■ 私雨 ■


Morlin.様へ、3万HIT前祝。パラレルでゾロル、『雨宿り』
私雨→限られた場所にのみ不意に降る雨。




先刻迄、空は綺麗に晴れていたのに、雨が降り出した。
天気予報では今日は晴天だったのに…珍しく俺が天気予報なんか見たから、雨が降ったんだろうか。
急な雨、傘なんか持ってる訳が無くて、急いで雨宿りの場所を捜す。

眼に飛び込んで来たのは、古びた電話ボックス。
軋むドアを開けて中に入ると、一瞬むっとした空気が流れて来た。
暫くの間、篭った空気が抜けるのを待って、中に入る…煤けた硝子の向こう側に雨が映る。

防音のされた狭いボックスの中に居ると、眼の前で降り頻る雨が遠く見えて。
何と無く淋しくなって、緑色の公衆電話に、10円玉を一枚入れて、慣れた番号を押して行く。
数回の呼び出し音の後、聞き慣れた声が耳に優しく伝わって来た。

「ゾロ?」
『何だ…ルフィか…どうした、携帯じゃないのか』
「うん、公衆電話」
『何で』
「外、雨降ってるだろ。雨宿り」

回線の向こうでゴソゴソする音が聞こえて、窓の開く気配がした。
多分、窓を大きく開けて、空を見詰めているんだろう…少し霞んだ空から降る綺麗な雨。
硝子に掌を押し当てて、外を仰ぐ…同じ風に雨を見てると想うと、くすぐったい。

『本当だな…降水確率20%も無かったのにな』
「そうだぞ、俺今日は珍しく朝の天気予報見てから、家出たのに」
『…お前が天気予報見るから、雨降ったんじゃないか?』
「…」
『お前、何処に居る?』
「ん? ○○公園の…」

ブチっと耳障りな音がして、回線が途切れる…何か、凄く早く切れてしまった感じ。
最近は、携帯電話で話す事が多いから…時間の制限無しに話せるから、其れに慣れてしまったから。
10円玉で話せる時間って、こんなに短かったのかな…前は、此れだけでも沢山話せたのに。
贅沢になったのかな…もう少し話したかったんだけど。

もう一度、電話をかけようと、番号を指で辿り…最後のヒトツを押さないまま、受話器を置いた。
本当は…電話越しのゾロの声は好きじゃない。
何時迄も聞いていたいって、其の声に凄く安心しちゃうけど…だけど、其れは本当の声じゃないから。

ボックスの中は静かで、眼の前ではシトシトと雨が降り続けて、何だか胸の奥が痛くなる。
雨は好きじゃないし、ヒトリで居るのも好きじゃないし…こんな風に取り残された感じは嫌い。

…やっぱり、もう少し濡れてでも走って、店先で雨宿りすれば良かったかな。
空は静かに霞んで行って、町は雨に染まって、ボックスの中でも僅かに雨の匂いがする。
音は無いのに、狭い空間に雨が浸食して来て…胸の奥が、締め付けられるから。

「…失敗したな」

10円分だけゾロの声を聞いてしまったから、余計に淋しくなって、どうしようも無くて。
狭いボックスの中で、膝を抱えて座り込むと、低くなった視界の隅で、小さな影が動いた。
蒼色の傘をさして歩く…良く見慣れた、見間違える訳無い姿。

「ゾロ?」

思わず立ち上がると、ゾロも俺に気が付いたのか、少し笑って、傘を回す。
ボックスの軋むドアを開けて、当たり前の様に笑うゾロに、胸の奥がチクリとした。

「やっぱ、此処だったか」
「…ゾロ…何で判った?」
「ん? 何となく」

何処に居るなんて…最後迄云ってなかったのに、途中で切れたのに、何で判ったんだろう。
何でも無い事の様に、眼の前に居るゾロが嬉しくて、ボックスの中に染みる薄い影が嬉しくて。

「迎えに来てくれたのか?」
「止みそうに無いからな」
「でも…傘、一本しかないぞ」
「…あ」

迎えに来てくれたのは良いけれど、ゾロの手には傘が一本しか無くて。
其の傘は、どう考えても二人で広げるには小さくて、不充分で…何だか、嬉しかった。

慌ててたんだよな…俺が雨、嫌いなの知ってるから。
俺の居場所は簡単に判っちゃう癖に、もう一本傘を用意するのは、忘れちゃう位に。

「帰ろ、ゾロ」

俺は、ゾロの手から蒼色の傘を取って、歩き出す。
ゾロは一瞬息を止めて、そして緩く吐き出して…あぁ、多分照れてるんだろうな。

雨の中、先に歩き出した俺の手から傘を奪って、そして一緒に歩いて行く。
一人分の傘に二人で居るには窮屈で、はみ出した肩が静かに濡れて行くけど。


嬉しかったんだ。


  *一條様から
  “3万hit突破のお祝いに何か用意しましょうか?”
   というありがたいお言葉を頂戴しまして。
   図々しいMorlin.は、
  “それじゃあ、雨宿りと虹の出てくる、一條様のところのパラレルがいいです”
   と、我儘を言ったところ、
   前祝ですよと、こんなお素敵なSSをお贈りいただきました。
   この彼らは、ゾロがルフィのこと可愛くって仕方ないところがツボでしてvv
   うわぁ〜〜〜、嬉しいですvv
   ありがとうございますvv

一條隆也様サイト『HEAVEN'S  DOOR』へ**

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