すきな季節

 
おれが一番大好きな季節は冬だ。
寒いけど、好きだ。
雪が好きだ。
真っ白できれいで好きだ。
冬はみんなで集まって暖まるから好きだ。

夏も好きだ。
おれの生まれた町はいつでも夏って感じで、一番馴染み深い。
何より海に似合う。
暑くって、眩しくって、空も雲も木も花も虫も、みんな活き活きしてるから好きだ。

春も好きだ。
ぽかぽか暖かくって、心地いい。
花がいっせいに咲いてきれいだ。
動物とか虫とか、みんな起きてくるから賑やかになって好きだ。


でも最近、冬を追い越して一番になった季節がある。

   秋だ。

うまい食い物がいっぱいだからじゃない。
そりゃうまい食い物がいっぱいは嬉しいけどな。


   ゾロが、秋生まれだから。


それが、秋が一番になった理由。
おれがゾロの誕生日を知ったのは、ナミが仲間になってから。
秋が好きになったのは、サンジが仲間になってから。
キッチンで最後まで一人でおやつを食べていた時で、コックのサンジだけが一緒にいて、そん時色々話してたら、サンジが言った。
『なあ、ルフィ。好きな相手が生まれた日ってのは心から祝ってやりたいって思わないか?』
『おう。そーだな!』
とおれは答えた。
『だよなぁ。その日に生まれてなきゃ、出会う事すら出来なかったんだからな。
 ナミさんが生まれたのは夏だな。だからおれは夏は好きだぜ。
 春でもない、秋でもない、冬でもない、夏にナミさんは生まれたんだ。
 出逢えた事を夏に感謝したいくらいさ』
珍しく真面目っぽくサンジは先に洗っていた食器を拭きながら、そう言った。
サンジが言うように考えてみた。そしたら、今まで冬が好きだったけど、何だか突然、もの凄く秋が好きになった。

秋。
ちょっと寒いけど、どこか目に入る風景はあったかい。
――それって何だか、一見恐そうに見えるけど、ホントは優しいゾロみたいじゃねェか?
木の葉っぱが黄色くなっていく。
――それは、ゾロのピアスの色みたいな色。ま、ゾロのピアスの色の方がきれいだけどな。
黄色から赤くもなっていく葉っぱ。
――それは、普段は黄色みたいに、光みたいにあったかいゾロが、戦いになると熱く燃えてかっこよく変わる姿そのものだ。
誰もが認める秋の特徴。
――それって何だか、ゾロそのものじゃないか?

サンジとナミってヘンなヤツらでな、サンジが何かおれに"伝えようとしている"事があったりする時って、ナミもおれに言うんだよな。
おれの誕生日が五月で、「ぎりぎり春ね」と続けてナミがおれに言ったのは、顔がにやけるくらい嬉しい事だった。
『あんた達って、二人してちょっと欠けてる処があるけど、お互いでそれを補ってるみたいね』
と言った。『ま、ゾロは一度丸くなってまた極端に突き出ちゃった処があるけどね』とも言った。
『少なくとも、ゾロにはアンタはもうなくちゃならない存在になってるわね。
 欠ける事は考えられない。
 あんたも、ゾロがいなきゃきっと一人で突っ走る事だって出来ないと思うわ。
 突っ走ってくたばるのがオチよ。
 だってゾロ以外にはあんたをフォロー出来るヤツなんていないもの』

おれ達の誕生日がそれを証明してるみたいだってさっ。

冬と夏が正反対であるように、秋と春も正反対だ。
五月から半年後が十一月。――正反対。
ゾロに足りないものをおれが持っていて、おれに足りないものをゾロが持っていて、二人が揃うとやっと一つになる。って、ナミが言ったんだ。
『でも正反対なだけじゃなくて、よく似てる処もあるわ。似てるって言うより同じって思うくらいよ』
同じところも持ってるから、全く正反対同士でも敵から"相棒"なんて言われるくらいに息が合うんだって、ナミはそう言ったんだ。

そんな風にナミが言うなら間違いはない。
けど、やっぱりゾロとおれは同じ人間じゃない。
他人だ。
だから、ゾロが生まれた季節がおれは好きなんだ。
秋――ゾロをこの世に生み出してくれた季節。

真っ白な雪が降る冬。
雪がいっぱいあると幸せになれる。
何であんなに好きだったのかなァと考えてみると、おれの生まれた町が暑かったから、滅多に雪が降らなかったせいかもしれない。
平凡な所で、宝物を見つけたみたいに嬉しくなった。好きだった。それって、暑いのと正反対だから……?
けど今はやっぱり――。


「ゾロォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「!!」
後甲板で軽く腹筋していたゾロにおれはダイブした。
首に腕を巻きつけてゾロ捕獲完了。
ゾロは汗臭かったけど、嫌いじゃない。だってそれだけゾロが頑張ってるって事だもんな。
いつだったかまるでバケモノみたいな扱いをナミはしたけど、それはゾロの努力の賜物だ。
いつか大剣豪になるんだもんな。海賊王になったら、その時はおれの隣に大剣豪のゾロがいるんだ。
「……ルフィ…っ、いつかおれの内臓を潰す気かッ?」
怒鳴ったせいでゾロの胸が上下した。その感覚が何だか面白かった。
「これくらいでやられてたら大剣豪になれないぞ!」
「……わかったよ、好きにしろ…ったく……」
「んん!しっしっしっし!!」
深々とゾロは息を吐いて、おれを体の上に乗せたまま力尽きた。
ベッドと化したゾロの胸に頬を乗せる。帽子がずれる。力強く脈打つゾロの鼓動が聞こえた。
ドッドッドッドッドッドッ。
今さっきまでトレーニングをしてたから鳴るのが速い。
生きてる証のゾロの命の音。
「ん…」
気持ちよくて、思わず声が出るとゾロが右手を上になったおれの頬に添えてきて、身動きした。おれはゾロに顔を向けると、少し頭を起こして覗き込んでくるゾロと目が合った。
「どうかしたか?」
「んーん」
とおれは笑った。

   「ゾロ」

   「ん?」

   「生まれてきてくれてありがとな」


大好きなゾロ。
一緒にいたい、とか、一緒にいてほしい、とか、そんなのもとっくに越してしまって今じゃ"必要"な、欠けてはならない存在。
たくさんのヤツがいる中で、出逢えたゾロ。

おれは助けてもらえなきゃ生きていけない自信がある。
おれが海で溺れたら、仲間が助けてくれる。
挫けそうになっても、負けそうになっても、負けても、おれは自分一人でも大丈夫だけど。
仲間を任せておけるのは、ゾロだけだ。

そんなゾロが生まれてきてくれた秋。
早く来ないかな。
ゾロが生まれてきてくれて嬉しいんだって事、ゾロに伝えたい。
大好きなんだって、伝えたい。


「ゾロと出逢えて、おれしやわせだ」
どこか不思議そうにゾロはおれを見つめる。
ん〜…うまく伝わらなかったかなぁ。
おれが唐突に言ってもゾロだけは解ってくれる事が多いけど、いくら何でも理解出来ない事はあるだろうし。
他人だし。
そう、他人だ。だから近づきたい、とか思うんだよな。
んっと、何て言えばいいのかな?
それとも何かする?
そんな事を考えて唸っていたら。
頬に添えられたゾロの手に頬を包まれた。
啄ばむようにキスされた。
ゾロが離れて、ぱちくりとおれはゾロを見た。
優しい目で不適に口元で笑って、
「そう言ってくれるのはお前くらいだな」
とゾロは言った。
――よかった。ちゃんと伝わってた。
「ししし!」
嬉しくておれはちょっとだけゾロの体を這うように上る。ゾロと額をくっつける。にっ、と二人同時に笑う。ゾロの両手に頬を包まれて、おれも両手でゾロの頬を挟んで、引き寄せられて、また唇を重ねた。

温かさ、ゾロのちょっと汗が混じった生きている匂い、おれ達二人の吐息が一つになって、心地良くて、おれはたまらなく幸せを感じる。
頬を包むゾロの手から、唇から、ぴったりくっついた体から、ゾロの存在が、ピースがはまるように埋めておれを満たしてくれる。
角度を変えてゾロがキスを求めてくる。
ゾロの優しさ、おれのために一生懸命になってくれる心の暖かさ、真っ直ぐにおれに向けられる想い、全てが伝わってくる。おれも伝える。
上ってくるように何度もゾロはおれの唇を何度も啄ばんだ。その内上下が逆になって、ゾロがおれに被さりながらキスを交わす。おれはゾロの背中にしがみつきながらゾロとキスをする。


最近、おれが一番好きになった季節。秋。
グランドラインには夏島春島秋島冬島がある。
いつか秋島に行きたいな。
ゾロが生まれた季節がいっぱいの島。


   おれが好きな季節は――秋。
   ゾロ、お前が生まれた季節だから。
   お前が生まれてきてくれて、おれは幸せだから。
   おれは秋が一番好きだ。





End.


 *またまた浅葉さんが、こんなに可愛いルフィのモノローグをお届けくださいました。
  ゾロと出会えて幸せだと、そんな温かでくすぐったい気持ちが、
  こちらにまで届くようなSSです。
  ありがとうございますvv


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