■ 怪我 ■


船医と剣豪。
100,001HIT、Morlin.様へ進呈。返却可(笑)



ゴーイングメリー号は、今日も海を行く。
そして小さな船医は、今日も大型の溜息を吐き出した。



「何で毎日怪我するんだ、お前達?」
「…好きで怪我してる訳じゃねぇよ」

傷口を消毒しながら、俺は今日、何回目か判らない溜息を吐いた。
鼻先を消毒液のキツイ匂いが掠めて行く。
思わず顔を顰めてしまうと、そんなに変な顔をしてたのかな?

ゾロは、少しだけ口元を緩めて、笑った様に見えた。
ゾロが笑う処なんて滅多に見れないから、俺は治療も忘れて観察してしまった。
船長の傍に居る時は、酷く優しい眼をしてる癖に、何故か其の顔を隠そうとするから。
…俺は、何となく嬉しくて、胸の奥がホカホカして来た。

でも、コレとソレは別問題。
怪我をした事は、あんまり良くないぞ?

「駄目だぞ、お酒なんか飲んじゃぁ」
「酒飲んで寝てれば、大抵の傷は一晩で治る」

何、自信満々に言ってるんだ?

俺は、背伸びして、ゾロの手から蒼い酒瓶を奪い取ると、傷口に思い切り消毒液を刷り込ませた。
少しは沁みたかな…ゾロの眉がピクピク動いたから、俺は小さく笑う。

そんな怖い眼で睨んでも駄目だからな、最初は本当に怖かったけど、ゾロの本性知ってるからな。
全然怖くないぞ…ほんの少しは…怖いけど…?

「…あっ…包帯が足らないかも」
「この前、買い出しに行ったんじゃないのか?」
「行ったよ、でも、お前等が毎日怪我するから、幾つあっても足らないんだ」

…この船の奴等は、何時も明るい船長を筆頭に、本当に怪我が多いんだ。
何でこんなに毎日毎日新しい傷を増やすんだろう…て言うか、何で大人しく出来ないんだろ?
普通の喧嘩だった筈なのに…気が付いたら白熱戦になっちゃって。

ナミに言わせれば、それが奴等のコミュニケーションなんだって。
頭で考えるよりも先に、手足が動いちゃうんだって…でも、それって、どうだろう…。
子供の喧嘩と変わらないじゃないか…そう言ったら巻き込まれるから黙ってるけど。

「…幾ら薬があっても足りないぞ?」

今日も、何が原因だったのか判らないけど、ゾロとサンジが喧嘩した。
ナミは笑ってみてたけど…直ぐに頭に血が上るから…又、余計な傷が出来ちゃうんだぞ。

「…まだ怪我治ってないのに…こんなに続けて怪我してたら駄目だ」
「こんなの怪我の内に入んねぇよ」
「威張って言うな!」

そりゃ…ちょっと腕を数針縫うだけの傷だし、安静にしてたら直ぐに治る。
ゾロの胸にある古い刀傷に比べれば、どんな傷だって怪我の内には入らないよ。
でも、本人は気にしてなくても、周りは凄く気になるんだ。

だって、俺知ってるんだぞ?
ゾロが怪我すると、ゾロよりもルフィの方が痛そうな顔をする事。
怪我した後、ゾロがルフィの傍に行って、謝ってる事…心配させた事を謝ってる事。
だったら、最初から、怪我なんかしなきゃ良いんだ…本当は。

「俺は医者だから、ちゃんと治療するぞ? でも患者が言う事聞かなかったら治らないんだ」
「そうだな」
「俺は、ちゃんと自分の仕事するから、ゾロもちゃんと言う事聞いてくれなきゃ駄目なんだ」
「…」

俺は、包帯を思い切りギュ〜って縛って、呟いた…だって、此れは本心だから。
俺が、どんなに頑張って治療しても、患者が言う事聞いて、身体の事考えてくれないと駄目なんだ。

「…そんなのだったら、俺がココに居る意味も無いからな」

俺がそう言うと、ゾロは一瞬息を止めて、そして小さく笑った。
大きな手が伸びて来て、暖かい手で頭をグリグリ撫でられる…優しい顔で。
…不器用なゾロの笑った顔は、何となくドクターに似てる気がするんだ。

「悪かった…以後気を付ける」
「ホントだな」
「あぁ」
「絶対だぞ? 約束だからな? もし破ったらルフィに言いつけるぞ」

ナミに教えて貰ったんだ、ゾロに言う事を聞かせたかったら、ルフィの名前を出せば良いって。
ナンダカンダで、船長の命令には逆らえないゾロだから…どんな事でも聞いちゃうからって。

丁度良い所に、ルフィがコッチに歩いて来た。
さっき迄昼寝してたから、ゾロとサンジが喧嘩してた処は見てない…だから、ゾロの怪我も知らない。
一瞬だけ、痛そうな顔をして、でもその後直ぐに、ルフィは何時も通りに笑った。

「何だ、ゾロ。又サンジと喧嘩したのか?」
「…うるせぇよ」
「ねぇルフィ、ゾロがちゃんと安静にしてくれないんだ」
「…おい、チョッパー!?」
「まだ前の傷も治ってないのに…ほら」

俺は、ゾロの腕を掴んで、ルフィの眼の前に突き出した。
ごめんね、でもゾロってば本当に言う事聞いてくれないんだ…だから、最後の手段。
…ルフィは、ゾロの傷を見ると、怒った様に頬を膨らませた。

「ゾロ、駄目だぞ。チョッパーの言う事聞かないと!」
「…」
「じゃないと、俺、ゾロの言う事聞かないからな!!」

…ちょっと違うと思うぞ、ルフィ…。

でも、何故かゾロには効いたみたいで、大人しく首を縦に振って頷いた。
俺は其れが可笑しくて仕方無くて、思いきり笑ってしまうと。
不機嫌そうな顔のゾロに羽交い締めにされちゃって、頭をグリグリされてしまう。

判ってるよ、本当は。
俺が居るから、怪我するんだよな。
大抵の怪我なら、俺が治してあげれるもんな。
安心して、怪我出来るもんな。
だって、俺が全部治しちゃうから。


だから、俺は、消毒液の匂いの腕の中で、笑った。


   〜Fine〜


 *ちょっと違うぞと突っ込みながら、コケて体が傾いたチョッパーが浮かぶようです。
   一條様は情景描写や仕草、表情でもって心情を鮮やかに描いてしまわれる、
   とっても憧れのテクをさりげなく駆使する方で。
   毎日の怒涛のような更新には、もうもう感服するばかりです。
   (しかもクオリティは全く落ちない。ただもう尊敬vv)
   我儘なリク(それも、微妙に権利なかったのに)を応えて下さって、
   本当にありがとうございましたvv

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