あなたのとりこ  *『君が好き』番外編*
 

 

「んっふっふ〜♪」
「なんだよ、お前…気色悪りぃな」
「そう言うなって、サンジ〜♪」
「はいはい…幸せな時ってな、思わずニヤけるってもんだよな」
「そうそうvv」

いつもの登校風景。ルフィは毎朝、サンジと一緒に登校している。高校へ入学してからというもの、とにかく学校へ行くのが楽しくて朝寝坊をするヒマが無い程なのだ。それというのも、好きな人が出来たおかげなのだが、それが最近…

「俺は幸せだ〜♪」
「分かったよ、うるせぇな」

ずっとずっと好きだったゾロが、俺の事を好きだと言ってくれた。つい先日、俺の誕生日での出来事だ。

連休も終わって数日、俺はクラブも真面目にやりつつ、生徒会室に通う毎日を過ごしていた。生徒会の方もそろそろ学校行事の企画やら準備を始めていて…。クラブの練習が終わった頃に顔を出せば、丁度生徒会も終わる頃で都合が良い。しばらく部屋で話をした後 ゾロは俺を家まで送ってくれる。『この時間の為に、学校へ行ってる』と言っても過言ではないくらいだ。

「お前、あんな堅物なヤツと一緒にいて飽きないか?」
「むっ、失敬だな、サンジ! ゾロはカッコいいんだぞ! 優しいし…とにかく良いんだ!」
「ふ〜ん」

“こりゃ、アバタもエクボってヤツだな…”

「恋は盲目なんて言うくらいだしな、納得」
「なんか引っかかる言い方するよな、サンジ」
「まぁ、気にすんな」

毎日毎日、惚気話を聞かされるのも…何となく癪ではあるのだけれど…

“ルフィが幸せなら良いって事だよな”

サンジは複雑な想いを抱えつつも、ルフィの頭をげしげしと撫でた。

「んで? 今日も来るのか?」
「うん! 今日はクラブも休みだしな!」
「そうか…生徒会は今日も仕事があるんだからな、邪魔すんじゃねぇぞ」
「しねぇよ、邪魔なんて」

そう、大好きなゾロの足を引っ張るようなマネは絶対しない。そんな事したら、帰るのが余計遅くなってしまって…話をする時間が無くなるじゃないか。


そう思ってたのに―――








放課後―――

本来、静かであるはずの生徒会室で…何やら大騒動が持ち上がっていた。


「なんだよ、もぉ〜…ゾロのバカぁっ、俺の事嫌いなんだぁーっ!!」
「嫌いって…お前っ…」


派手な音を響かせて、本やら校旗やら歴代の卒業アルバムやら…椅子やら机やら…。とにかく生徒会室にある備品という備品が、物凄い勢いで飛び交っている。

「ちょっ…、ルフィっ…ヤメろって!!」
「ゾロのバカバカっっ!! 嘘つきーっっ!!」
「ルフィっ…待てっ・・て!」
「うあーんっっ! ゾロのハゲーっ!!」

夕暮れの生徒会室には、生徒会長のゾロと…全然生徒会に関係の無い新入生のルフィだけ。本当は、他にも数人の生徒会役員がいたのだが…。ただならぬ様子の2人に、1人・2人と席を立ち、知らぬ間にみんないなくなってしまった。サンジとナミの2人がいれば…きっとここまでの騒ぎにはならなかっただろう…が、たまたま用事があって出ていたため、ルフィの暴走を止められず、ややこしい事になってしまった。

戻ってきたサンジとナミに取り押さえられ、何とか治まったのは、騒ぎが始まってから30分後の事だった。生徒会室内は、ありとあらゆる物でごちゃごちゃに散らかってしまっていて…何とも無残な有様で。他にこの場に居残った人がいたら、誰か怪我人が出たかもしれない。

「ルフィっ!! お前はちゃんと片付けてからでないと帰んな。 分かったか!?」
「はい…」
「ゾロっ! アンタがいながら何なのよ、この醜態は!? ちゃんと片付けなさいよ!?」
「…あぁ」

ルフィはサンジに、ゾロはナミにこっ酷く怒られ、きちんと片付けてから帰れと言い渡されたのがつい先刻。

そして今、爆発した感情が落ち着いてきたルフィが、椅子に腰掛けて物思いに耽っていた。

“一応・・俺達って両想いなんだよな…? なのに…あんなに嫌がる事ないじゃん…”


ぷうっと頬を膨らませて、ゾロを見遣ると…ゾロは溜息をつきつつ、後片付けを始めたところだった。
黙ったまま、ガタガタと大きな物から順番に元の位置へと戻している。全然振り向く気配の無い、広い背中―――。

“やっぱり俺の事なんか…何とも思ってないんだ…俺、このまま嫌われちゃうのかな…”

いろいろ考えだしたら止まらなくなって…ルフィは悲しくて泣きたくなってしまった。


一方ゾロは、ぼんやりと座り込んでしまったルフィの横顔をコッソリと覗き見ていた。

“何だって言うんだ…いきなり怒り出して…”

事の発端は、生徒会室にやってきたルフィがゾロに抱きついた事だった。以前からルフィは、ちょくちょくゾロに抱きついていた。しかし、ルフィの中では同じ“抱きつく”という行為でも、ゾロにとっては、先日の告白以来、違う意味を持ってしまっていた。

早い話、意識してしまったのだ。

おまけに2人だけならともかく…、今日は、他にも生徒会役員がいたため、ゾロは慌ててルフィの身体を引き剥がした。ただ、かなり慌てたので…ちょっとばかり強く突き飛ばすような格好になってしまった。ルフィには、それが気に入らなかったらしい。

“だからと言って…そんなに怒らなくても…”

ゾロは、知らず知らず溜息が出た。

俺はどうやらコイツが好きらしい―――

そう気付いたのは、つい最近だ。いや、好きだと自分で認めたのがつい最近・・という事で、ほんとは出逢った時から好きだった。たった2つしか違わないというのに、稚くて可愛らしくて子供っぽいルフィ。何故かその真っ直ぐな瞳に見つめられると心が騒ぐ。きっと誰もが好きにならずにはいられないだろう。

“でも…ここまで気性の荒いヤツだとは思わなかったぞ。 見かけによらず…詐欺だな”

そう考えながら、もう一度ルフィの姿を覗き見る。

今にも泣き出しそうな心細げな背中―――

「ほら、早く片付けて帰るぞ」
「うん…」

俯いたままのルフィは気になるが…とにかく片付けてしまわないと話も出来ない。ただ黙々と、2人して部屋を片付ける事に専念する。ガサガサと物を動かす音だけがする部屋。それ以外は無音で、ルフィも話しかけてくる気配が無い。なんとなく…逃げ出してしまいたいような重苦しい空気の中、なんとか片付け終わって一息ついた。ルフィは、俺に背を向ける格好で椅子に腰掛けた。何て声を掛ければ良いか悩んでいたら、先にルフィが一言ぽつりと言った。

「ゾロ…ごめんなさい」
「あ…? あぁ…」

これは何に対しての“ごめんなさい”なんだろう…。

『散らかしてごめんなさい』なのか、それとも―――

「俺…ゾロが嫌なら…もう来ないから…」
「…へ? ルフィ…?」
「俺…ゾロに嫌われるのは嫌だから…」
「おい…ルフィ…」

覗き込んだ顔は、涙でぐしょぐしょになっていた。

「ルフィ…泣くなよ」
「俺、ゾロに“好き”って言ってもらえて嬉しくて仕方なかったんだ。 …でも、ゾロはベタベタされるの嫌なんだろ?」
「ルフィ…」
「俺…ゾロとくっ付いてたいのに…俺の事…鬱陶しいんだろ?」

ぐしぐし・・と鼻を啜りながら、それでも涙が止まらなくて…ごしごしと拳で涙を拭う。

「ゾロ…やっぱり俺が男だから…嫌なんだろ?」
「それは違う…」

ぼろぼろと涙を流し続けるルフィを、ゾロは背中からそっと抱きしめた。艶のある少し湿った黒髪が、細い首筋が、甘く匂い立つようにゾロの鼻を擽る。自分の腕にすっぽりと治まる小さな身体が、ただただ愛惜しかった。

「ごめん…他に人がいたから…恥ずかしかっただけなんだ。 嫌で跳ね除けたんじゃないから」
「ゾロ…」
「変に意識しちまっただけなんだ」
「…・っふ…うぅぅ…」

箍が外れたように、堰を切ったように、声を上げて泣き出したルフィを今度は力一杯抱きしめた。

「俺…お前がこんなに独占欲が強いとは思わなかった」
「ゾロ、呆れてる…? 邪魔臭いと思ってる…?」
「いや…この前は首を絞められたな・・と…今、思い出した」
「ゾロのバカぁ…」

背中越しに触れるゾロの胸がドキドキしてるのが分かったから…ちょっと安心した。俺の事、怒ってないんだな…好きでいてくれるのかな・・って思ったから。



「なぁ、ゾロ」
「ん?」
「もうちょっと、このままでいて?」
「え゛っ」
「なんだよ、嫌なのかよ〜…」
「いや、そんな事ない…」


だって、これだとさ…

“俺から”抱きしめてるんじゃなくて、“ゾロから”抱きしめられてるんだもん。

いつもは言ってくれない「好き」を一杯言われてるような気がする。ちょっと暢気に、後ろから抱きしめられるのも良いなぁ…と、思った。







「なんとか収まったようね…」
「ほんと、傍迷惑なヤツらです…まったく」

生徒会室を遠目に覗く2人―――

昼間っから派手な痴話喧嘩を繰り広げてくれた2人を、ボロクソに怒鳴りつけながらも。それでも、やっぱり気になって…物陰からコッソリと見届けていた、サンジとナミで。

「でも…ルフィって、見かけによらず激しい性格してるのね」
「あぁ…俺も昔、バットで殴られた事ありますよ」
「何をしたのよ」
「ちょっと学校の友達と遊ぶ約束をしただけですけど…“のけ者にされた”と…」
「ご愁傷様…サンジくん、よく耐えたわね」
「普段が余りある可愛さですから…ある意味騙されていたのかもしれません」

“サンジくんも相当ルフィバカなのよね…”

飄々と言うサンジに、ナミは呆れたように溜息をつくと、例の2人を見遣って言った。

「ゾロも大変ね」
「あの堅物男が、振り回される図ってのも面白いですけどね」
「そういう楽しみも出来たワケね」

目をやれば、窓越しに何やら睦言を言い合っている風情のルフィとゾロ。

「聞こえないのが残念ね」
「帰りますか」

そう言って…2人でニッコリと笑い合う。








「なぁなぁ、ゾロ…。 俺の事、好き?」
「…と、思う」
「思うって…なんだよ?」
「じゃなかったら…こんな事しねぇよ」


ゾロは、照れくさそうにそう言うと、もう一度ぎゅっと抱きしめた。

波乱万丈な気配が漂う、付き合い始めて1週間後―――




カウント5999番ゲット Morlin.様へ
『ルフィを優しく後ろから抱きしめる照れ屋なゾロ』

まずは、リク作品だというのに、シリーズ物で書いてしまいまして…ごめんなさいでした;;;
照れ屋なゾロというのが…このゾロ以外におりませんでした…。

ウチの原作ベースゾロは、あまり照れ屋ではございませんで…割と平気でベタベタしてくれますので…
ええ、後ろからなんて奥ゆかしい事はせず、前からガバリと抱きしめてしまいますので…;;;

「書きますよ!」と言っておきながら、こんな物でごめんなさい(涙)
Morlin.さん 宜しければ、お持ち帰りくださいませ(願)

2004.05.10up


*ひやぁ〜、物凄くお早いUPに驚きです。
 ホントはキリ番じゃなかったですのに、
 我儘聞いてくださって。
 しかも、あの『君が好き』シリーズvv
 皆様から存分に可愛がられているルフィが、本当に可愛いお話でして、
 もうもう、嬉しくて堪りませんですvv
 可愛らしいお話をどうもありがとうございましたvv
 大切にしますね? 嬉しいですvv


kinako様のサイト『heart to heart』さんはコチラ→**


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