仲間になったこと


「おい、ルフィ、何やってんだ?」
昼寝から起きたと思われるゾロが、暇そうに海を眺めているルフィに声をかける。
もちろん、位置関係はルフィが船首、ゾロがその傍らとなる。
「店番。」
素っ気ないルフィの返答。
「は?留守番の間違いだろ?」
ナミがいたら、『船番でしょ!』と二人の頬にロケットパンチ(?)をかましながらツッコミそうなやりとりである。
「わかってるなら聞くなよ〜、ゾロ。」
「何だルフィ、腹減ってんのか?機嫌悪いじゃねーか。」
「減った〜!!」
ゾロの指摘は的を得ていた。
最も、ルフィほどわかりやすい奴はいないといえば、そうだが。
「サンジ達、早く帰ってこないかな〜!」
「そうか、あいつら買い物に行ったんだったな……なぜか俺らはナミに残ってろって命令されたが。」
そう、騒ぎを起こしそうなルフィ、ゾロは強制的に船番に指名されたのだ。
ナミの心労を考えれば賢い選択であるといえるが、もちろん当の本人達は気付いていないのである。
「なぁゾロ〜!!腹減ったんだよ〜!」
「オレに言うなよ。」
再び空腹を訴えるルフィに、ゾロはそう答えるしかなかった。

「んぁ〜!!」
空腹をまぎらわすためか、船首の上でマヌケな声をあげているのは、無論ルフィである。
それと同時に大きく伸びをしているのだが、ゴムであるためこれまた大きい伸びなのだった。
そんなことはともかく、ゾロはというと、どことなくさっきまでとは違っている。
船首のついた船板の内側を背に、つまりルフィに背を向けて座っているのだが、
肩に立てかけた三本の刀に手をかけながらも、それを握っているというわけではない。
コツ、コツ、と柄の先がその船板に当たるのに、ルフィは何となく不安を感じていた。
「ゾロ?」
案の定、返事はない。
鈍感ではあるが、ルフィも何かに気付いたようだ。
「どーしたんだ?」
首をぐぐーっと伸ばして、ゾロの顔を覗き込む。
ルフィはおそらく真剣なのだろうが、
首を伸ばして目を大きく開けて心配されても、シリアスとは言い難かった。
「ぷっ……。」
ゾロは思わずふきだしてしまった。
「何だよ〜!ゾロ〜!」
「いや、何でもねぇよ。」
「何でもないわけない!!」
「は?」
なぜか強く断言するルフィに、ゾロは怪訝そうな表情になる。
「何の根拠があるんだよ?」
「何でもなかったらオレは気付かない!!」
「そんなこと、言い切るなよ……。」
それでも、胸を張って「ふんっ!!」とルフィは言う。
それは、ふざけているともとれるが、ゾロには真剣に言っていることがわかっていた。
「わかったよ、言うから、船首の上で胸を張るのはよせ……。」
「本当かっ!?」
と、ルフィが勢いよく振り返ったものだから、思わず体が海へと傾く。
「うわっ!」
『言わんことじゃない』と思う前に、ゾロはルフィの足をつかんでいた。
さすが剣豪であるだけの反射神経である。
「ナイスキャッチ!!ゾロ!!」
「おい。」
ノー天気なルフィの発言ではあったが、そこには違う何かも込められていたように思う。


「ルフィ、俺はずっと考えてたことがあるんだ。」
話の切り出しは、こんな感じだった。
先程の反省からか、それともゾロに止められたのか、
今度の位置関係は、二人共甲板に座って向き合っている、というものだった。
「『俺は海賊になって良かったのか』ってことをな。」
ルフィは決して先を促さずに、真っ直ぐにゾロを見ていた。
「だってよ……俺の目標は『世界一の剣豪』だ。それなのに海賊だなんて突飛すぎるし、悪評はごめんだと最初は思った。」
正座をしているところからしても、真剣な目にしても、ルフィはどうやら話は聞いているようだ。
聞いていたとしても、理解してるかまではわからないが……。

「だがな。」
低く言いながら、ゾロは右手を返す。
さっきまで肩にかけていたうちの一本、『和道一文字』の剣先をすっと上に向けたのだ。
「俺は、お前が『船長』で良かったと思ってるんだ。」
あの、ミホークの時の誓いのように。
「…………。」
ルフィは何も言えずにいたが、それをじっと見つめていた。
それは、ゾロの真剣な想いを感じて、その真意を受け入れようとしているようにも見えた。

ゾロは、普段口数は多いほうではない。
「『海賊王になる!』と言い切って、真っ直ぐに突き進むお前を見てると、俺も自分の野望に向かって迷わず向かっていける。」
そのゾロが自分の言葉を探して続けていく。

「だから、ルフィ……あの日、俺を誘ってくれた―――。」
ゾロは剣をすっと胸の前まで降ろし、
先程は握り切れなかったそれをぎゅっと掴む。
「仲間になれたこと、感謝してんだよ。」
感謝の、一言。
ゾロの言葉は、明るい空と光る海の空間の中で、しっくりと心に響いていく。


そこまで言って、ゾロはふぅとため息をつき、
「とまぁ、こんな真剣に語っても、例によってオチがあって、こいつは聞いてなかったりわかってなかったりすんだろーけどな……。」
そして、ちら、っとルフィに目をやり……。
「いや、ゾロ!!ありがとな!!」
「!」
海を象徴するかのような、ルフィの満面の笑顔。
「俺の予想裏切ってんじゃねーよ……。」
ゾロの悪態は、ルフィの屈託のない笑顔に流されていった。


「あの二人って、仲良いんだな……。」
いつの間に帰ってきていたのだろうか。
物陰には、同じくルフィに誘われた仲間の姿があった。
「ああ、一番古くから一緒のくされ縁だろーしな……。」
そうウソップに返したのはサンジ。
「そういえば、どうしてゾロは仲間になったのかしら……?」
「ああ、そういえばそうだな……ゾロは仲間よりも一人を好みそうだ。」
とナミとウソップ。
「オレは大方見当つくけどな……俺ん時みたいに、強引に誘ったんだろうよ。」
「え、サンジさんは、嫌だったんですか?」
「いや、ビビちゃん……『最初』はな。だっていきなり初対面の俺に『仲間になってくれよ』だぜ?意義唱えたくもなるさ。」
「ルフィさんらしい……。」
「ぐえっぐええ!!」
カルーも首を大きく縦に振って同意を示す。
「まぁ、私の時も……先に誘ったのは私だったけど、強引だったといえば、そうなるわね。」
「お、俺は……強引に誘われてない……。」
ナミの一言に、落ち込むウソップ。
「ああ、ウソップさん!!」
ビビの心配をよそに、サンジとナミは爆笑していたし、一方のルフィとゾロも、慣れないシリアスなんてしたせいからか昼寝に入っていたのだった。


夕食の時のことだった。
肉や野菜などのとれた大盛りの皿が並ぶ中で、今日の夕食にはなぜかルフィの好物(?)生ハムメロンがある。
これは、サンジの料理人としてのささやかな(豪華な?)サービスだろうか。
そんな中、ルフィが突如、生ハムメロンを片手に椅子の上に立ち上がった。
他の仲間が、「何だ」と料理の手を止める前に。

「オレは、みんなに感謝してる!」
『はぁっ!?』
ルフィの突拍子ない言葉と、仲間全員の即答。

「何言ってんだ、お前は。」
ゾロはツッコミを入れるが、さっきまでの経緯を知っているので、
ルフィが本当は『仲間になってくれたこと感謝してる』と言いたかったこともわかっていた。
また、他の仲間も昼の経緯は知らないものの、ルフィの直な行動はよく理解しているようだった。
「よくもまぁ……そんなことを恥ずかしげもなく言えたもんだ。」
「サンジくん、そこがルフィの良さでしょ。」
「お、俺様にもよさが……!」
「ウソップさんの良さ……?」
「ぐえっ……?」
ビビ、カルーの言葉にウソップはあごを外して落胆するが、ナミは構わずに続ける。
「ルフィのあの真正直さにはある意味敬意を表せるわ……。」
「確かにな……ありゃー、誰にも真似できねー。」
サンジの悪態混じりの賛辞に(シャレ?)ナミ、ゾロ、ビビ、カルー……そして、あごを戻したウソップも笑顔になる。

「おれ、海賊王に絶対なるぞー!!」
『船首に立つなぁ!!!』

だがその笑顔はつかの間のことで、
すぐにいつものようなツッコミへと変わったのだった。


『なぜ、仲間になったのか?』
もし、それを仲間に尋ねたなら。
『ルフィの人間性』があったからだと……
そんな答えが、きっと返ってくるだろう。
彼らの笑顔に、それを確信できる気がする。

*Fine*



   777カウントのMorlinさんからのリクエストです。
   リクエストは「ルフィ中心の明るい小説」だったんですが、
   Morlinさんも私も「ルフィ&ゾロ」が好きということだったので
   この二人を最初に持ってきたらシリアス(?)っぽくなってしまい、
   最後の方をリクエスト通り全員で明るくしてみたつもりなんですが……。
   大変遅くなってしまって、
   しかもリクエストに沿っていなくて、本当にすみません。
   こんなものでも、もらっていただけたら嬉しいです。
   設定は、ビビとカルーがいるので、
   リトル・ガーデンまでの航路での話のつもりです。

   この小説を書いている途中で、
   『ゾロは仲間になったことをどう思っているんだろうか?』
   とふと思ったんです。
   答えというか、本当のところはわからないんですが、
   後悔はしていないと思うんです。
   それを書きたかったんですが……難しいです。
   ルフィもゾロも、他の仲間もそれぞれ自身の夢、強い信念を持っている。
   だからお互いに仲間≠ネのだと思います。
   リクエストなのに自分の書きたいことを書いてしまってすみません。

   読んでくださった方、そしてMorlinさん、本当にありがとうございました!

                       2001年10月29日 スカイ



  *スカイ様とは、今年の夏休みにMorlin.が勘違いをして、
   無理から“ゾロ番へのリクエスト”をしちゃったことから
   縁づいてしまった仲でございまして。
   (リクエストはキリ番でしか受けてらっしゃらなかったんですね。)
   だのに、ずっとずっと気に留めてて下さり、
   こんなステキなお話をプレゼントして下さいました。
   ただでさえお忙しい方なのに、
   本当に優しくて真面目なお人柄の、
   Morlin.には眩しいくらいステキなお友達です。(あ、図々しい奴。)
   どうかこれからも仲良くしてやって下さいませネ?

スカイ様のサイト『Sky&White』へ**


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