欲しかったものは・・・  * kinako様・ゾロ誕DLF*





朝、目が覚めると―――満面の笑顔のルフィがいた。


「ししし。 あはよ、ゾロ」
「おっ・・・おう・・・」


どうやらルフィは、俺の目が覚めるまでずっと傍に座って待っていたらしい。
俺が目を覚ましたのを確認すると、それはそれは嬉しそうに身体の上に乗り上がり、擦り寄ってくる。
まるで散歩を強請る犬のようだ。

しかし、珍しい事もあるもんだ。
何しろ普段なら、自分が目覚めた時点で俺の事を叩き起こすのだから・・・起きるまで待っているというのは、とても珍しい。


「なぁなぁ、メシ出来てるぞ? 食いに行く?」
「は・・・?」
「だから、メシ」
「お前、食ってないのか?」
「うん。 ゾロん事待ってた」


見たところかなり前から起きていたルフィであると思われるのに、ご飯を食べずに待っていたとは、ますます以て珍しい・・・いや、オカシイ。
何しろ朝 目覚めた時点で、既に極限状態まで腹が減っているヤツなのだ。
まず何を措いてもメシだろう。
仮に“ゾロが起きるまで待て”と言われたのであれば、何の躊躇いもなく俺を起こした事だろうに。


ゾロは、寝起きの頭で考えたが、どう考えても思い当たる節が無い。
ぐるぐると想いを廻らせていると、澱んでいる思考回路をまたもやルフィの言葉で寸断された。


「なぁ・・・邪魔臭かったら持って来てやろうか?」
「あ・・・?」
「持ってきてやろうか・・って、言ってんの」
「いや・・・ちゃんと食いに行くが・・・―――ルフィ?」


ゾロがソファから身を起こすと、ルフィはさっと立ち上がり、昨夜脱ぎ捨ててあった靴をそっと足元に揃えた。


「どうぞ」
「おい・・・お前、何してんだ?」
「履かしてやろうか?」
「は?」


ルフィはニッコリと心底嬉しそうに笑い、ゾロの足に靴を履かせた。
一方ゾロは、何が何やら訳が分からず・・・ただ呆然とされるがままになっていた。


「はい、出来た。 じゃあメシ食いに行こ?」
「あっ・・・あぁ」


導かれるまま、差し出された手を握り立ち上がる。
少しばかり自分の目線の下にある顔を訝しげに覗き込めば、ルフィは何やら思い出したように小さく声を上げた。


「ゾロっ・・ちょっと待って」
「なんだ?」
「おはようの“ちゅう”すんの忘れてた!」
「は?」


さも当たり前のように告げられた言葉を頭の中で理解するより先に、ゾロの唇には柔らかい感触が宛がわれ、ちゅっと小さく音を立ててそっと離れた。


「ししし。 さ、メシ食いに行こ!」
「・・・・・・・・・・」


こんな朝から積極的なルフィなんて初めてだ。
いつもなら“朝からサカんな”と言って怒るのに・・・


ゾロは、もしかしたらこれは自分の都合の良いように作られた夢ではないかと思った。
しかしそれでは余りにも悲しすぎる・・そう思いなおして、ぎゅっと頬を抓ってみる。


「ってぇ・・・」
「どしたんだ? 頬っぺた痛いのか?」
「いや・・・何もない」


痛みを感じるのだから夢ではないのだろう・・・しかし―――


「お前・・・どうしたんだ、一体?」
「んん? どうもしねぇよ?」


明らかに普段と違うルフィは、明らかに普段どおりの返事を返した。









「はい。 ゾロ、あ〜ん」
「おい、待て」
「んん? 食わねぇの?」
「食う。 食うけど・・・なんでお前がそんな事すんだよ」


ゾロとルフィがキッチンに行くと、他のクルー達も勢揃いしていた。
そんな中で、ルフィはゾロの向かいに座ると、当たり前のような顔をして世話を焼き始めたのだ。
さすがのゾロも、これには面食らってしまった。


「良いじゃん・・・食わしてやろうとしてんのに」
「良くねぇ・・・大体、こんな―――」
「みんながいちゃ、恥ずかしいだろうな」


ニヤニヤ笑うサンジの一言に、ムッとして口を開きかけた―――瞬間。


「そうね。 みんなの前じゃ恥ずかしいわよね」
「じゃあ、ここは船長さんと剣士さんの2人にしてあげましょうよ」
「そうだな、うん、それが良い」
「何? どーすんだ?」
「とりあえず俺達は、邪魔にならないように出かけるとするか」


口々に勝手な事を言い始めるクルー達に、ゾロは苦い顔をして言った。


「ちょっと待て・・・出かけるって、どこへ?」
「あら・・・ルフィ、言わなかったの?」
「あっ、忘れてた!」
「一体、なんだ? 朝っぱらからお前らは」


何か知らんが、コイツらみんなグルらしい・・と、ゾロは眉間の皺を深くした。


「丁度良い感じの島に着いたから、みんなで買出しに行くのよ。 アンタ達は留守番」
「島・・・?」
「やだ、気付いてなかったの?」


よくよく見れば、船は動いていない。
いつの間にやら島の入り江に係留しているのだ。
目が覚めてから、ルフィの普段と違う行動に気を取られっぱなしで、全然気付かなかった。


「ししし。 ウッカリさんだな、ゾロは」
「お前こそどうしたんだよ? 留守番させられるってのに、ご機嫌じゃねぇか」


そもそもコイツが、留守番だと言われて大人しいとはオカシすぎる。


「まぁまぁ、良いじゃねぇか。 じゃ、俺らは行くからな。 後は頼んだぜ?」
「おうっ! サンジ、任せろ!!」


訝しげに目を細めたゾロを尻目に、サンジはバンッとルフィの背中を叩くと、ニッカリと笑って他のクルー達と船を降りていった。







「なぁ、ゾロ! 今から何する?」
「何って・・・」
「してほしい事とか、ねぇか?」
「してほしい事・・・」


結局、ルフィに食べさせてもらい食事を終えたゾロに、ルフィは目を輝かせて言った。


「別に・・・ねぇ」
「え〜・・・何かあんだろ? なぁってば」
「ねぇよ」
「絶対あんだろ? なぁなぁ〜」
「ねぇっつって・・・・・あ゛?」


しつこく食い下がってくるルフィを、羽交い絞めにしようとして背中に回した手に、何かががさリと触れた。


「紙・・・?」
「んん? あ、サンジが貼ったんだな」



『今日の晩餐には期待しろよ。 コイツは夜までの繋ぎだ、食っとけ』



「晩餐って・・・何があるんだ?」
「ゾロ・・・もしかして誕生日の事、忘れてないか?」
「誕生日・・・誰の?」
「ゾロの」
「は?」


そうだったっけ・・・?


「ひゃ〜・・・自分の誕生日忘れんなよな〜」
「お前には言われたくねぇよ」
「なんで!?」
「お前も忘れてたじゃねぇか」


ほんの数ヶ月前に。


「そーだっけ?」
「そうだよ」
「ゾロこそ、俺の誕生日覚えてるくせに・・・自分のも覚えとけよな」
「お前のは特別だろ? だから忘れないんだ。 自分のは重要じゃねぇからな」
「う゛っ・・・」


アッサリと男前なセリフを言われて、ルフィは頬を染めた。
その表情に気を良くして、ゾロはルフィをひょいと抱き上げると、部屋へと向かった。


「どーすんだ?」
「そういう事なら有難く頂戴しとくかな」
「んん?」
「サンジも“繋ぎに食って良い”っつったからな」
「ししし。 そーか、俺食われるのか」
「嫌か?」
「ん〜ん。 食って良いぞ。 ゾロ、誕生日おめでとう」
「ありがとよ」


バタンと音を立てて閉じられたドアは、いつまで経っても開かれる事は無かった。







「なぁなぁ、2人とも出て来ないな〜」
「んもぉ〜・・・サンジくんが紛らわしい事するからでしょう?」
「まさかそんな解釈するとは思ってなかったんですよ」
「そりゃ、おめー・・・ルフィの背中に貼らずに、これに直接貼っとけよ」


キッチンのテーブルの上には、大皿に盛られたサンドイッチ。
本来の“繋ぎ”だったはずのもの。



すっかり準備は整ったというのに・・・2人が部屋から出てくる気配は一向にない。
主役のいないパーティというのもどうだろうかと、みんなが頭を抱えたが、ふとロビンが口を開いた。


「剣士さんには一番良いプレゼントだったんじゃなくて?」
「あ〜・・・まぁ、そうですかね」
「仕方ないわね・・・ほっといて食べちゃいましょう」
「良いのか?」
「チョッパー、気にするな。 バカはほっとくに限る」


やがてザワザワと賑わい始めたキッチンで、ロビンはくすりと笑って小さく呟いた。


「剣士さん・・・案外確信犯だったりしてね・・・」







「ゾロぉ〜・・・腹減った」
「あぁ・・・そういえば、アイツら帰ってきてるのか?」
「分かんねぇ・・・一体、今何時なんだ?」
「知らねぇ」


ついつい夢中になってしまったが・・・気付けば外も暗くなっていて、結構な時間が経ってしまっているであろうと思われた。


「ゾロしつけーんだもんよ・・・あ゛〜・・・まだかな〜ご馳走だって言ってたけどな〜・・・」
「とにかくキッチンへ行くか。 帰ってなくても、作り置きのサンドイッチがあったはずだ」
「そんなのあったっけ? 俺、気付かなかったぞ」
「あ〜・・・お前、俺の方ばっかり見てたからな」
「だって・・・ゾロの為に何かしたかったんだもんよ〜・・・」


半ば拗ねるように頬を膨らませたルフィを抱え上げると、手早く服を着せてやる。
ルフィは、くすぐったそうに首を竦めて笑うと、ぼそりと呟いた。


「なぁ・・・ほんとは何か欲しい物とか・・あった・・・?」
「あ゛?」
「俺、結局何も用意出来なくて・・・それで、だったら何か役に立ちたいなと思ったんだけど・・・」
「俺が欲しい物っつったら、お前しかねぇだろ」


アッサリと言ってやったら、ルフィの顔がみるみる真っ赤になって、格別の笑顔を見せてくれた。


「ゾロの服は、俺が着せるからな」
「おう、任せた」










「やっぱり・・・」
「ん? ロビン、何か言った?」
「いいえ。 それより、そろそろ剣士さん達が来そうよ」
「あら、そうなの? よし、ウソップ! ドアが開いたら、ゾロの顔面目がけて花火を一発お見舞いしてやるのよっ!!」
「え゛っ!! 俺がか!?」
「当たり前でしょ? 他に誰がいるのよ!? サンジくん! 今日買ったワイン開けるわよ!」
「はぁ〜い、ナミさんっ」



祝いの宴は始まったばかり。


大きな爆発音と、悲鳴が上がるまで・・・後、数秒―――




ロロノア氏生誕記念DLFですー;;;(こんなもん要らねぇーっ;)

「貰っちゃおうかしら・・ふふふ」と仰る太っ腹な心意気をお持ちの方はどうぞ;;;

2004.11.10up


*強奪作品第一号は、kinako様から頂戴いたしましたvv
 相変わらず、ナチュラルに甘い二人ですvv
 ありがたく頂戴いたしましたvv
 大切に愛でさせていただきますね? うふふのふvv

kinako様のサイトHeart to heartさんはコチラvv ***


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