大好き、と想う気持ちが膨らんで。
膨らんで。
ぱんぱんになってしまって。
どこでどうやって空気を抜けばいいか。
どこでどうやって割ればいいか。
分からなくなってしまって。

張ったままの状態で空気中に揺れ続けている。

そんな心は、まるで『風船』。




進とセナが最後に会った日から一ヶ月が経つ。
互いに部活で忙しい身であるし。
特に進はジュニアユースの代表選手に選ばれていて。
その上、家の距離も離れているから仕方がない、とは思っているが。
一ヶ月も会わなかったことは、進と一番近い関係になってからは一度もなく。
寂しい。
悲しい。
辛い。
これがセナにとっては正直な気持ちだった。



そんなセナの最近の癖は知らず知らずのうちの溜め息。
「ったくよー、鬱陶しいんだよ!!溜め息ばっか吐いてるんじゃねぇ、糞チビ!!」
ヒルマに、マシンガンよろしくで怒られても。
「どうしたの?最近元気ないよね?セナ」
まもりが心配そうな表情をしても。
溜め息は止まらなかった。

我侭は言わない。
贅沢は言わない。
迷惑は、掛けない。
足をひっぱらない。

セナが進と付き合い出す時に自分自身に誓ったものだ。
進から、ずっと自分のことが好きだったと言われたときは。
嬉しくて嬉しくて。
夢のよう、と言うのはこういうことなんだなぁ、と思った。
しかし、そんな気持ちと同時に、不安や恐怖も感じた。

嫌われたらどうしよう、という不安。
捨てられたらどうしよう、という恐怖。

常に付き纏うのは、進を好きだと強く想う気持ちと。
不安と恐怖。

例え強風が吹いても。
凛と背を伸ばし。
まっすぐと、強い光を放つ黒曜石のような瞳で未来を見据える。
それが進清十郎という人だ。
自分のように、少しの風が吹いただけで簡単に倒れてしまう人ではないのだ。

会いたくても。
会いたくても。
決してセナから連絡をしたことはなかった。
三日会えないだけで、涙が出てくるのに。
それでもセナは頑なに連絡をしない。
進からの連絡が途絶えた時、それが終わりだと悟っているから。

自分から、会いたい、なんて言えない。
嫌われてしまう。
嫌がられてしまう。
うっとうしい、と思われてしまう。

一秒、一分でも長く進といたいから。
会えなくても、一番傍にいられる関係でいたいから。
セナは時々思う。
あの4つの自分自身への誓いは、進を自分に縛り付けるためのものではないか、と。
進清十郎という人間は、とても優しくて温かい人だから。
自分がいい子でいることで、進を束縛できると思い込んでいるのだ。
なんて愚かで、醜い。

最後に会ってから。
一ヶ月と、9時間24分後。
進から連絡が来た。
久しぶりの進の声に、セナは泣きそうになり。
眉間をぐっと、押さえた。
泣いたら、進に迷惑を掛ける。
困らせてしまう。

電話は、
『・・・・・・・・・・・・会いたい』
それだけで切れた。
セナの返事も待つことなく。

始めて聞いた、進の苦しそうな声。
心から絞り出したような風に感じた。

セナは部活を早退し、急いで進の住んでいるアパートへと向かった。

最後に会ったから。
一ヶ月と9時間56分後。
進の家のインターフォンを押し。
ゆっくりと、ドアが開き。
「・・・・・・・っしんさ・・っ」
ぐいっと、すごい力に引っ張られて。
進さんと姿を確認する前に、その大きな胸に抱きこまれる。

姿は確認できなかったけど。
ぎゅうぎゅう、強く抱き締めてくる腕の力や。
シャワーを浴びたのだろうか、進が家で使用しているミントの匂いがするシャンプーの香りや。
トレーナーをとおして伝わる、暖かな体温。
全てで、進さんなんだぁ・・と認識できる。

会えたんだ。
やっと。

そう思うと。
いけない、だめだ。
心で叫んでも、涙が出てくる。
会いたかった、ずっと会いたかった。
言葉の代わりに涙が言ってくれているような。
そんな気がした。

抱き締めていた腕の力を緩めて。
進はそっと、セナの体を放した。
静かにセナの頬を流れ続ける涙を、硬い親指で撫でる。
「どうして、泣いている・・?」
セナはしまった、と思った。
やはり迷惑だったんだと。
うっとうしいと思われてしまうと。
急いで涙を止めようとした。

だが。
「抱き締められるのが嫌だったか?呼び出したのが迷惑だったか?」

進は玄関に膝立ちになり、セナと目線を合わせるようにして尋ねてきた。
セナの顔を覗き込む、進の瞳には。
いつものような黒曜石の強い光は感じられずに。
不安そうに、揺れていた。

「もう、一緒にいたくないか?傍にいるのは迷惑か?」
セナが何度も、涙を流しながら小さな頭を横に振っても。
その行為で否定を表しても。
「俺はもう邪魔か?嫌いになったか?」
進は何度も、何度も、似た質問をしてきた。
その質問は全てがセナが進に尋ねたかったものだった。

「お前にとって俺は必要ないか?いらない存在か?」
進の口からそんな言葉が出てくるのが、耐えられなくて。
セナは進の頭を抱え込むように、抱き締めた。
それはセナが初めて、自分から進に触れた瞬間だった。

抱き締めても、セナは涙を流しながら、首を弱弱しく横に振っていた。
進の質問全てを否定するために。

静かな空気が流れる。

セナに抱き締められた状態で、進がぽつり、ぽつり、と喋り始めた。
ずっと、会いたかったこと。
連絡が全く来なく、自分も意地を張っていたら怖くなってしまったこと。
「お前から、連絡が来たことなど一度もなかった。初めから無理して俺と付き合ってくれているのかと思った」
お前は優しいから。
「お前が俺に対して、遠慮しているのも知っていた。それではまずいと思ってどうにかしようとした。だが・・・」
お前は壁を乗り越えてはくれなかった。

進の言葉にセナはどう答えて良いか分からなかった。
自分の勝手な自身への誓いが。
進を自分に縛り付けるための誓いが。
進をこんなにも追い詰めていたなんて。

「もっと、我侭を言ってくれ。もっと、弱い所を見せてくれ。もっと、俺を必要としてくれ・・・」
「・・・・・頼む・・っ」
電話で聞いた声と同じ。
心から搾り出すような声。

「・・・・・一緒にいて、いいの・・?」
セナの口から、ぽろりと言葉が漏れる。
「ああ」
「我侭言って、いい・・?」
「もちろんだ」
「会いたくなったら、会いに来ても、いいの・・?」
「・・・・俺も会いたい」
「声、聞きたくなったら電話してもいい・・?」
「ああ。俺もお前の声が聞きたい」
一つ一つ零れるセナの本心に、進は丁寧に返事をする。

進がセナを抱き締めた時には、セナの大きな目からは。
また涙が流れていた。

その涙は不安や恐怖とを共に流し。
セナの心には、進への好きという強い気持ちしか残らなかった。





後書き

ということで、55555HITありがとうございます!!!!!
こんなに長くホムペ生活が出来るとは開設した当初は微塵も感じていませんでした(殴)
これからもこんなSSしかかけませんが頑張っていきますので応援してやってください!!

お礼SSだと言うのに暗くて、すみません(><)
テーマは「病的に進が好きな勘違いセナと、病的にセナが好きなヨワヨワ進」です(笑)
DFLでお持ち帰り可なので、
ほしい人がいるかは分かりませんが持って言ってやってくださいvv


*切ないお話ですが、ハッピィーエンドで良かったですvv
 こんなステキなお話をDLFにして下さる大沢様vv
 実は以前、別のDLFの作品を、でもでも、超新参者だったがため、
 物凄く恥ずかしくて頂戴し損ねたことがありまして。
 今回は勇気を出すぞと、頑張りました。
 大切に読みますね? ありがとうございましたvv


大沢一郎様のサイト『
sweet candy』さんはこちら***


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