曇った空の下

なぁ、知ってるか?
今日は七夕なんだぞ?
一年に一度…たった一度。
愛し合う二人が会う日なんだぞ?

なぁ、知ってるか?





「うっわ〜。サイアク…」
教室の窓から空を見上げて思う。
今日は朝から天気が悪い…。
太陽の光はどこにも届いていなくて。
灰色の汚い雲が、嫌ってくらいに空を覆い隠している。

「なんだルフィ?傘でも忘れたのか?」
文句を口にしたのが聞こえたのか、隣のウソップが心配してくれた。
「ん〜、違げぇよ…たださ…」
そう、自分が雨に濡れたって別に何ともない。
バカは風邪をひかないんだとサンジが言ってたし…。
「じゃあ、なんでそんな浮かない顔してんだ?」
どんな顔してんだろ、おれ…。
だってさ、今日は7月7日。
年に一度しかないんだぞ?
「あえねぇのかな〜?」
「はぁ〜??」
ウソップはワカランって顔してたけどさ。
そりゃそうだよ〜彼女いるもんなぁ〜。
毎日会ってんだもんよ。
ウソップって幸せモノだよなぁ〜。



一年に一度の、今日は七夕。



「ただいま〜」
誰もいない家だけど、必ず言う。
なんかさ、悲しいじゃん?
ホントに誰もいねぇって感じで。
いや、居ないんだけど…。

かばんを適当に投げて制服も着たまんま、ごろりと横になった。
二人暮らしにしては広い家。
二人で広いんだから、一人だったらもっと広い。
静かな空気だけが流れていって。
その静けさがなんだか嫌で、無意識にリモコンを手に取った。




+++


「しゅっちょ〜う!!?」
素っ頓狂な声が出たけど仕方ない。
目の前にいる男が何故か他人事にように言っている言葉は
おれにとっては、ショックも通り越して気が抜けてしまう言葉だった。
「あぁ。いきなり決まってな、明日から6日間なんだ」
なんでこうも当たり前のように言うんだ?
しかも明日って…。
「あ〜!!!」
「なんだ?どうした?」
つけっぱなしのテレビを見て、慌ててカレンダーを見た。
明日から一週間って…。
今日が2日だから…3,4,5,6,7,8…。
「帰ってくるのは8日の夜になるから…」
「8日の夜…ね…わかった」
テレビでやってたのはどっかの幼稚園の話で。
小さい子供が、小さい手で願いを書いているシーンだった。
そう、七夕の。
6日間じゃ一緒に見れねえじゃん。
…星。
「なぁ〜ゾロ…約束覚えてっか?」
「は?なんて言ったんだ」
「いや、やっぱイイや」
首を傾げてしまったゾロをボーっと眺めながら
考えてたことがついつい口に出てしまったらしい。
だってさ、約束したじゃん?
去年の七夕に。
一緒に星、見ようってさ。
やっぱ覚えてねぇかな〜。
ゾロ忘れっぽいし。
仕事だし。
仕方ねぇ〜か…。



+++


帰り道、ずーっと空を見上げてたけど
空は灰色の雲ばかり。
そんでもって、出てくるのはため息ばかり。
テレビをつけたものの、オモシロイ番組は一つもなくて。
パチパチと一通り番組を変えて最後に電源ボタンを押した。
やってんのは、ツマラナイドラマとニュース。
しかも今日の日のことでもちきりだ…。
そりゃそうだ。
今日は一年で一度しかないんだから。


近くのコンビニに晩飯を買いに家を出た。
歩いて3分もかからないコンビニは七夕一色だった。
店の中にも外にも笹の葉。
しかも色とりどりの短冊。
しっかり願い事も書いてあったり。
それを横目に見ながら、食料を集める。
「ありがとうございました〜」
金を払ってレシートを貰った。
レシートには金額と明日の天気。
明日も曇りらしい…。

「すいませ〜ん」
思わずしてしまった。
だって、願い事を書かずにいられなかったから。
レシートの裏にへたくそな字で文字を書く。
そのまま外に出てレシートを細い枝にプスッとさした。
出きるだけ高くて人目につかない所に。
「これでよしっ!!」
この願いが叶いますように。
手を合わせて目を閉じた。




「あ〜あ」
飯も食って腹もいっぱい。
ゾロがいない部屋ですごすのは結構慣れてる。
慣れって嫌だけど…。
いなくても平気って感じじゃん!
そうじゃない。
おれは幸せだからさ。
一年に何度も会えるし、一緒に飯だって食える。
ただ、ただちょっと離れただけ。
ずっと一緒にいて欲しいなんて思ったはじめの頃のおれ。
今も時々思うけど。
それはおれのワガママだから。
こんなガキのおれを好きになってくれたゾロに失礼だよな!
ますますガキだと思われるから。
でもさ〜。
やっぱおれってガキだ。
一人でイジケっちゃってるし…。
約束…。
守れなかったのは仕方ないと思う。
でもよ〜。
忘れては欲しくなかったな…。
なんて。
やっぱ、ガキだ。




少し冷たい風に当たりたくて…。
こんなこと考えてる自分を押さえたくて…。
外に出てみた。
空はまったく変わらず雲がかかっている。
「星…見れねぇじゃん」
ゾロと一緒に見れないなら、一人ででも見てやろう。
とか考えてたおれの小さな願いも叶えられない。
「短冊に書いときゃ良かったかな〜」
空をボーっと眺めていたら、どこかでケータイの着メロの音が聞こえた。
慌てて家の中に戻ってケータイを見る。
「あ…」
そこに書いてあったのは「ロロノア・ゾロ」という名前。
「へへっ」
滅多にかけてこないゾロからの電話が嬉しくて
つい笑ってしまった。
笑いを押さえながらケータイを耳にあてた。



「もしもし?」

『もしもし?ルフィか?』

「誰のにかけたんだよ?」

『ルフィの』

「なんだソレ?」

『まぁ、イイだろ?』

「まぁ、イイか」



何でもない会話。
ラブラブのカップルみたいなすごいもんじゃないけど。
おれには何よりも嬉しい声。
こんぐらいでニコニコしてしまう自分が恥ずかしいけど
悪い気がしないからいいんだろう。
家にいてもできるような会話を何度かして
そろそろ切ったほうがイイかな?
そう思って、オヤスミを言おうとしたら
ゾロの声に邪魔されてしまった。


『なぁ、ルフィ…約束覚えてっか?』

「へ?」

『ホラ、星一緒に見ようって言ったじゃねぇか』

「覚えてたのか?」

『お前との約束を俺が忘れると思うか?』

「うん…」

『お前なぁ…』

「冗談、じょーだん!」

『…俺達みたいだよなぁ』

「うん?」

『こんなに愛してんのによ、会えないんだぜ?』

「おれのこと愛してんのか?」

『俺じゃ不服か?』

「ま、まさか!!そうじゃなくってさ…」

『あん?』

「…なんでもねぇ〜」

『なんだそりゃ』



すっかり忘れられたと思っていた約束は。
ちゃんと相手も覚えていて。
しかも、自分の心の中に少しあった期待と不安を
こんなにも簡単にふっ飛ばしてくれるなんて。



「おれは幸せだぞ?」

『離れてんのにか?』

「おう!幸せだ」

『おいおい…』

「だってよ、声も聞けるし、明日になればまた会える」

『…そうか』

「うん。おれたちは幸せだぞ?」

『そうだな』




星を見れたわけじゃないけど。
顔を見れたわけじゃないけど。
声は聞こえてるから。
明日になれば会えるから。
おれたちは愛し合っているんだから。




「な?いいだろ?」

『良いんじゃないか?』

「おう!…ゾロ!!」

『なんだ?』

「浮気すんなよ!!」

『するかっ!!』

「ししししっ!!」

『早く帰りてぇな…』

「早く帰ってこいよ!」

『ワカリマシタ』

「お土産もな!」

『リョーカイ』

「おやすみ!ゾロ!!」

『あぁ、おやすみルフィ…』




オヤスミが言えるんだから幸せだよ?
言葉が交わせるから幸せだよ?
二人には悪いけど、おれは自分で精一杯だから。
でも、二人も幸せだからいいよな?
一年に一度でも、何年に一度かでも会えるんだから。
オヤスミだって言えるんだから。
言葉だって交わせるんだから。
お互いがんばんなきゃな!!
でもやっぱり…。

おれ達のほうが幸せだなぁ。





短冊に書いた願いはおれは明日。
二人は来年に叶うと思う。
4文字の簡単な言葉。

なぁ、なんだと思う?



決まってるじゃん!ないしょだっ!!!






おわり



いつもお世話になりまくってるMorlinサマへ…。
いつものコトながら意味がさっぱりわからないものに…。(涙)
一応この二人の説明を…ゾロ25のルフィ17です…。
そんでもってパラレル…あの「lonely」の二人です。
こんなもので宜しかったら貰ってやってくださいまし…。


嬉しいですvv
恋蘭サマのところの“lonely”シリーズの二人です。
ゾロがいつもいつも言葉の足りない男で、
その度にルフィが切ない想いして。
んキィ〜〜〜とか思いつつも、幸せなのね、貴方たち、と、
結局は納得させられてしまう、近所のオバちゃんなMorlin.です。
そのお二人をご招待できようとはっ!
オバちゃん、幸せすぎて昇天しそうですvv
ありがとうございましたvv 大切に読みますね?

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