Shooting star


珍しく、甲板に先客あり。
先客は胡座をかき、夜空を見上げている。
「ん?」
釣られて見上げるその夜空には、一片の欠けもない月と
己の美しさを競うかのように瞬く満天の星。
それは他に明かりの源がない、深い闇に包まれる海上では
例えようのない美しさの筈なのだが、
それが当たり前になっている者には、なんてことのないただの夜空。
ましてや、そんな事にとんと感心のない彼である。
「何か見えるのか?」
怪訝そうに眉を寄せる。
後方から聞こえてきた声に反応し、胡座をかいたまま後ろにコテンと転がり
「ゾロ!」
「ゾロ!」
久し振りの再会でもあるまいに、嬉しそうな声を上げるルフィとチョッパー。
「何やってんだ?」
「流れ星待ってんだ!」
「そう、流れ星!」
「…流れ星?」


流れ星に願い事をするとその願いが叶う。そんな話をウソップから聞いたらしく
夜空に瞬く星に負けず劣らずの、キラキラ輝く瞳で力説するルフィ。
まるで、子供。
「ゾロは知ってたか?」
「何を?」
「だからぁ、流れ星に願い事をすると叶うって事だよ。」
知ってはいるが、信じてはいない。
星に願ったところで願い事が叶うとは思えないから。
しかし、それを否定してしまうのは少し、胸が痛む。
サンタクロースがクリスマスプレゼントを持ってくると信じている子供に
サンタクロースなんていないのよ。あれは大人がお金を出して買って用意しているのよ。
などと夢を壊すような事は言えない親心と同じ。
「あぁ。まぁな。」
ゾロが知っていた事で信憑性が増したのかルフィとチョッパーの瞳は更に輝きを増す。
「俺は、夢の中でドクターと沢山話が出来るようにってお願いするんだ!!!」
「俺は、1日5食。骨付き肉をお願いするんだ!!!」
「おい、おい。」
チョッパーの願いはまだしも、ルフィの願いはいくらなんでもくだらな過ぎる。
折角、夢を壊すまいとしてるのに、あまりにも夢のない願いに気が抜ける。
「そんな事、星に願わなくたって叶うんじゃねぇのか?
 どうせなら、もう少し増しな願い事、考えろよ。」
「”マシ”なことぉ?」
首を傾げるルフィとチョッパー。考えたところで”マシ”なことが浮かばない様子。
「あんだろ。他にも。」
シャンクスに会って帽子を返す事。ワンピースを手に入れること。海賊王になる事。
野望がある。しかし。
「それは…駄目だ。」
子供の表情が消える。

野望は星などに叶えてもらう物ではなく、自分の力で手に入れる物。
自分の力で手に入れるからこそ、意味のある物。

言葉にしなくても、ルフィの思いが手に取るように分かる。
それはゾロも同じだから。
「…そうだな。」
本当に叶うとは思っていないとは言え、
大切な事を星に叶えてもらえと、一瞬でも思ってしまった自分が
少し恥ずかしかった。
「俺達だって、それくらい分かってるよな。チョッパー。」
「おう!!!」
さっきまでと同じ子供の顔に戻り、悪戯っぽく言う。
「…悪かったな。分かんなくて。」

ゾロは暫く夜空を見上げていた。
何時もと変りのない星空が今はやけに壮大に見え
ひょっとしたら願い事が叶うような、そんな気さえしていた。


「なぁ、ゾロ。ゾロなら何をお願いする?」
同じように夜空を見上げていたルフィが問いかける。
チョッパーは寝てしまったのかルフィの隣で横になっている。
「そうだな…。」
もし、本当に願いが叶うのなら…
「お前が俺の傍から離れないようにって願うかな。」
「あ。それも駄目。」
「ん?何でだ?」

「そんな事、星に願わなくたって叶うよ。
 俺、ゾロの傍、離れねぇもん。
 どうせならもう少し”マシ”な願い事、考えろよ。」

ほんの少し前、何処かの誰かさんが言った事をそっくりそのままお返しすると
ルフィは「にししし」と笑い、また夜空を見上げた。


*** ***

ちなみに、チョッパー。
まだ眠りにはついていなかったようで。

(どうしよう。今更、起きてるって言えないよな。
 でも、このままここにいても大丈夫???
 大丈夫じゃなさそうだよなぁ。
 何か…変な方向に行ってるような気がするんだけど…
 聞いてても良いのかな?良くないだろうなぁ。
 でも、聞きたい気もするし…
 うわぁ。どうしよう…
 と、取り合えず、俺が起きてるって事がバレないように
 流れ星にお願いするしかないな。
 早く来い、流れ星!!!)

*** ***


    * end *


4000HIT Morlin様からのリク。
「ルフィとチョッパー、2人をお守りをする保父さんゾロ」です。

大人は子供によって色々な事を教わったり、決して忘れていた訳ではないのだけど
何処かに置いてきてしまったような物を気付かせれたりする事があります。
きっと保父さんも同じなのではないかなぁと思いまして…
お守りをしながらも自分も成長するような、
そんな所を書けたらなぁと思ったのですが駄目駄目でした。
何処にもそんな要素がありませんです。(汗)

Morlin.様。リクありがとうございました。
なのに…なのに…いつも駄目駄目でホント申し訳ありません。(滝汗)
もう、読まなかった振りしてください。
本当に、ごめんなさい。(号泣)

02/04/01 UP


ご帰還最初に頂いてしまいましたプレゼントがこんなステキなSSだなんて、
嬉し過ぎます、カエルさまvv
もっとマシな願いごと。
お互い、分かり合っていればこその、言葉少ななやりとりがまたおステキですvv
本当にありがとうございましたvv
3ヶ月近くもお話できなかった分、これから沢山お喋りしましょうね?


カエル様のサイト『らぐする』へ⇒**


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