「毛布」

 
冬になるとどうしてこんなに体温が優しくなるんだろう。




「毛布被っとけよ。肩冷やすと風邪引くって」
いつもの土曜日からのお泊まり。
剥き出しの肩で、深夜の番組に見入る。
「おう、サンキュウ」
視界を遮るように頭から毛布が落ちてくる。
もぞもぞと頭を出して、顔だけ出す。
暖かい。
さすがにパンツ一枚でいるのは肌寒い。
内側から毛布をぎゅっと掴んで首の隙間まで埋める。
そして再び、画面に戻る。
大した内容のものではないけれど。
しりとりでとある県に行くってやつ。
全然辿り着けない、それどころか海外にまで飛ばされていて。
暇な時にちらほら見ている内にハマってしまって。
見逃せなくなった。
「・・・・」
しりとりとしてまた違う場所、愕然とするその彼の顔が失礼だけど面白くて笑ってしまう。
まただめぢゃん。
頑張れよ、と思いながら一方では終わって欲しく無いとも思っている。
我が儘な視聴者の気持ち。
「ルフィ・・・なんかいつも見てるな、これ」
ベットに座っている俺の前にお茶を煎れてくれる。
ゾロのお茶、おいしいんだよな。
毛布から手を伸ばして、湯呑みを取る。
暖かい。
手を出した隙間から冷たい風が入ってくる。
でもゾロのお茶があるから大丈夫。
「だってよ、ここに泊まるの大概土曜日だろ?俺、殆ど毎週見てるから、ゾロがいつもって云っても
不思議ないよ」
ここ最近は土曜日泊まりが当然になってきてるから。
仕方ないです。
「そうか、そうだよな」
毛布に包まる自分の横に腰掛ける。
自分はまだ殆ど裸なのに、ゾロはジーンズにシャツ着てる。
テレビを見る俺の周りで色々片付けている。
なんか申し訳ない。
けれど俺はそう思うだけで。
何もしないんだけど。
「そうそう。ゾロも結構見てるからな」
「・・・お前見てるから、俺もつい見ちゃうんだよ」
「でも面白いだろ、これ?」
隣にある肩に凭れてみる。
2人きりだと何でも遠慮なく出来るからいいなあ。
「まあな」
テレビに向かう視線、ゾロの横顔。
少し首を動かして見上げる。
やっぱり恰好良いよなあ。
「・・・何だ?」
視線に気がついてこちらを向く。
「ゾロ、恰好良いなあって思ってただけ」
考えていたままの言葉。
どこから見ても恰好良いゾロ。
「・・・・」
なんて答えていいのか判らない、という表情。
俺がこういうと、いつも困ったような顔をする。
好きな表情の1つ。
ゾロが可愛いと思うから。
困らせたくて云う時もあったりする。
「そういう時は『ありがとう』とでも云ってかわせばいいのに」
多分しないだろうけど。
とりあえず提案。
「そういうものなのか?」
ゾロは格好良いのに格好良いって云われるのに慣れてないって最近気付いた。
こんなに恰好良いのに周りの人は誉めないのかなあ。
すごく不思議。
「そういうものです」
諭してしまう。
ちょっとえらそうに。
「じゃあ・・・ありがとう」
優しく呟くみたいな声。
どきり、とする。
小さな声だけど近くにいたから聞き逃さなかった。
時々こういう声を出す。
故意じゃないから余計にどきどきしてしまう。
「どういたしまして」
内心の動揺を隠して、返す。
こういう、特別な相手にしか見せていないゾロって云うのはかなりすごい。
出し惜しみしてる訳じゃないから余計に。
無防備なゾロは色んな意味で心臓に悪い。
またどきどきするじゃないか。
「・・・・」
気持ちを隠すみたいに、また画面に目を遣る。
けれど凭れた儘の体勢は首の筋に負担が掛かるからと頭を上げる。
肩と肩をくっつけたままで。
「・・・もう凭れないのか?」
ゾロがどうして、という顔をしてこっちを見る。
「首のこの辺が痛くなっちゃったから、止めただけ。首がつりそうになるから」
凭れていたいんだけどね。
体の都合。
「そうか・・・だったら毛布の中に入れてくれるか?」
「どうぞどうぞ」
ゾロの方の腕を上げて、彼の肩に毛布を掛ける。
けれど、毛布の大きさと2人分の空間にはちょっと足りなくて。
すきま風、ちょいと寒い。
「・・・なんか無理だな、これ」
「だったらよ、ちょっと毛布貸して」
自分の体に残っていた毛布を取る。
肌が晒される、寒さに鳥肌が立つ。
「寒っ・・」
何をするんだろう、自分の剥き出しの体を縮めて彼の動向を観察する。
自分の肩に毛布を掛けたゾロは、自分の後ろに座った。
そして腕と一緒に毛布が自分を包む。
後ろから抱き締められた状態で。
おお、これは暖かい。
「これで寒くないだろ?」
確かに暖かい。
晒されていた肌がゆっくりと暖かみを感じる。
ゾロの体温。
伝わる温もりがなんだか嬉しい。
でも、不満な点が浮上する。
どうしてゾロは服を着たままなんだろう。
肌でくっついた方がもっといいのに。
ということで不満を伝える事にした。
「ゾロ、服脱がねエの?」
確かに肌に触れるシャツ越しの感触もいいけれど。
やっぱりラブラブなんだから、それではつまらないし。
「・・・脱いだ方がいいのか?」
自分の左肩に顎を乗せて、聞かれる。
大きく頷く。
「おう。裸でくっついてる方がいいじゃねえか」
2人ともくっついてるならともかく、片方だけ裸なんてちょっと嫌。
例え、その後「もう一回」という羽目になっても、それでも。
裸でくっついていたい。
「分ったよ・・・ちょっと待ちな」
毛布の中の狭い空間でもぞもぞとシャツとジーンズを脱ぐ。
「あ、パンツは脱がなくてもいいです、それは」
それ脱ぐと、即アレになりそうだから。
ちょっと、ね。
「あ、そうなのか。はい・・・これでいいのか?」
背中にぴたりとくっつくゾロの肌の感触。
すげえ暖かい。
そして嬉しい。
「おう」
脇の下から腕が回されて、抱き締められた状態。
ダイレクトに伝わる温度。
くっついて溶けて、同じ温度になるのが判る。
馴染む体温。
「あったけえな、ゾロ」
なんか幸せだ。
すごく。
「そうだな」
1つの毛布なんか共有して、くっついて。
ラブラブ全開で嬉しくなる。
せっかくだから、もうちょっとラブラブ気分を満喫したいのでお願いなんかしてみる。
「・・・なあ、ゾロ」
「何だ?」
「この状態でさ・・・『好き』って云って」
正面切ってお願い出来ないから。
この体勢なら顔見えないから。
ちょっと甘えたなお願い。
「・・・云わなきゃ、ダメか?」
こういう単語を口にするのがあまり得意でないゾロは、最初の告白以来あまり云ってくれない。
だからこそ、だ。
「ダメ。聞きたい」
断言。
譲りません。
聞きたいです。
「・・・ちょっと待って、な・・・心の準備するから」
どんな準備だ、軽くつっこんでみたいけど黙っておく。
それでも云ってくれるなら待ちますよ。
眠たくなるまで。
「・・・・・・」
耳許で大きく深呼吸する音が数回繰り返される。
たかが好きっていうだけで、変に緊張してるゾロがなんか可愛い。
いつ云ってくれるんだろう。
待っている気持ちがどきどきをまた呼び寄せる。
「・・・・・・」
自分を抱き締めていた腕が1本消えて、頭を掻いたり目を擦ったり。
落ち着かない動作。
背中から伝わるゾロの雰囲気。
どんな顔してるか見たいな。
振り返ろうとすると、残った腕がぎゅっと遮る。
「顔、見せてくれよ」
「ダメだ・・・恥ずかしいから」
そんなこと云うと余計気になるじゃないか。
「云うから、前向いて、くれ」
なんか鼓動が増す。
ゾロもどきどきしてる?
「・・・・」
消えた腕が戻ってきて、また体を抱き締める。
ゾロの顔が近付いてきた。
そして。
耳許で本当に小さな声で云った。
「・・・好きだ」
途端に自分の顔がかあっと熱くなる。
うわあ、すげえ照れる。
ゾロの顔見られたくない気持ちが今になって判る。
すげえ恥ずかしい。
嬉しいけれど。
とにかく恥ずかしい。
どうしようどうしよう。
振り向けないし顔見られたくないし。
とりあえず。
「ありがと、な」
これしか言えないし。
お互いに照れて何も言えなくなった。
暫く黙ったまま、テレビを見ている。
内容は入ってこないけれど。
動揺を隠すみたいに、どきどきを落ち着かせるみたいに。
前を見てた。
「なんかよ、すげえドキドキしたんだけど・・・俺」
ゾロが小さく喋る。
「初めて告白した時より緊張した、なんか恥ずかしいな」
同じ気持ちだったんだ。
なんか、いいなあ。
「俺も、すげえドキドキした。ゾロよりドキドキしたぞ、絶対」
実際そうなんだけど。
いまだ治まらない鼓動を誤魔化すみたいにわざと、大きく云う。
「いや・・・絶対、俺の方が緊張してるって、ちょっとこっち向け」
否定する前に抱き締めていた腕が簡単に後ろに振り向かせる。
つい、俯く。
「ほら、手、貸してみろって」
取られた掌がゾロの首筋に当てられる。
血液の流れる感触、早いペース。
ゾロのどきどきが伝わる。
顔を上げて、彼を見る。
なんか。
顔赤いぞ、ゾロ。
「・・・ほんとだ。でも、俺だって負けてねえって」
いつのまに勝ち負けの問題になったんだろう。
けれど、彼の手を取って自分の首筋に当てる。
冷たい掌に、肩を竦める。
ゾロの手の感触。
伝わるよなあ。
「・・・似たようなモンだな・・・なんか可笑しいな、云う方も云われる方も緊張するなんてな」
お互いの首に手を当てて、笑う。
「本当に。俺だって、お願いしたのにこんなにドキドキするなんて思ってなかった。ありがとな、ゾロ。
そんなに緊張させちゃって、それからな・・・」
首に当てた手を頬に移動させて、ちょっと体を寄せる。
「俺もゾロのこと、好きだ・・よ」
今更なんだけど。
折角云ってもらったから、お返し。
そして、目を閉じて短いキスをする。
目を開ける。
ゾロの顔、やっぱり恥ずかしくてまっすぐ見れない。
慌てて体を翻し、再びゾロの腕を引っ張って、腕の中に納まる。
またドキドキする。
背中のゾロの体温。
触れた肌から心臓の鼓動が伝わってしまいそうで、少し心配。
何、今更告白してチュ−してドキドキしてるんだろう。
やだなあ、もう。
自分で掻き寄せた腕が、彼の力でぎゅっと自分を抱き締める。
暖かい。
って云うより少し、熱い。
「ルフィ・・・」
また左の肩に顎を乗せるようにして、自分の名を呼ぶ声。
少し作為的だ、これは。
低い優しい声。
俺がこうやって呟かれるのが弱いって知っててやってる、絶対。
「な、なんだよう」
抵抗してみる。
けれど、それが無駄な足掻きだって知ってる。
「可愛いな。お前は・・・」
「お前って云うなっていつも云ってるだろ」
ちょっと頑張ってみる。
別に2回目がしたい訳ではなくて、駆け引きってとこかな。
「はいはい、すいません。じゃあ訂正、可愛いな、ルフィは」
自分の意図を理解してか、ゾロは少し笑って言い直す。
名前呼ばれるの、本当に弱い、俺。
何回でも云って欲しいって思う。
「・・・ありがと」
褒めてもらってから、とりあえず。
ゾロみたいに困ってしまう気持ちなんだけど、ここで折れたら即、だし。
「どういたしまして」
ああ、笑ってる。
絶対そうだ。
嬉しそうな顔してるんだろうな、見なくても判る。
もう折れちゃおうかな。
でも、もうちょっと遊んでいたい。
「ゾロ、俺のコト、からかってるだろ?」
少し方向を変えてみる。
「いいや・・・からかってなんかいねえよ」
ゆっくりと喋る。
耳許で、って云うのがまた。
なんとも言えなくて。
「嘘だ、それ。絶対からかってる。俺が反応するの楽しんでるだろ」
笑いを堪えるみたいに、肩に乗った顎や触れた背中が揺れる。
ちくしょう、玩具にしやがって。
まったく。
「・・・そんなことは・・・あるかもなあ。だってよ、ルフィがあんまりにも可愛いから。仕方ねえだろ」
はいはい、そうですか。
って、肯定してるし。
「やっぱりからかってるんじゃねえか」
「そうです、からかってます」
事態を収拾しようとしている。
我慢の足りないヤツだなあ。
けれど。
思惑に乗るのは少し悔しいから。
「・・・ゾロ、もう一回したいのか?」
直球で攻めてみる。
「そうだなあ・・・ルフィが、したいって云うならしてもいいかな?」
そう来たか。
知能犯め。
「云ったら、するのか?じゃあ云わない。このままで充分だし」
云ってみようかな、と思ったけど。
また、例の『大変嬉しそう、けれどちょっと意地悪な顔』を見るのは悔しいので、もう少し応戦。
でも云ってるコトも本当。
ゾロの体温と毛布でかなりぽかぽかしてきた体はかなり眠気を誘う。
話をしていなかったら間違いなく、寝てしまう。
「・・・じゃあ、このまま横になって寝るか?」
ゾロからの提案。
なんか素直な対応、なんか企んでいないか?
少し疑ってしまう自分が申し訳ない。
けれど前科ありだから仕方ない。
「・・・・」
さて、どうしよう。
このまま寝てしまってもいいし、やっぱりもう一回致してもいいし。
困った。
云わないと言った手前、撤回するのもなんだしなあ。
なんだか、こうして簡単に折れられるのも難しい。
ゾロから『したい』とか実力行使に出てくれた方が自分的には本当に楽なんだけど。
今更しないで寝るのもアレだし・・・。
どうやっていったら丸く納まるんだろう。
彼の胸に凭れて抱き締められたまま、長考。
「どうする?」
問う声が来た。
もうすこし考える時間が欲しいんだけどな。
急かさないで、もう少しだけ。
「どうしよう」
思ったまま、呟く。
だって本当にどうしよう、だし。
ゾロはどうしたいんだろう。
もう一回聞きたい。
「ゾロは寝てもいいのか?」
もう返答次第で決定する。
考えるのなんか面倒になってきた。
「・・・正直にいっていいなら、したい。けど、ルフィが嫌なら無理強いはしない」
後ろから、ゆっくりと呟くような声。
そうか。
だったら。
「俺は、嫌じゃないよ」
背中を凭れさせたまま、返す。
嫌な訳無い。
「だから、する?」
別に促すつもりもないけれど。
求めてくれるなら、なるべく答えたいと思うし。
体を離して、ゾロの方に向ける。
毛布から出ないようにして。
「もう一回、しようか?」
なんだかすごく回り道して言わされた気もするけれど、まあいいや。
返事をするかわりに唇を塞がれる。
頭だけ毛布から出してるから唇は少し冷たくて、けれどその分唇を開く舌先は熱くて。
少しだけくらくらする。
「・・・・」
寒いから出したくないって思ったいた腕を伸ばして、彼の首に絡ませる。
肌に触れる空気は冷たいけれど、これから熱くしてもらえるからいいや、と。
自分の肩に引っ掛かっていた毛布を落とした。



致して熱くなった体をまたゾロは「風邪を引くから」と毛布で包む。
勿論、一緒に。
熱いけれど、妙に心地よくて。
今度は毛布の中で自分がゾロを抱き締める。
笑って「そんな風にくっつくと、もう一回するぞ」なんて云うけれど「明日にして下さい」と丁寧に
断った。
さすがにもう体が持たない。
出来る事なら何回でもするけれど。
ゾロ程体力がある訳ではないので。
疲れた体の出す信号を察知して「おやすみ」と云って目を閉じる。
毛布の中の自分より熱いゾロの肌の温度。
慣れてきたのが嬉しい。
頭をぽんぽんと撫でて、小さく「おやすみ」と返してくれるゾロの声。
ああ、これだけでもこんなに幸せだって思う。
耳の中に残るゾロの声を反芻しながら、大人しく睡魔に従う事に、した。




 


 Morlin.さんの3800番リクエストさんです。
 内容は「声と体温」というヒヨシ的萌ネタでしたが。
 なんだかただ甘いだけの2人になってしまいました。
 そして恒例の「パラレル書いたらガテン」(笑)だしっ。
 Morlin.さん、すいません。けれど愛を込めてガツン、と
 捧げさせて頂きます、ラブ〜♪ 有難うございましたっ。
 小説内のテレビネタは東海地方限定ネタで「ノブナガ」(笑)


*嬉しい〜いvv
 ちょいと一踊りしたいほど感激しておりますvv
 ヒヨシミミ様のしかも大好きな“ガテン系”のお二人を〜〜〜vv
 ありがとうございます!!
 もうもう、お素敵なのですよ、こちら様のゾロルはっ!
 私が拙くごちゃごちゃ説明するより、お宅へ伺って読んでいらして下さいませ。
 切ない恋心切々の“ガテン系”とか、
 保育士のルフィと教材の営業さんの堅物そうなゾロとか。(笑)
 どのお話を拝見しても、細やかな、そして切なくなるほど幸せ一杯な、
 それはもう愛しい彼らに出会えます。
 大事に読ませていただきますね?
 本当にありがとうございましたvv

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