太陽が照りつける。

夏の、とても、とても暑い日に生まれた人は。

心が、強い人。

岩を砕く、波のような、心を持っている、人。


そんな彼は、僕の、僕の、とても大切な、人。





 Love to Love





「・・・・どうして、教えてくれなかったんですか・・?」

俯きながら、囁くような小さな声。
今にも泣きそうだ。
一ヶ月ぶりに進と会った、セナの第一声はこうだった。

夏休み中、進はジュニアユースの遠征として、渡米していた。
その遠征は、ほぼ毎日が試合で。
電話をする暇もないほど忙しかった。
そのことは行く前から、きちんとセナには言って合ったはずだ。
進にはセナの言葉の意味も、声に含まれた意味も、全く分からない。
「・・・・どういうことだ?」
分からないことは、聞く。
いくら恋人同士とはいえ、他人だ。
エスパーでない限り、心を読むことなど出来ない。
だが、その心を知りたいと切に願うから、一緒にいるのだ。
それに、一ヶ月ぶりにあったというのに、セナの悲しそうな表情など見たくもない。
セナには常に微笑んでいて欲しいのだ。

「・・・・・・」
「小早川」
背を屈めて、セナの目線に合わせる。
顔を覗き込んでみると、その表情は先程の声と同じく今にも泣き出しそうだ。

「・・・・・・8月15日」


小さな、小さな声。
セナの口から言われた曜日は、何か覚えのある曜日だった。

「・・・・・・俺の誕生日、か・・・」


セナがその事を知ったのは、進がアメリカから帰ってくる三日前のことだった。
部活終了後、まもりが買ってきてくれたアメフト雑誌をモン太と部室で読んでいると。
「へぇ〜、今後注目選手のプロフィールだってさ!オレ、載ってるかなっ!!」
「モン太〜・・」
「おっ!!進さんだぜ、セナ!!」
モン太に言われる前から気が付いていた。
そこには、進の横顔写真と、簡単なプロフィール。
いつも、自分に見せるような優しい表情ではない。
厳しい表情で、そこにいるのは『アメフト選手・進清十郎』だった。
プロフィールに目を通してみると、どれもが自分の知っていることで。
その事が、とても嬉しい。
だが。
「へぇ〜、進さんって、昨日誕生日だったんだなぁ」
「・・・・・う、ん・・」
やっとの思いで、声を出すことが出来た。
涙が出そうになる。
知らない。
知らなかった。
進の誕生日が、『8月15日』だったなんて。
聞いたことはなかったけど、教えてもくれなかった。
悲しさと、辛さで、モン太が話している言葉さえもよく聞こえない。
どうして。
どうして、教えてくれなかったんだろう・・・?

進の疑問系の答えに、セナは小さな頭をゆっくりと縦に振って答える。
「そんなことか・・」
溜め息交じりで呟いてしまう。
進にしてみれば、もっと凄いことをして悲しませていたと思ったのだ。
だが、セナはそんな進の呟きに、悲しみを露わにした。
「・・・どうして、どうして、そんなことって・・・っ」
溢れてくる涙が止まらない。
進を困らせていることは分かっている。
進にとっては誕生日などその程度のことなのかもしれない。
だが。
「何で、何でっ、教えてくれなかったんですか・・・っ!?」
雑誌からじゃなくて。
進の口から直接聞きたかった。
一緒にお祝いしたかった。
大好きな人の誕生日を。

セナの大粒の涙に、進はどうしていいか分からない。
たかが、誕生日如きで、なぜこんなに泣くのだろう。
「・・・例え言っても、お前は練習があったし、俺はアメリカだった」
「でも・・っ!!」
「どうしようもないだろう」
「でも、教えてもらいたかったんですっ!」
「・・・・何故だ・・?」
分からない。
理解できない。
セナの言っていることが。
涙の意味が。
だから、言ったのだ。

「お前には、関係ないだろう?」

進は本心でセナに言った。
しかし、次の瞬間。

セナは今まで流していた涙をぴたっと止めて、進を呆然と見詰めていた。
進はその表情を見て、すぐにセナを抱きしめた。
今までで一番傷つけた・・・っ。
あんな表情をさせてしまうなんて。
まるで、人形のような表情だった。
「すまん・・っ、そういう意味ではない。言葉が足りなかったな・・」
「・・・・・」
「俺自身、誕生日など意味のないものなんだ。実際、お前に言われて思い出した。本当だ・・」
「・・・んと?」
「ああ。だから、泣くな・・」
強く、強く、抱き締める。
悲しませてしまった。
誕生日など、本当に進にとっては無意味なものだった。
実際、生まれてきてこの年まで祝われたことなど一度もない。
セナはそれを祝ってくれるのか・・?

「すまない・・・」
「・・・・も、いいです・・」
「だが・・」
少しずつ、セナが小さな顔を上げる。
頬には、涙の流れた跡。
抱き締めていた大きな掌で、柔らかな頬を拭うと。
進の好きな、柔らかな優しい、セナの微笑み。

「じゃあ、お祝いさせて、くれますか・・・?」
「・・祝ってくれるんだろう?」
「はい・・!」



夏だけど、どこか涼しくて心地の良い温度。

暑くはない、暖かな抱擁の後。

小さな、小さな、誕生日パーティーが開かれた。

それはケーキも、プレゼントもないけれど。

進が生まれて初めて味わった、幸せな誕生日。





後書き

ということで、かなり遅くなりましたが、34000自爆記念小説です。
夏も終わりということで、残暑見舞いでもあったりします。
大沢的には、進は夏生まれだと思われます。
プラス、ダーク設定で進は生まれてこの方誕生日など祝われたことなどないことになっています。
補足説明が続きますが、タイトルの前のポエムは、四季の歌から頂きましたvv
小学生のときによく歌ったものです。

この小説はお持ち帰り可なので、心優しき人はお目汚しになってしまうかもしれませんが、お部屋に飾ったりしてやってください!!
感想や、ご報告など頂けたら、大沢泣いて喜びます!!!!


 *いつもいつもいじらしいセナくんをお書きになる大沢様で、
  今回のこのお話でも、
  この子はもうもうと、ぎゅうぎゅう〜〜っと抱きしめてあげたくなるような
  愛らしい彼を堪能させて頂きましたvv
  大切にしますね、ありがとうございますvv


大沢様のサイト『sweet candy』さんはこちら→***


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