いていた筈なのに、その足で又俺の処に戻って来てくれて、そうして俺以上に不器用な指で。
解けた靴紐を、不恰好に結び直して、ひとり満足そうに笑って、立ち上がる。

見上げたゾロの顔は、何だか遠く見えて、遠くに居る人みたいで。
秋の空の下だったら、きっとこんなに寂しかったり、切なかったりしないんだろう。
あの柔らかい秋色の空の下だったら、こんなに迷子みたいに心細くなったりしないんだろう。
確かめる間も無く、一気に秋が通り過ぎて行ってしまったから、オカシイんだ。

「ルフィ?」
「…何でも、無い」
「…そっか」

立ち上がってゾロの顔を見上げて、小さく笑うと、ゾロはやっぱり何も判ってない顔で頷いて。
其れでも、俺の悴んだ指先ごと、コートのポケットに掌を突っ込んで、歩き出すから。
居心地の悪い鞄を抱え直して、ゾロのペースに合わせる様に歩幅を広げて、隣を歩く。

「なぁ…ゾロ」
「ん?」
「お前、また背が伸びてねぇ?」
「あぁ…そう云えば、これ、少しきついんだよな」
「これってば、去年買った奴じゃねぇ?」
「…何、拗ねてんだよ」
「ゾロばっか、背が伸びてんじゃん…ズリぃの」

ポケットの中で、握り締められた掌に爪を立てると、ゾロは呆れた様に白い溜息を吐き出して。
空いている方の腕を伸ばして、俺の髪をクシャクシャ掻き回して、笑うから。

寂しい方の掌を、溜息で暖めながら、可笑しくて笑ってしまう。
…繋がってる右手を、左手が凄くシットしてる…隣にある右肩を、左肩が羨ましがってる…なんて。

「変なの」
「…お前、今日は本当に変だぞ」
「…ゾロに云われたくねぇもん」



握り締める右手を強くして、そうして冬空の下を、一緒に歩いてく。  
 


*一條様のゾロルは、情景描写が淡々としていながらも鮮やかで、
 目の前に、身のすぐ傍に、情況が浮かび上がって来るようで。
 そういうところ、いつも憧れて読ませて頂いております。
 DLFもたくさんUPなさっておいでだったのですが、
 このパラレルシリーズが大好きなので、頂いてきました。
 ありがとうございます、大事に読みますね?


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