記念日 5
 

 
 よく晴れたある日の事、航海中のメリー号の甲板が突然に酷く騒がしくなった
「よぉし!  行くぞ〜〜っ!!」
「おうっ!!」
「おれも、おれもっ!!」
 中甲板ではデッキブラシを持ったルフィとウソップとチョッパーが走り回っている  泡だらけになってはしゃぐ其の姿は、海賊と言うより悪戯盛りの悪ガキである  端から端までの競争や、チャンバラごっこになってしまった
「もう・・・  やっぱりね・・・」
 此の三人に船全体の掃除を言い付けた結果は想像していたけれど、其の通りになったからと溜息を吐いたのはキッチンから出て来たナミ
「あら、ふふっ・・」
 同じくキッチンから出て来たロビンが、またなのねと其の隣で笑う
「笑い事じゃないわよ、ロビン!」
「でも、本当に楽しそうよ?」
 楽しいかどうかは問題ではない事なのだが、彼らを見ていると思わず笑みが零れるロビンである
「するべき事は一杯なのよ、今日は  遊んでる暇はないわ!」
 ナミはそう言って、三人に向き直り叫ぶ
「あんた達、遊んでないでさっさと済ませて!!」
 だが、三人とも一言、
「「「えーっ!?」」」
と反論し、効果がない
「仕事は其れだけじゃないから言ってるのよっ!!」
 一層怒りを顕わにして言えば、
「鬼だな!」
「悪魔だ!」
「魔女だ!」
と小声で言っている・・・
「あ・ん・た・た・ち!!」
 聞こえたわよと言おうとした其の時である
「どうかしましたか?」
 食事の仕込みをしていたサンジがおたまを手にしたまま来て問うが、眼下の光景とナミの表情を見た途端に大声になる
「何やってんだ、お前ェら!!  真面目に掃除しろっ!!  メシ抜きにするぞ!!!」
 食事抜き  ・・・其れだけは困ると、慌てて掃除をし始めた

 数時間後、
「終わったぞ!!」
とキッチンに来たルフィ達に、ナミが次の指示をする
「ルフィはどっかで寝こけてるゾロを起こして一緒に洗濯なさい  もう何日もしてないから一杯溜まってるでしょ?」
「いいよ、めんどくせェから・・・」
「駄目よ!!  折角良いお天気なんだから!!  其れが終わるまで此処には入れないわ!!」
 終わらなければ食事抜き  と、ギッとした眼で言われた訳で・・・、ルフィは渋々キッチンを後にした。其れを見送った後、ウソップとチョッパーに言う
「ウソップは飾り付けを手伝って  チョッパーには此の部屋の準備が済むまで見張り役を頼みたいの」
「準備?  見張り役??  って何???」
 チョッパーが首を傾げた
「今日、ルフィの誕生日なの  ルフィが喜ぶ事を秘密で用意しようと思って、ね?」
 ウィンクしてクスリと笑って見せる  と、チョッパーは納得した様だ
「宴だ!」
 そう、何かに付けては宴だ宴だと騒ぐ船長なのだ
「うん  でも準備途中に見られたら秘密になんないでしょ?  だから其の見張り」
「解った!  おれやる!!」
 責任重大と思う事を任されると嬉しいらしいチョッパーである  不意にドアが開けられても室内が見えないように大男に変身して仁王立ちになった



「ゾ〜ロ〜!  ゾロ〜〜!」
 先程船のほぼ全部を掃除したけれど、ゾロは何処にも居なかった  だが、今日唯一行っていない場所があると気付いたルフィ
「よっ!!」
という掛け声と共に両手を上に“ぐいん!!”と伸ばし、
「ほっ!!」
と飛んで見張り台に到着した
「あ、此処に居たァ♪」
 縁を背凭れにして、愛刀三本を抱えて寝ている
「起きろ、ゾロ!」
 傍にしゃがみ、緑の頭をぽんぽんと軽く叩きながら声を掛けるが、無反応である
「んん?」
 ―――おっかしィなァ・・・
 何時もなら、「お、朝か?」と起きる筈  否、自分が此の場に来た時に既に寝ては居ないだろう  そう考えて気付く
 ―――ひょっとして・・・
 ゾロの顎目掛けて頭突きを一発!  すると、鈍い音が連続して聞こえた
ゴチン!!
ガンッ!!
「ルっ、フィ、・・・てめ・・っ!!」
 顎と後頭部を押さえて睨みを利かすゾロに、勝ち誇った様に返す
「やっぱタヌキだった!  ししっ!!」
 直後、疑問が湧く
「何で寝た振りなんかしてたんだ?」
 らしくない行動を取った理由が知りたいと言われて、抱えていた愛刀達を横に立て掛けて頭をガシガシ掻いて口を開く
「驚かそうと思っただけだ・・・  今日、誕生日だろ?  おれが起きなきゃァ、お前が覗き込むと想像してだな・・・」
 だが、ルフィが妙な処で鋭いという事を考慮していなかった為に其の予想が外れてしまい、読みが浅かったと続けるゾロ
「ん〜?  よく解んねェからさ・・・、途中からやり直しても良いか?」
 何だか照れ臭そうに言うゾロで、肝心な言葉を使ってくれないから、ゾロがしようとしていた事をやって欲しいと言う
「あ、あァ・・・」
 まどろっこしい説明をするよりも、確かに其の方が早いと判断し、再度同じポーズで眼を瞑った
「起きろ、ゾロ!」
 先程と同じ口調で続ける
「んん?」
 そして、先程とは違う行動に出る
「ゾロ?」
 ドキドキしつつそっと、顔を近付けて覗き込んでゾロの行動を待つと、彼は突然パチリと眼を開け、触れるだけの口吻をしてから少し笑んで言う
「おれからの誕生日の祝い、受け取れよ?  つっても、一つしかねェが・・・」
 少し苦笑いになって言うゾロに、大真面目な顔になるルフィ
「一つだけじゃねェぞ!?  ゾロと一緒の時間だろ?  ゾロの優しい匂いだろ?  ゾロの温もりだろ?  後、心も!!!」
 其れを聞いてふっと笑んで、ルフィの頭にある宝物を外し、自分の三本の宝物と一緒に置きながら訂正した
「そう、だな・・・  おれがお前にやれるもの全てやる  今日だけじゃなくて、未来永劫・・・」
 そうしてキスをして、抱き締め合って迎えた二人だけの時間





 暫く興じた時間の後、突然に重要な事を忘れていた事に気付いたルフィで・・・
「あああああァっ!!!」
「どうした!?」
「すっかり忘れてた・・・  ゾロとおれ、溜まってる洗濯物を片付けねェとメシ抜きになるんだった・・・・・」
 真っ青になって“しまった!!”と言うルフィと、年に一度の誕生日に食事抜きでは洒落にならないと慌てたゾロだったけれど・・・、
 彼らの『特別記念日』に、今日という日が新たに加えられて嬉しかったので、思ったよりも早く片付けられたという事らしい






ありがとうな  ゾロ・・・
今日、おれが「おめでとう」の言葉の代わりに貰ったもの全部
未来永劫手放さねェからな・・・・・







20040505 WED PM UP   byM


  *ヒロ様の“記念日”シリーズは、本当に彼ら二人がただただラブラブで、
   拝見してるとコチラまでトロリンと蕩けてしまう逸品でございますのvv
   お忙しくて大変なのに、今年もUPしてくださって嬉しいですvv
   大切に拝見いたしますね? ありがとうございましたvv
   ではではvv


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