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フォト

エッセイ

「西穂高の主」

 

11月1日 (木)

2月下旬、西穂高岳の頂上を踏んで下山途中少し空腹を覚えた。
この日は風が強く地吹雪が舞い、冷えた身体の体温をどんどん奪っていく。
携帯スコップで雪洞を掘り身体を滑り込ませ、甘納豆とチョコレートをかじ
っていた時、地吹雪の中遠くからサクサクと小さな音を耳にした。
この山は熊が出るはずもない、何だろう?と思っている内に何かが駆け寄って来
た。恐怖のあまり振り返る事も出来ない。じっと身をひそめていると突然黒い
鼻先が目の前に!
そして私の顔を舐めて来るではないか!息が止まりそうになる!
何とそれは真っ黒い犬だった。犬はなつっこく私にじゃれついて来た。
こんな冬山に犬がいるなんて思ってもみなかった事だ。
恐怖心は何時の間にか失せ、喜びへと変っていった。
犬と少し戯れた後、歩き始めると犬は先に立ち、テント場まで案内してくれ
た。そしてテント場に着くと犬は去って行った。
遠くに去って行く彼を見ていると山小屋の主人らしき人が手を振っていた。
思わず私も手を大きく振りかえした。ありがとう!

「僧ヶ岳の印象」

10月19日(金)

僧ヶ岳からの下山中、夕闇迫る頃出逢った1本のブナの樹。美しい樹だ!と、通り過ぎた時何故か足が止まった。誰かが呼び掛けている・・・。
何気なく振り向くと暗い谷間に先程のブナの樹が燦然と光を放っていた。黄金色に輝き私を呼んでいるではないか。
「ここだよ」と言わんばかりに。
この写真が私を本格的に山岳写真にのめり込ませた記念すべき1枚である。

 


「塀に咲くアオイ」

10月16日 (火)

このアオイはある夏の日のお寺の塀に一輪誇らし気に咲いていた。
なぜか私の心に訴えるものがあり、思わずシャッタ−を切った。
しかし数年後寺の前を通ると建て替え工事が始まっており塀が取り壊されかねないと驚いた。早速私は住職の奥方に会い、この写真を見せて「この塀だけは残して欲しい!」と頼みに行った。すると奥方は「気が付かなかったけどこうして写真を見るとなかなかいい雰囲気ね」と言ってくれたのだった。
結局私の願いは叶えられ色を塗り替えて補修した後現在も私の昔のイメ−ジ通りに残されている。       
しかしこの「アオイ」の花は2度と咲く事はなかった。 
これは私にとって大切な一枚の写真となって残っている。