あれからもう5年にもなる。
ルフィとゾロが同じ中学、高校、大学に通って、毎日も会っていたあの頃から。
大学をルフィよりも2年早く卒業したゾロは、遠くの街へ出て1人暮らしを始め、働き始めた。
ルフィも2年遅れて大学を卒業して、地元で1人暮らしをする事にして、就職もした。
まだルフィが大学に通っていた頃には、ルフィからの一方的なものではあったけど、連絡はとっていた。
ところがルフィも社会人になり、なかなかお互い連絡がとれなくなっていた。
そうこうしているうちに、かれこれ5年もの月日が経ってしまったのだった。
ルフィは28歳。
だからゾロは今年でもう30歳になる。
「やばッ!遅刻する!」
ルフィはすでに止まっている目覚まし時計をベッドに放り投げて、寝癖だらけの頭をボリボリかいた。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、そのままゴクゴクと飲む。
それから汚いクローゼットを開けて、白いカッターシャツを大慌てで羽織る。
カバンに携帯やら書類やらを突っ込んで、ルフィは小さな1DKのアパートの部屋を飛び出した。
ルフィは肩で息をして駅のホームに滑り込む。
良かった、間に合った、と時計を見て思う。
早いな、とぼんやり思ってルフィは満員電車に乗り込む。
電車の窓の外を眺めていると、自分のネクタイが歪んでいる事に気付いて、キュッと結びなおす。
3つ先の駅で降りて、ルフィは軽くのびをする。
朝食をとっていないので、お腹がグーッと鳴った。
「なんか買っていこ・・・・・・」
コンビニに入ると、少し涼しい感じがした。
まだ5月だけど、外は結構暑い。
適当にパンを3つほどつかんで、コーヒー牛乳を1パックレジへ持って行った。
今の生活は楽しい。
会社にも慣れたし、ミスは結構多いけど上司も同僚も、優しくて楽しい。
お酒も飲めるようになったし、合コンなんかもたまにする。
さすがにタバコは未だに吸えないけど。
1人暮らしも大分慣れてきて、綺麗な部屋とは言い難いけれど、冷蔵庫も洗濯機も電子レンジもトースターもある。
だけど、どこかポッカリ穴が空いている気がしてならない。
そう思うと、心の中に浮かぶのはゾロの姿だった。
別にゾロと「何か」あったわけではない。
しかしルフィのゾロに対する思いは「何か」あった。
今もあんなしかめ面してんのかな。
彼女とかいんのかな。
会社の上司とか先輩とか殴ってねェかな。
幸せに、暮らしてんのかな。
「おはよーございまーす」
パンをモゴモゴさせながら務所に入る。
「おはようございます」
「おはようございます」
ルフィは大きなカバンをドカッと机の上に置いて、パンの続きを食べ始めた。
「ルフィ。職場に来て一番にする事はパンを食う事か?」
「せ、先輩!」
顔をひくつかせて近付いて来たのは、ルフィが一番お世話になっている先輩だ。
「朝メシ食ってないんスよ!」
ルフィは先輩に手を合わせて懇願するが、先輩はさっさとルフィのパンを取り上げてしまう。
同じ課の女の子達がクスクスと笑っている。
「それより接客だ。大事なお客様だから、丁重にな」
「ういース」
先輩に背中を叩かれて、ルフィは席を立つ。
それから、鏡の前で軽く身だしなみを整えて、応接間のドアを開いた。
「おはようございます」
すでにソファに座って待機していたスーツ姿の男は、立ち上がって低い声をお辞儀をした。
ルフィは挨拶もお辞儀もドアを閉める事すら忘れて、そこに唖然として立っていた。
「・・・・・・ゾロ?」
深々と頭を下げていた男は、ゆっくりと顔を上げた。
「・・・・・・ルフィ、か?」
「おう!俺だよ、ゾロ!久し振り!」
ゾロは相変わらず背が高くて、深い黒色のスーツがよく似合っていた、歳をとった感じは全然しなくて、あの頃のままだった。
「すげェ!元気にしてたか?」
ルフィがキラキラした目でゾロに話し掛けていると、後ろから先輩がルフィの耳を思いっきり引っ張る。
「いっいてェ!」
先輩がガミガミとルフィを叱りつけ、ゾロの方を向いて謝る。
ルフィも慌てて失礼しました、とペコリと頭を下げた。
「・・・・・・くくっ」
ゾロは思わず右手で口元を抑えて、吹き出した。
「いや、ルフィが社会人なんて嘘みてェだから」
仕事の話が終わって、近くのファミリーレストランでゾロとルフィは昼食をとっていた。
「なのに、オマエ全然変わってねェよ」
「だからって吹き出す事ねェだろー」
ルフィはムスッとして、水をぐっと飲み干す。
「悪ィ悪ィ」
ゾロはニカッと笑って、おしぼりで手を拭いた。
「いつもそうだ、ゾロはそうやって笑ってごまかすんだ」
「ハハッ、じゃぁお互い変わってねェって事だな」
「・・・だな」
ルフィは嬉しくなって、しししっとゾロに笑いかける。
まるで5年間ずっと会っていなかった、なんて嘘じゃないかと思うぐらい。
2人は自然に喋って、自然に笑って。
「ところで、ゾロ、彼女とかいんの?」
「なんで」
「や、さっき俺の課の子たちがカッコイーって叫んでたから」
「今はいねェよ」
「ふーん・・・今は?」
「つーか社会人になってからはずっといなかったな」
「はっはっは!ゾロ!俺もだ!」
お互いにお互いを思いっきり笑う。
「むなしいなーゾロモテんじゃねェの?」
「うるせーもう30だよ」
「それもそうかー俺はまだ20代!」
得意に笑ってみせると、ゾロはコイツ・・・と苦笑いした。
「ところで今日は出張だろ?いつ帰るの?」
「今日の夕方」
「おいおい早いな!」
仕方ねェだろ、とゾロは笑う。
「もっと早く言えば俺の家泊まってもらったのに」
「・・・汚そうだな」
「なんだよ、その言い方は」
ゾロはははは、と笑ってたいらげてしまったパスタの皿を端に寄せた。
ルフィもチキンピラフの皿を寄せる。
「もう行くのか」
「あァ・・・仕事あるしな。オマエだってあの先輩怒ってんじゃねェのか?」
「ん?ああ、平気だよ。口うるさいけど、優しいから」
ルフィは気楽そうに笑う。
良かったな、とゾロは言って立ち上がり、伝票をつかむ。
「今日は俺のおごり」
「嘘?!マジで!サンキュー!」
ルフィは上着を羽織りながら、嬉しそうに言う。
「その変わり」
「ん?」
「俺、月1ぐらいのペースで、こっちに出張があるんだ」
「おお、そうなのか」
「その時は、おまえの家泊めてくれよ」
「・・・当たり前だ!つーかなんで今まで黙ってた!」
「連絡先知らなかったし」
レジでお金を払い、ゾロとルフィがは店を出た。
「・・・ルフィ、なんで俺が今まで彼女いなかったと思うか?」
下を向いたまま、ゾロはポツリと言った。
ルフィが驚いて何か言おうとすると、じゃあまたな、とゾロは軽く手を挙げて行ってしまった。
次に会った時は、好きって言おう。彼女いないってさ。そういう事?俺、期待していんだよね?
ゾロの背中を見ながら、ルフィはぼんやりと思った。
愛川様のサイトからの“強奪その2”でございますvv
Morlin.は“パラレル”がどうしてもヘタでなかなか書けないものですから、
愛川様のように自然体で描いてしまわれる方には憧れてやみません。
切り替えが利かない辺り、プロトタイプな頭なんでしょうね、やはり。(くっすん)
会社員で背広が似合うゾロっ!
かつて某サマのところでクラクラっと惚れてからというもの、
サラリーマンものにはついつい目を通してしまうMorlin.ですが、
先輩・後輩バージョンには初めて遭遇いたしましたvv
ヤンエグっぽいゾロ、かっこいい〜〜〜っ!
………船長のBD企画だというのに、不埒な奴です、ホンマにもう。(笑)
今年はお忙しいと伺っていたのですが、
それでもこんなにクオリティの高いものを発表して下さる。
一ファンとしてはもうもう嬉しゅうございますvv
これからもどうか…無理のない範囲で頑張って下さいませですvv
愛川いちご様サイト『VERY CURE』へ**

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