月夜見  〜背中

夜中にぽかっと目が覚めた。
まだ夜更けだ。
肩が少し寒い。
暗がりの中で毛布を手繰り直そうとして、
ゾロがこっちに背中を向けているのに気がついた。
寝返りを打ってか、時々あっちを向いていて、
こんな風に背中しか見えないことはよくあった。
昼に明るい中で見る時と違って輪郭がはっきりしないけど、
"………。"
見応えがあってきれいな背中だ、と、思った。
『背中の傷は剣士の恥だ』
そんな風に言っただけのことはあって、
小さな傷は沢山あるけど、大きな傷は一つもない。
そっと触ってみる。
すぐ下の大きな骨や堅い肉のせいだろうか、肌もちょっと堅い。
ぺとっとくっついてみる。
少し冷えて、良く鞣
なめした革みたいな感触がした。
大っきくて頼もしい、でもちょっと寂しそうな時もある背中だ。
あんまり話してはくれないが、色んなものを背負ってる背中だ。
「…くすぐったいぞ。」
あ、起きてた。
「何してんだ?」
「ゾロの背中、気持ち良いんだ。」
「そうか。」
邪険にされないもんだから、しばらくくっついてたら、
「もういいか?」
「え? あ、うん。」
やっぱり鬱陶しかったのかな。そう思いながら離れると、
"…え?"
こっちへもそもそっと寝返りを打つ。
「傷が見える方は嫌いか?」
丁度目の前に斜めに走る大きな傷。
痛々しい、辛そうな跡。でも、
「嫌いじゃない。」
さっきみたいにぺとっとくっつく。
「こっちだと顔が見えるしな。」
「…嘘をつけ。そんなくっついたら見えねぇだろが。」
くつくつと小さく笑うのが伝わってくる。
吐息もすべって来て気持ちがいい。
「まだ夜中だぞ。寝ろ。」
「うん。おやすみ。」
波の音も聞こえない、世界中で一番安心な寝床。
ゾロの匂いにくるまって、楽しい夢がみれたら良いなと目を閉じる。

  〜オヤスミナサイ〜

                          (01.6.29.UP)


初出;『海月透過率』様 NOVELサイト


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