tossインターネットランドへ戻る
東京書籍版「新しい国語2」より引用しています。

     木        田村 隆一

 

木は黙っているから好きだ

木は歩いたり走ったりしないから好きだ

ほんとうにそうか

ほんとうにそうなのか


見る人が見たら

木は囁いているのだ ゆったりと静かな声で

木は歩いているのだ 空に向かって

木は稲妻のごとく走っているのだ 地の下へ


木はたしかにわめかないが

木は

愛そのものだ それでなかったら小鳥が飛んできて

枝にとまるはずがない

正義そのものだ それでなかったら地下水を根から吸いあげて

空にかえすはずがない


若木

老樹


ひとつとして同じ木がない

ひとつとして同じ星の光のなかで

目ざめている木はない


ぼくはきみのことが大好きだ

指示・発問へ戻る    答えへ戻る

表紙へ戻る