□■□ 寝ても醒めても □■□
 

 まどろみの中でも感じられる、確かな存在。
 ドアの隙間から吹き込む海風は、夜の空気を一杯に孕んでいて冷たいけれど。
 腕の中だけは、馴染んだ柔らかい体とその体温で温かい。
「・・・寒ィ」
 温かいのだけれど、口を付いて出たのは反対の言葉。上掛けがはだけて、ゾロの背中は容赦なく冷気に晒され冷え切っていたのだ。
「・・・まったコイツ、毛布独り占めしやがって」
 覚醒しきっていない頭が眼が、腕の中の恋人の姿に注がれて溜息が出る。
 安らかな寝息を立てながら、ルフィはゾロから奪った一枚きりの毛布を体にグルグルに巻き付けていた。
「ルフィ、毛布全部持って行くな」
「・・・う・・・ん」
 夢うつつでゾロに返事をするルフィだったが、どう見ても寝ぼけて適当に相槌を打っているとしか思えない。瞼は下りたまま、空気が乾燥している為に鼻が詰まっているのか、ピスピスと鳴らしながらの寝息もそのまま。口を開けて涎まで垂らして眠る無防備な幼い顔。色気とは程遠いルフィの寝顔に、しばし脱力。
 客観的に言っても可愛い面構えをしてはいるのだけれど、どこをとっても男そのもの。
 乱暴な言葉遣いも、粗暴な振る舞いも、男と言うよりはやんちゃな子供。
 どうしてこんな子供に愛着を持っているのか、たまに自分を振り返ってみて呆然としてしまうのだけれど。
 ゾロは毛布の端っこを掴まえて、無理矢理ルフィの体重からそれを引き抜く。埃が舞うのに、朝になったら毛布を干さないと駄目だなと、お母さんのような事を考えてしまうゾロだったのだけれど。ともかく。
「あったけェ〜!」
 潜り込んで冷えた体を慰める。ゴソゴソと、ルフィの体に腕を回して。
「ひゃ・・・。冷た・・・」
 爪先をルフィの足に絡めたら、その冷たさに驚いたのかルフィが声を出した。
「ゾロォ・・・?冷てェから、足、どけろ」
「おー、生き返るぅ」
 非難も懇願も聞き入れてやらないとばかり、ゾロはルフィの体温を堪能する。
 ルフィは身を捩って、ゾロの攻撃から回避を試みるも、寝ぼけたままなのでどうしても動きが鈍くなっていて、結局はゾロのやりたい放題にされていた。
 回された手が悪戯にルフィの体をまさぐり始めた。仄かな体臭は高めの体温に焙られて、いつもよりも濃く感じるその匂いをゾロは満喫する。首筋に顔を埋めて、耳の後ろ、髪の生え際、頬骨のライン、唇で掠めながら所々を舐めて。
「くすぐってェっ!や、ゾロっ」
「イイから、そのまま寝てろ」
 ゾロは含み笑いを漏らしながら、寝てられる訳ねェよなァと思う。快感に素直なルフィの体。どこをどうしたら、どんな反応が返ってくるか、全部承知しているのだ、ゾロは。
「・・・あぅンッ、んっ、ンやぁ・・・」
 案の定、的確な触れ方にルフィはすっかり息を乱している。夜よりも、むしろ朝の方が快感を受け止めやすいのだろうか、温かい体温は呼び水、炎の燃え広がり方が早いように思えた。
 嫌だと口では言いつつも、ゾロが腰を押し付けて密着すると、小さく震えるのも一瞬。預けるように身を委ねて、ルフィは逞しいゾロの腕に縋り付いてくる。
 お遊びの、つもりだったのに。ちょっとだけ触れて、ルフィを抱えてもう一眠りしようと思っていただけなのに。
 ちゃっかりその気になって、熱を十分に蓄えてしまった自身の高ぶりに、辛抱が効かない正直なヤツだと我ながら呆れたゾロだった。
 最近のルフィの寝姿は、アラバスタからこっち、楽チンでイイと気に入って着ている白の寝間着で、寝相が素晴らしくイイ為いつも腹を剥き出しにしているのだが。こんな時にはゾロにとって好都合。手をジワジワと這わせて、小さな粒を指で押し潰すように撫でる。
「んっ・・・」
 肩を竦めて身じろぐも、執拗に追いかけてくるゾロの器用な指にすぐに掴まる。
 イヤイヤと首を振る仕種に煽られて、焦らされて。ゾロはルフィの背中から腹の上に移動した。
 夜も明けきらない、うすぼんやりとしか月明かりが入ってこない部屋の中。影を作るルフィの顔に唇を近づけて、啄むように口付けを繰り返す。吐息も間近。
 小さく切ない声で「ゾロ」と呼ばれて、眩暈を起こしそうだった。
 深くなる口付け。舌を入り込ませて奪うように熱烈なキスを贈ると、細い腕がゾロの首に背中に回されてしがみついてくるのがどうにも嬉しい。無理に引き剥がすのが惜しくて、動きを制限されるのを承知で、ゾロは口付けたままルフィの体中に手を動かした。
 しなやかな痩身。瑞々しい肌。
 程々に筋肉は付いているのだけれど、柔らかな二の腕や胸や腹、足の付け根。
 その感触にいつも溺れて、触れてしまうとどうにも離し難くなるルフィの体。
 今は半分閉じられて、潤みを満たしているのだけれど。決して輝きを失わない瞳は、高貴な宝石のようで。
 小さな体の中に、抱えきれない程の夢を詰め込んでいる男。
 揺るがない信念を根底に忍ばせて、嘘が嫌いで自分の欲求に馬鹿みたいに正直。
 ルフィを抱き締めながら、思いを巡らせる度に、惹かれた理由をハッキリと自覚できるゾロなのだ。
 何にも代え難い、代わりなど無い、ルフィと言う大切な存在。
 馬鹿馬鹿しいほどに天晴れな生き様を見せつけて。それまでの自分の全てごと、これからの全てを賭けてもイイと、本心から思わせたルフィなのだ。
 蹂躙しているのが、本当は侵すべきでない禁忌だと知っているけれど。ルフィが自分だけに許してくれた領域。
 溺れきって、ルフィ無しでは、もう生きてはいけない。
「んッ、ぅあ・・・う、ン・・・っ!」
「平気か・・・、ルフィ」
 細い足を掴み、胸に付く程に折り曲げて。平気かと声を掛けながらも、ゾロはルフィの奥へと身を進める。体温よりももっと熱いルフィの中は、燃える炎のようにゾロを焼き尽くす。身を投じて粉々の灰になっても構わないと思う、ルフィに焼き尽くされるなら本望だった。
 激しく打って、穿って、きつくその体を抱き締めて。
 吐息も喘ぎも、ひとつも余さず掬い取って。
「や、あぅ・・・、あっあっ、ゾロ・・・ッ!」
 ルフィの甘い悦楽の声。寝具がギッギッと悲鳴を上げる。
 もう、後は。
 閃光が次々に瞬いて、頭の中は真っ白。
 無我夢中で吐き出す熱。顎を逸らして震える身の内に全て受け止めさせる。
 気怠くルフィの上に被さり落ちて、汗の匂いに行為の余韻に浸りながら。
 軽く、キス。
 啄むとくすぐったそうに笑うルフィの声は、優しい子守歌。
 抱き直して、包み込んで、ルフィの髪を指で梳く。
「ルフィ・・・」
 甘やかす特別なゾロの声に、ルフィもうっとりと瞼が引っ付いて。
 トクトクと、規則正しい鼓動がふたり同化して、吐息はいつまでも甘いけれど。
 安らかな寝息に変わるのに、そんなに時間は掛からなかった。
 桃色に海が染まる朝は、もうすぐ。



 ドカッと鳩尾に一撃。
「グ・・・ッ」
 寝覚めのいきなりの衝撃に、ゾロは息を詰めて七転八倒。そのまま気絶したいのを堪えて目を開ける。
「なにしやがる!この・・・っ」
 強烈な蹴りをくれた主を睨み付けるも、当の本人は狭いベットで大の字で。
 何をしでかしてゾロの怒りに触れたかも自覚のない顔で、安らかな寝息のまま、ひたすらに楽しい夢に没頭している。
「・・・あ〜あ」
 それよりも目が点になる事例が幾つか。
 寝間着がずり上がって露わな腹、胸。
 下着を履かせ忘れた為に、下半身も剥き出し。
 所々、日焼けの肌に染み付いた、鬱血の痕も色濃くて。
 そんなにしつこく吸ったのだろうかと、ゾロは真夜中の情事を思い出して赤面した。
 居たたまれずに、ルフィの着衣を整えてやる。大の字の足を片方ずつ下着の穴に入れて、腰まで持ち上げる。寝間着の裾を引きずり下ろして、毛布を掛けてやる。
 結構、乱暴な動作だったのに、目も開かないルフィに苦笑が込み上げるのだけれど。
爽やかな空気を感じ取れて、朝日はすっかり登り切っているのだろうと予想を付ける。
 賑やかしい一日は、目前の閉じられている瞳がパッチリと開くのを合図に始まるのだけれど。腹が減ったと煩くわめき立てる口は、まだまだ声を発しないから。
 もう少しの間だけ、ルフィを独占。
 毛布の中に体を忍ばせて、添い寝、腕枕。あどけない横顔に薄く笑って、頬を唇で啄む。習慣なのか、キスをしながらゾロの手はルフィの体を無意識にまさぐり始める。
「・・・こら」
「うっ!」
 いつの間に起きたのか、触れるゾロを睨み付けるルフィと目が合って、ゾロは怯んだ。
「起きたのか、ルフィ」
「・・・ッたく、油断も隙もねェな!エロゾロ!」
 起き上がりながら真っ赤になってゾロの手を弾くルフィに、ゾロは焦りを隠せない。
「ゾロが構ってくれるのが嬉しかったから黙ってたのに、図に乗りやがって!」
 至れり尽くせりの世話を受けて、程良くイイ気持ちだったのにと、憤慨するルフィにゾロは渋い顔になる。
「お前、いつから起きてたンだよ・・・」
「ゾロが起きる前から」
と、そう言ってからルフィは慌てて口を塞ぐ。スッと表情に影を作るゾロに全身から汗が噴き出した。
「・・・てェ事は、ワザと蹴り入れたって事かよ。この・・・ッ」
「や、だって、俺、パンツ履いてなかったし。したのかどうか曖昧だったから聞こうと思ってもゾロ起きてくんねェしっ!」
 だから蹴っ飛ばしてみたら、ゾロすげェ剣幕で怒ってたから寝た振りを・・・と、一所懸命に言い訳るのが、ヤケに新鮮にゾロには写った。いつもあっけらかんと悪びれないルフィが慌てる姿なんて、滅多に拝めるモノではない。
「だからって、蹴っ飛ばす事ァねェだろ!アホ!」
「ゴメンって・・・ッ、ゾロッ?」
「覚えてねェって?ルフィ・・・」
 腕を掴んでゾロはルフィをベッドに引き戻した。あんなに可愛がってやったのによ、と耳元で囁いて、うわっと肩を竦めるルフィに遠慮無く伸し掛かる。覚えてなければソレはソレで、これ幸いとばかり。
「ゾ、ゾロ?」
「どうやってしたのか、覚えてないんだろ?もっかい、再現してやるから」
「おま、それ、自分がしたいだけだろっ!そんな嬉しそうな顔・・・っ」
 真っ赤になりながら抵抗するルフィだったけれど、言う通りのゾロの嬉しそうな顔に、近寄ってくる唇に、力も抜けてしまう。
「すげェ、可愛かった・・・。ルフィ」
「・・・!ンな事、言うなッ!アホゾロ!」
 ヌケヌケと羞恥を煽る言葉を吐くゾロを両手で殴って、
「ンむぅ・・・」
それでもキスは大人しく受け止めるルフィだった。
 キスの仕方も夕べより丁寧じゃん・・・。と、霞む頭で考える。
 言い訳するのに覚えてないと言っただけで、本当はちゃんと覚えているルフィなのだった。
 目が覚めて暫くは気怠くて、抱き締めたまま眠るゾロの顔をぼんやりと見つめていたのだけれど。
 触れ合っている素肌の温もりにはたと思い当たる、夕べの甘い夢。
 はだけた肌にゾロの証。
 一気に頭に血が上って、唇を尖らせてゾロを睨み付けてみたりもしたのだけれど。
 無防備に目を瞑るゾロの顔は、普段の強面を微塵も感じさせないあどけなさ。
 真実を告白して、行為を止めさせてもイイのだけれど。
 ぼうっとゾロの寝顔に見惚れてて、愛しさ余って蹴っ飛ばしたなんてとても言えないのだ。不器用な愛のリアクションなのを呆れて溜息をつくのが想像できるから。
 寝ても醒めてもルフィを求めてくれるゾロは、好きで触れてくるんだと知っている。ゾロの嬉しそうな顔が気持ちを伝えてくるから。自分だけに見せてくれる甘い顔に、ほんわか解されてしまうから。
 抱き合う理由はそれで充分。
「・・・ゾ、ゾロ、また?俺、もう腹減って仕方ねェンだけど・・・っ」
「・・・もちょっと。も、一回、だけ・・・、ルフィ」
 尽きないゾロの欲求に驚いて、理由を捏ねてみたりもするのだけれど、夢中なゾロは切ない目で息で、聞いてくれない。
 始める前は強気でも、途中でいつも立場は逆転。
 ルフィに甘え倒すゾロの様子は、ムズムズと気持ちをくすぐる。
 愛しい限り。
 そんなゾロの方がずっと可愛いぞと、汗まみれで熱く火照った体でこっそり思う。
 腹は減っているけれど、ゾロの表情と声だけで、胸はいっぱいいっぱいなルフィだった。
 


END.
2002.11.5


「先生!大変です!! あまりの甘さに田中君が吐きました!」
「なにィ!廊下に立っとれ!」(田中君て誰?)

誕生日とは全く関係ない話ですが、ゾロへのアタシからの誕生日プレゼントvv(失笑)
寝込みを襲う or 起き抜けH(しかも二回以上!)
半分寝てる状態の方が、感度も上がるんだそうな。
どうですか?ロロノアさん。

時事ネタ(誕生日ネタ)はそのウチに・・・vv


*お久し振りに伺って、いきなり垂涎ものの作品様に相まみえ、
 居ても立ってもいられずに、
 気がついたらお家まで連れ帰ってきていてしまいました。
 あまりに甘く、ラブラブなお二人で、
 拝見しているこちらの方こそ、頭から蕩けてしまいそうです。
 美味しく頂かせて頂きました。
 ありがとうございました。大切にお読みしますねvv

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