白。


 見渡す限り真っ白な世界。
 どこからが空で、どこからが地なのか。
 そこにはなにもなく、あるのは俺の身体だけ。
 温もりを求めて手を伸ばしても、誰にも触れてもらえず。
 俺はただ悲しくて、目を、開けた───。



 「んー…」
 眩しい。
 潜り込んだ布団の上から強い光が当たっている。これだけ冷え込んでいるのでまだ昼にはなっていないはずだが、窓からはかなり眩しい光が部屋を照らし出していた。
 ルフィは布団の中でごろごろと何度も寝返りを打った。しかしどういう態勢をとっても、布団の中にまで差し込んでくる光からは逃げられないのだった。
 仕方なくルフィは眠い目をこすりながら起き上がり、ふわぁ〜〜っと大きく伸びをした。
 そしてぴょいっとベッドから下りると、カーテンの掛かっていない窓に寄る。
 「おぉ〜っすげーっ」
 いくつかの島を過ぎ、ここは何度目かの冬島。
 目の前には光り輝く真っ白な世界が広がっていた。

 「ゾロ!起きろ!雪だぞーっ!」
 昨日は大して積もっていなかったから、夜から降り出した雪がここまで積もったのだろう。
 ルフィは大はしゃぎで部屋にあったもう一つのベッドに駆け寄った。
 「ゾロ!」
 しかしガバっと捲った布団に、既に人影はなく。
 「あり?ゾロー?」


 ───温もりを求めて手を伸ばしても……


 ルフィは慌てて麦わらをかぶると、バタバタと外に飛び出していった。



 「ゾーローっ!」
 遠くに聞こえる聞き慣れた声に、ゾロは立ち止まって振り返った。
 少し待つと、見馴れた麦わらがぴょこぴょこと雪の中に見え隠れし、やがてその主が走りにくそうに、時々転びそうになりながら近づいてくるのが見えた。
 また上着も着ないでこの寒い中腕をさらけ出している。
 「ルフィ、お前ぇまたそんな格好で」
 「うほーっ!」
 しかしルフィはそんなゾロの忠告も聞く耳を持たず、どーんと体当たりで抱きついてきた。
 「しししーっゾロ見ぃーっけ!」
 嬉しそうに笑うルフィを自分のダウンジャケットに入れてやり、ゾロは「やれやれ」とため息をついた。
 「なぁなぁゾロ、見てみろよあれ」
 ジャケットの中でゾロに抱きついたまま、ルフィは首だけで後ろを振り返った。ゾロもルフィの視線に合わせるように前方を見やる。
 そこには2組の足跡が、重なるようにしてずっと向こうまで続いていた。
 「あれ踏みながら来たらゾロにたどりついたんだ!」
 「辿り着いたって…俺の足跡じゃなかったらどうするつもりだったんだ」
 「あ、そうか。うーん、まっそれはそん時考えるっ」
 そしてゾロは2度目のため息をついたのだった。

 「ここってすげぇ。真っ白だ。なんもねぇな」
 ルフィはゾロの向こうに広がる雪原を眺めた。そして今度はゾロが首だけで後ろを振り返った。
 「ああ、空も白く霞んでる。どこが地表との境界線かわからねぇな」
 「……でも、あったけー」
 「ん?」
 ぼそっと呟いた声にゾロはルフィを振り返った。
 が、その瞬間にルフィはもう駆け出していて、再びゾロが振り返ると新しい雪に残された足跡の先、真っ白な世界にルフィの身体だけがあった。
 「おもしれー!ほらっ俺の足跡だけがどんどん増えてくぞ!」
 そう言いながらルフィは下を向いたままくるくると走り回る。
 光にきらきらと反射した雪のなかのルフィもまた淡く輝いて見えて、ゾロはその眩しさに目を細めた。
 
 「ゾロ!海が見えるぞ!あれ俺たちの船だ!」
 ルフィは背伸びするように来た道と反対方向を見た。どうやらこの島は、簡単に一周できる程の大きさらしい。
 ルフィは振り返って、ゆっくり歩いて来るゾロに向かって再び叫んだ。
 「あっこまで競争な!負けたら今日の朝飯おごってくれよ〜っ」
 言い終わらないうちにルフィは走り出す。
 「なっ!おいきたねぇぞてめぇ!絶対ぇ負けねぇ!」
 今日は昼頃出港する予定で、朝食は自分たちで調達しなければならない。しかし奢ってやれるほど、2人とも持ち合わせがあるわけもなかった。

 広い雪原を走りながら、ゾロは後ろを振り返った。真っ白な地面に残る、自分たちだけの足跡が嬉しい。
 微笑いながら前を向くと、すぐそばに一生懸命に走るルフィの背中があった。
 ゾロは手を伸ばしてルフィを抱きしめる。その拍子に、2人ともどさっと雪の上に転がった。
 「なんだよー、負けそうだからって反則はずりーぞ!」
 俯せになったルフィは、ゾロの下で体を回転させてそう言いながらゾロを見上げた。
 「んなことしなくても俺は負けねぇよ」
そう言ってゾロはルフィの唇に自分のそれで軽く触れる。
 「ちゃんと後で勝負してやっから」
 そして吐息で囁いてそのまま深く口付けた。
 「ん…ん」
 キスに答えながらルフィもゾロの首に腕を回した。

 
 
 見渡す限り真っ白な、2人だけの世界。
 手を伸ばして触れた温もりに。
 俺はただ嬉しくて、ずっと目を閉じていた。



  〜Fine〜


16000ゲッターのMorlin.様へ。「雪原で鬼ごっこするゾロル」です。
す、すごく強引ぽいですか?!
リクに含まれていた温め合いっこもちょっと微妙…(笑)
でも何となく自分で満足v
Morlin.様、ゲット&リクありがとうございました!


*遊びに寄せていただくようになったばかりの頃に
 ゲットしました報告をさせていただいた、
 ちょっと我儘な内容のリクでしたが、
 可愛らしく仕上げてくださってとっても嬉しいですvv
 雪鯨サマのサイトには、甘いお話が一杯で、
 実はまだ全部読み切れておりません(トホホ)
 お姫さまシリーズ、楽しみにしてますね?
 本当にありがとうございましたvv


雪鯨サマのサイト『くじらごや』へGO!**


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