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光村図書版「国語3」より引用しています。

ヒロシマ神話        嵯峨 信之


失われた時の頂きにかけのぼって

何を見ようというのか

一瞬に透明な気体になって消えた数百人の人間が空中を歩いている

 
(死はぼくたちに来なかった)

(一気に死を飛び越えて魂になった)

(われわれにもういちど人間のほんとうの死を与えよ)


そのなかのひとりの影が石段に焼きつけられている


(わたしは何のために石に縛られているのか)

(影をひき放されたわたしの肉体はどこへ消えたのか)

(わたしは何を待たねばならぬのか)


それは火で刻印された二十世紀の神話だ

いつになったら誰が来て

その影を石から解き放つのだ


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