■ 夏の王様 ■


無邪気な顔で寝息を繰り返す、可愛い夏の王様。

黒髪を潮風に靡かせて、握り締めた掌を僅かに広げて。
薄く唇を微笑の形に染めて…何の夢を見てる?
麦藁帽子を抱き締めたまま、どんな夢を見てる?
眠りながらクルクル表情を変えて…誰の夢を見てる?

ねぇ…其の夢の中に、僕等の姿はあるのかな。
君の見る夢の中で、僕等はどんな顔をしてるのかな。
僕等は…どんな声で、君の名前を呼んでいるのかな。

無邪気な顔で、寝返りを打つ…可愛い夏の王様。
向日葵みたく陽の笑顔を浮かべる、強気な王様。

コロコロと転がって行く麦藁帽子を捜してる指先と。
何かを紡ごうと動き出す唇と、微かに動く薄い瞼。
早く…其の眼を開いて、綺麗な眼に僕等を映して。

…君だけの声で、僕等の名前を呼んで。



T.ナミ

「…こんな処で昼寝して」

干乾びても知らないわよ…そうナミは小さく呟いて、しゃがみ込み。
黒髪に白い指を滑らせ、スルリとした感触に穏やかに眼を伏せた。
想像よりも幾分柔らかい幼い感触に唇を綻ばせて、指の隙間を見詰め。
ふと可愛い悪戯を想い付いた指先を、そぅ…と頬に滑らせた。
赤ん坊の様なフニフニした感触と、微かに漂う甘酸っぱい匂い。

「…また、黙って食べたわね」

僅かに開いた掌…指先が淡いオレンジ色に染まっている。
そっと顔を近付けると、唇から蜜柑の優しい匂いが漂って来る。
ナミは、頬に押し当てたままの指先を、魚の様に揺らめかせて。

「…代金、貰っちゃおうかな」

白い指先を、そっと…寝息を繰り返す甘い唇に押し当てて。
軽い痺れに酔う指を、そっと自分の唇に押し当てて。
…眠る横顔に、小さく微笑んだ。



U.サンジ

甲板に寝転がる緋色の背中に、サンジは苦笑交じりの溜息を吐き出して。
新しい煙草に火を点しながら、微かに眼元を優しい色に綻ばせた。

「…無邪気なモンだな」

傷だらけの膝を抱え込む様に眠る背中は、酷く小さく薄く見え。
華奢な身体の何処に、不可能を可能にする力が眠っているのか
あの陽の様な笑顔は、何処から満ち溢れて来るのか…其れが不思議で。

「何の夢、見てるんだろうな」

コロンと寝返りを打った腕の中、麦藁帽子が楽しそうに駆け出して。
甲板をコロコロ転がって行くのを、そぅと取り上げて。
風に揺れる黒髪と笑顔に、込み上げる笑いを堪える事もせず。

「もう直ぐ、飯だぞ」

無邪気な寝顔を隠す様に、麦藁帽子を押し当てて、微笑った。



V.ウソップ

「良く、こんな処で眠れるなぁ」

サンサンと降り注ぐ陽の下、寝返りを打つ背中に眩暈を感じながら。
ウソップは、幼い寝顔に影が落ちる様に、大きなパラソルを開く。
汗の滲む額に溜息を吐きながら、其れでも何処か嬉しそうな寝顔に。
困った様に顔を綻ばせて、パラソルの向きを確認して、頷いた。

「汗、全部吸い取られちまうぞ」

乾き切って粉を吹く甲板に顔を押し付けて、木目をフニフニの頬に刻み。
ムニャムニャと言葉にならない寝言を繰り返して、腕を動かして。
けれど、其の寝顔は、絶対に良い夢を見ているに証拠だから

「俺も、昼寝するかなぁ」

大きな欠伸を繰り返しながら、ウソップは眼を擦り。
夢のお裾分けをして貰う様に、無邪気な寝顔に思い切り笑った。

「…しかし…暑いなぁ」



W.チョッパー

「…気持ち良さそうだなぁ」

何時だって、何処でだって、ニコニコと笑顔を浮かべる寝顔に。
チョッパーは惹かれる様に覗き込んで、観察しながら首を傾げた。
蹄で頬を突付くと、奇妙な声を漏らして寝返りを打って、腕がワキワキ。
けれど、やっぱり笑顔の色が消える事は無くて…寧ろ更に嬉しそうで。

「何の夢、見てるのかな」

大好きな肉の夢、其れとも大切な人達の夢? 仲間の…俺達の夢?
どちらにしても、優しいモノと愛しいモノが満ち溢れた夢だから。
チョッパーは笑って、コロンと横になり日向の匂いを確かめて。

「…お休みなさい」

同じ様に腕の中に、大切な人から貰った、大切な帽子を抱き締めて。
負けない位の満面の笑顔を浮かべて、眼を閉じた。



X.ロビン

陽が傾き始めた甲板の上、未だ眠り続ける背中に、小さく肩を竦めて。
良く似た黒髪を揺らしながら、ロビンは微笑み、寝顔を覗き込む。
麦藁帽子と、隣に寝転んでいた船医を抱き締めて、無邪気に眠る姿は。
足音にも気が付かず、フカフカの毛に顔を埋める姿は、酷く幼く脆く。

「…こんな無防備で良いのかしらね」

…私が裏切るとは想わないのかしら。
溜息混じりに、ロビンは首を傾げながら、食い入る様に寝顔を見下ろす。
潮風に揺れる黒髪、其の綺麗な額に残る傷跡に眉を顰め。
冷たい感触の指先で、そぅ…と擬えて、震える指先に微かに微笑む。

「…寝首、獲られても知らないわよ」

細い首筋に指を滑らせ、繰り返す鼓動を数えながら。
絶える事の無い笑顔と、途切れる事の無い寝息に…其の暖かな温度に。
久し振りに感じる、安堵にも似た温もりを覚えながら。

「…殺されたって、文句は云えないわよ」

けれど、其の横顔は酷く緩く穏やかな色に満ちていた。



Y.ゾロ

幾分冷えて来た風に、肩を竦めながら甲板に上がると、ルフィは、未だ膝を抱えたまま眠っていた。
一緒に寝ていたチョッパーは既に眼を醒まし、夕飯の支度をするサンジの手伝いをしていた。
一人、甲板に残されたルフィの寝顔に、くすぐったい溜息を吐きながら、ゾロは隣に座り込み。
そっと手を伸ばして、汗に湿った髪をクシャクシャと掻き回す。

「…ゾロ」
「寝過ぎると、脳ミソ溶けるぞ」

人の事なんて云えない癖に、ゾロは微笑みながら呟くと。
ルフィはまだ眠たそうに眼を擦りながら、上体を起こし、猫の様に周りを見渡し、欠伸をひとつ、噛み締めた。
其の侭起きるのかと、ゾロは腰を上げかけたが、ルフィの腕が足首を掴み、そうして引き寄せられた。

「ルフィ」
「…」
「…ったく…変な処で甘ったれだな、お前は」
「…」

足を捕まれたまま、仕方無く座り込んだゾロに笑うと。
ルフィは、ゾロの膝に頭を預け、顔に麦藁帽子を被せて、眼を閉じる。
何も云わないルフィに、頭の中を疑問符でいっぱいにしながらも。
ゾロは黙って膝を貸し、暮れて行くオレンジ色の空をぼんやりと見詰めた。

「何の夢、見てたんだよ」
「…内緒だ」
「…そっか」
「良い夢、だったぞ」

ルフィは、しししっと笑って、腕を伸ばす。
夢の中には、ナミのオレンジ色の髪が揺れて、サンジの蒼い眼が笑って。
ウソップとチョッパーの笑い声が響いて、ロビンの足音が聞こえて。
今は此処に居ないけど、ビビの水色の髪が綺麗に広がって、カルーの声が聞こえて。
村の人とか、シャンクスとか…大切な人が沢山居て、皆嬉しそうに笑っていた。

「ゾロも居たぞ」
「…そっか」
「良い夢、だったんだ」


膝に顔を埋めて動かないルフィの髪を、クシャクシャ掻き回しながら、ゾロはそっと、穏やかな息を吐き出した。


  *これが日本の夏の描写であったなら、熱中症を心配するところでございますが、
   海の上、爽やかな風が吹いていて、もしかすると心地いいのかもしれませんね。
   一條様、オールキャラとは物凄い大技でございます。
   それぞれの感慨が、キャラたちにぴったりで。
   一番萌えましたのは、ナミさんの“間接キッス”でございますvv
   しかもDLFだなんて。
   もうもう、さっそくにも頂いてまいりましたとも。
   まだまだ暑い日は続くそうですが、これで乗り切れそうな気がしますですvv

   ありがとうございましたvv

一條隆也様サイト『HEAVEN'S  DOOR』へ**

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