魔性のバイクに憑依された男の嘆き・・・(第6章)

「やっと出来た・・・これでこいつを走らせてやる事が出来る・・・」

男は思った。
そう、先日無我夢中になり知らぬ間に組み上がっていたCXのことである。
リヤショックが入荷せずに、長い間バラバラにされていたCXはこの男の手によって蘇った。
エンジンをかける。「ポンポンポン・・・」とCXは小気味良い排気音をさせて息を吹き返した。

「ん!トルクのある音だ・・・

男は満足そうにうなずく。そして水温が上がったのを確認してから、永い眠りから目を覚ましたCXのスロットルをゆっくりとレーシングさせる。ゆっくり と・・・そしてかわいい我が子の頭をなでるように・・・
温めては冷まし、温めては冷まし、そのような暖機運転を3度ほど繰り返す。
男は言った。
「よし!試乗用ナンバーで今晩一緒に走ろうな」と。

定時で仕事を終えた男は準備をする。男は思った。
「こんなにバイクに乗ることが楽しみに思えるのは何年振りであろう?少し胸がドキドキするな・・・

男はCXのイグニッションスイッチをONにし、スタータボタンを押す。
「キュルキュル・・ポンポンポン・・・」
CXはすぐに息をし始める。そして日中に行っていたようにゆっくりと、そしてしっかりとエンジンを暖める。
「さぁ、行こうか・・・」
ゆっくりとクラッチをつなぐと同時にアクセルをオープンする。CXは2ストらしく低回転でのトルクの無さをアピールする。
「おい!もっとアクセル開けろよ!!」
男はそれに従う。バイパスを軽快な排気音をさせてCXは気持ちよさそうに走っている。まるで寝起きの背伸びをするかのようにスピードは上昇していく。
「ダメだ・・・まだおまえは寝起きなんだから」と男はCXに優しく語りかけアクセルを戻す。しかしCXは言う。
「おいおい!排気バルブを開かせないと俺は俺じゃないんだよ!」と。
寝起きのくせに粋がるCXをなだめながら男は一日目の試乗を終えた。およそ5Kmほどのシェイクダウンだった。

翌日CXは言った。
「おい!今日も走るぞ!」
「そうだな。今日も少し走ろうな」男はその言葉にそう返した。

昨日のように男はCXをしっかりと暖機運転する。
「さぁ、今日も行こうか・・・」
「おう!今日はもう少し回してくれよな!!」CXはCXでありたいらしい。かっ飛び125cc2サイクルの本来の 走りをして欲しいようだ。仕方ない、今日は少し回してやるよ。
CXはバイパスを快調に走る。
が、しかし排気バルブが開く前6000rpm位でもたつきはじめる。バルブが開いた後は綺麗に回る。
「何かおかしい・・・」
男は思い、回転を抑えながら先の信号が赤信号になったので信号待ちへと停止した。
「ポンポン、カラカラカラカラ・・・!!!」
「なにぃ〜!!」CXは 異音を発し始めた!
このままではまずいと男は思い、すぐさまピットへ戻る為に回転を抑えながら帰路についた・・・

ピットへ戻る間、CXは異音も発せず何も無かったように走った。
「無事でいてくれよ・・・」
男はピットに戻るや否やプラグを外してチェックした。
「こ!これは!・・・」
プラグに銅のかけらが少量付着している・・・・

そう。男の考えに間違いが無ければこの銅のかけらは『クランク大端部のサイドワッシャー』に違いない・・・
早まりすぎたのだ・・・・永い眠りから起した割には回しすぎてしまったようである。

男は次の日に確認する事をCXに約束し帰路についた。

男は翌日にすぐさま何日か前に全て組上げたCXをばらしていく。



もくもくと・・・・



・・・・



黙々と・・・・







シリンダ上部から ピストン、ピン、小端ベアリング


ヘッド横 ヘッド燃焼室

そこで問題が発生した!!なんとジレラのフライホイールを外すには、M27×P1.0 正ネジの特殊工具が必要 だったのだ!そんなもの何処を探してもあるわけが無い・・・
男は諦めが悪かった。男の口癖は「あ きらめるな!」だった。

仕方なくフライホイールに穴をあけてタップを切り、クランク外しの工具でフライホイールを抜き去る。

gilera CXのローター ローター外しのガイド

クラッチ外し クラッチハウジング

ローター側 クランクケース分割

さぁ!あとひといき!原因がそこに待っている!!男は涼しいにも関わらず汗をかきながら最終段階へと向かった!!

クランクシャフト取外し クランクシャフト、クランクケース分割


クランクシャフト

ビンゴ!!

存在しないワッシャー・・・

あなたには判るであろうか?コンロッド大端部の銅ワッシャーが左側は存在しているが、画像の右側の部分には見えない事を・・・

そして、いつ終わるかも分からない新たなCXの物語へと男は勇敢にも進んでいくのであった・・・

CXは言った、「まぁ、頼むよ大将!」と。。。                                

つづく