第4章.ジジイ

 最後に、ヒゲを語るに当たって避けては通れないキャラ分類、『ジジイ』について述べたいと思う。
 このグループはヒゲの分類ではなく、より広い範囲のキャラクター分類で扱うべきだという意見もあろうが、ヒゲキャラの中に『ジジイ』としか呼びようのない人物が数多いことは周知の事実であり、ヒゲ研究における大きなジャンルの一つとして無視することは出来ない。そもそも『お約束』的な観点で言えば、ヒゲでないジジイを探すのは寧ろ非常に困難であり、ヒゲとジジイはヒゲとオヤジ以上に密接な関係にあるといえよう。極論すれば、ジジイヒゲはヒゲキャラの完成形であるともいえる。

 ジジイとみなされる種類のキャラクターは古今東西の文献に数多く見られ、役割が大変はっきりしている。それは即ち知識と経験を備え、主人公を導くという役割であり、往々にして彼らは秘められた大きな力を持っている。
 ファンタジーやRPG界でも無数の例が見られるが、ガンダルフ(※12)やサルマン(※13)のような男魔法使いが例外なく豊かな白ヒゲを蓄えているのは、長い年月に渡って培われた知識の象徴に他ならない。
 沖田艦長(※14)などはその経験が物語全体に大きな影響を与えるほどの意味を持っており、ジジイキャラの担う役割と、その恐るべき潜在能力の一端を示す好例といえるだろう。

 これらの例を見れば分かる通り、豊かな白ヒゲ=ジジイ=指導者という図式は既に確立された黄金パターンであり、逆にこれを利用して活躍しているのがクリストファー・リー(※14)という役者である。彼の映画での役割・立場から考えて、この黄金律は西洋でも広く行き渡っていると予想できる。それどころかそもそもジジイヒゲのルーツは西洋にあるのではないかと筆者は疑っており(これについては中国説もあり、まだはっきりとしたことは分かっていない)、今後の興味深い研究テーマとして調査を進めていきたいと思っている。

 このようなほぼ完成された分類にもやはり少数の例外はあるもので、ジョセフ(※15)などはあまり豊かなヒゲを持っていない。ヒゲ量からいうと彼に関してははお洒落ヒゲと見なされてもおかしくはなさそうであが、その主人公に対する指導者的立場はやはり紛れも無くジジイのものであり、作品中での彼の呼び名も『ジジイ』で定着している。
 何よりもジョセフの場合、ジジイ条件の中でも最も比重の高い、『一人称がワシ』を満たしていることから、議論の余地は無いものと思われる。かつての彼の一人称が『俺』であったことを考えると、この例はジジイというキャラ分類の本質を問う上で非常に意義深い一例といえるだろう。


※12、※13 ガンダルフ&サルマン:映画「ロード・オブ・ザ・リング」より、正義のジジイと悪のジジイ
※14 クリストファー・リー:実在の俳優、昔ドラキュラ今サルマン
※15 ジョセフ=ジョースター:漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第3部より、お茶目で明るい69歳


- 表紙へ -