その町には、三本の煙突が立っていた。

 

 

 

 

 

煙突の町

                                    yuzu-pon

 

 

 

 

 

 

 

はっきりと青い空を見た記憶は、勘九郎の中にはなかった。

 

この町には三本の、大きく煤けた煙突がある。

町の、唯一の産業でもある鋳物工場が備える"キュポラ"と呼ばれる独特の煙突は、この、色彩の少ない錆色の町には数え切れないほど沢山あった。

大小様々な煙突からは、朝も晩も休みなく灰色の煙が沸き上がり、その煙が空の青を隠すのだと、幼心に勘九郎はいつも胸を痛めていた。

数多のキュポラを従えるようにそびえる三本の大きな煙突が吐き出す煙は、町の存続を守る象徴であると同時に、人々の心にある忘れてはいけない大切なものを鈍色にぼやかしていた。

 

 

 

今年十四になる進藤勘九郎は、この町では異端な存在と言ってよかった。

異端、と言うと大袈裟になってしまうが、ここで生きる人々は直接的、間接的に工場の仕事を生業としている。だが彼の父親は工場が排出する汚れた空気や、汚れた水が作り出す澱んだ町を憂い、それらの保護を訴え続けていた。

工場を相手にいくつかの訴訟を起こし、そのほとんどは棄却を受けていたが僅かな言い分が認められるとそれを足がかりに次へと繋ぐ。

誰もが父の言うことを真実だと思いながら、けれど工場を失うことも出来ずただ首を竦めている。故に、正論だと知りつつも彼等を受け入れることで自分たちの暮らしを脅かされる訳にはいかないと、一家を異分子扱いし忌み嫌い遠ざけていた。

父と、母と、妹と。

 

勘九郎の七つの誕生日に、母は貧しい暮らしの中で精一杯の料理を作ると、寂しそうに笑いながら頭を撫でてくれた。

家族が揃って、並んで食事をする。勘九郎は幼い妹とふたり、随分はしゃいで両親を笑わせた。楽しくて、楽しくて、きっと生涯の中で一番楽しく、一番暖かな夜だった。

いまも忘れることのない、とても大切な思い出だった。

翌朝目が覚め、家の中が随分静かになっていることに気付いたとき、勘九郎は、父のしたいことの意味を初めて考えた。町を、人を、緑を、空を。

青い空を。

見たいだけだと笑って言った。その父のしていることの意味を初めて、本気で考えた。

母と妹のいないこの家の冷たさを、その時初めて、意識した。

隙間だらけで冷たい風の吹き込む部屋に、背中を丸めて座る父を、哀しいと思うことがいやだった。

 

父は川や、周辺に残る数少ない雑木林などの小動物が生息出来そうなところを中心に、廃棄物処理や肥料散布を行っている。その合間には自宅の前に作られた小さな畑を大切に耕しているが、その畑が豊作であったことなど勘九郎が記憶する限り一度もなかった。

土が死んでいるから、と。

いつも通り、微かな笑みを浮かべた父がぽつりと零すたび、勘九郎もまた小さく笑い返した。死んでいる、確かにそうだろう。でも。

死んでいるのは土だけではない。自分も、父も、既に死んでいるのだと思う。この土地で生きるものはみなあの工場が吐き出す煤けた煙を浴び、全身を錆色に染めそれで漸く生きているのだ。ここで暮らすには自分たちも、赤茶けた錆色を纏い首を竦めていかなければならない。嫌でも、耐え難くとも、それがこの町に生まれたものの宿命だから。

町を出ないのか、と、幾度か尋ねた。そのたびに父は緩く首を振り、頑なにここから離れることを拒む。それまでにしてきたことを、自らが否定するようなことは出来ないと言われれば、それ以上続ける言葉もなく黙り込むだけの勘九郎だった。

 

結局、自分にはなにも出来やしない。

父の庇護の元どうにか生きている自分には、なんの力も、知恵もない。

だからここで、こうして、いつまででも俯いて、しがみつくように毎日を過ごすのだ。この先もずっと。ずっと、ただ、生きていく。

ただ、それだけ。

 

 

 

 

勘九郎は十歳の誕生日に、父にはなにも言わず町に出た。

彼が変わり者、秩序を乱す者と忌み嫌われる男の子供であることはすぐにばれ、大袈裟に追い払われたり、石を投げ付けられたりした。それまで自宅の周囲だけで過ごしてきた勘九郎にとって、激しく動揺する出来事ではあったが逃げ出すわけにはいかない。彼には、ひとつの決意があった。

 

学校にも通っていない勘九郎は、ほんの僅かな読み書きと、生活に必要な計算程度しか出来ない。だから仕事を探すといっても困難なことは分かっている。

ましてこの町では、工場に繋がらぬ仕事は皆無だと言ってもいい状態だったのでどこも勘九郎の話すら聞くことなく追い返す。関わりを持てば自分たちまで痛くもない腹を探られるのだ、そんなことを進んでする者などいるはずがないと、追い返されるたび思い知らされた。

また、彼の出自に問題がなかったとしても、十歳になったばかりの子供を雇うところなどほぼないだろう。この町では十四になれば成人のように働くことが出来たが、いまはまだ学校に通い、様々なことを学ぶべき歳であったのだから。

 

その店を追い出された時、肩を突き飛ばされ転んだ。

体を捻った所為で地面に顔から叩き付けられ、額にぴりりと痛みが走る。じん、と痺れた感じがして、それから温い何かが流れるのを自覚した。

血が出たのだと分かったが、それ以上のことは思わなかった。痛みというものを知覚する神経が、麻痺していたのかも知れない。

立ち上がりながら埃を払い、自分がしていることを考えてみる。

生きて行くには糧がいる。糧を得るには代価がいる。自分のこれまでを振り返ってみても、これから先、年を長ずるに連れ辛いばかりの日々なのは分かっている。いまは守られているだけの自分が、いずれは父を守らねばならぬ時が必ず来る。

考えれば考えるほど怖ろしく、虚しく、悲しい。

けれどそれを嘆いているだけではなにも変わらず、父を支えることすら出来ない。

汚れた手で額の血をぬぐいながら、顔を洗える場所を探す。あちこちの路地に視線をやると、乳製品を取り扱う店の脇にくたびれた流しがあるのを見つけた。

短いホースが取り付けられた蛇口は、古ぼけたものではあっても毎日使用しているのか手入れは行き届いているようだった。お借りします、と口の中で呟きながらまず手を洗い、それから額の傷に、掌に溜めた水をそっとあてがう。

遠くで鐘の音が鳴り、勘九郎はぼんやりと考えた。

いま、ここにいる自分は本当の自分ではなく、怖ろしい夢を見ているだけのごく普通の家庭の子供で、その夢を見ているのも暖かな教室のストーブの側で、クラスメイトや教師に笑われながら眠い目をこすっている。

ストーブは勿論、町の工場で作られたもので、その恩恵は暖かさだけではなくいつでも勘九郎の空腹を満たしたし、母の笑顔も与えてくれた。

 「どうしたの?」

不意にかけられた声に、勘九郎の肩が思い切り跳ねる。

慌てて振り向き、小さな声で謝りながら後ずさると、勘九郎を見詰める目が驚いたように見開かれた。

 「怪我してるよ」

年格好は自分とそう変わらない。幾分茶の濃い、ウェーブのかかった髪をした少年がじっと見詰めてくるのを息苦しく感じながら、ただ口の中で謝罪を繰り返した。

 「なんで謝ってるの?あ、水?いいよそんなの。おじさん、そんなことで怒るような人じゃないから」

細い目が、けれど優しげに笑いかける。

自分のことを知らないのか、彼は勘九郎に対し侮蔑や嫌悪の欠片を一切含まない眼差しで見詰めながら、そっと足を進め近寄ってきた。

 「痛そうだよ、ちゃんと手当てしないと」

 「…いい、です…」

 「よくないよ。ばい菌が入ったら大変でしょ」

手を広げ、溜息混じりに言われる。

彼の大袈裟な身振りに益々すくみ上がっていると、一気に距離を詰めた少年が自分の腕を取り引き寄せた。

 「ここ、おじさんのうちだから。おいで」

おいで、と。

どうすればいいのか分からなくて、おろおろしているうち店の裏口から母屋へと連れ込まれる。中はものの少ない簡素な作りであったが勘九郎の暮らす家よりしっかりした調度と優しい生活感が溢れていた。

少年は勘九郎を座らせ、棚から救急箱を持ち出すと目の前に座る。どうすればいいのか分からず視線を彷徨わせていると、少年が微笑み"染みるよ"と言いながら額に手を伸ばしてきた。

ひやりと、冷たい痛みが走る。

けれど勘九郎には、それがとても嬉しかった。

誰かに、家族以外に優しくされた記憶など、彼にはひとつもなかったから。

だから、手当をされている間中、痛みで涙目にはなっても苦痛を訴えることなどなかった。

 「はい、終わり」

仕上げにガーゼを貼り付けると、少年はもう一度微笑んだ。

くるりとした巻き毛が、彼によく、似合っている。

 「転んじゃった?」

 「…うん」

 「あははー、じゃ結構鈍かったりする?」

くしゃっとした、人懐こい笑顔のまま後片づけを始めると、少年は店に通じるらしき方へ歩いていき、やがて両手に牛乳瓶を持って戻ってきた。

 「はい」

 「え、」

 「怪我には栄養でしょ」

 「でも、」

 「あー気にしないで、これ労働報酬だから」

 「労働?」

 「うん。俺、ここで働いてるんだ。って言っても、昨日からだけど」

躊躇っている勘九郎の手に牛乳瓶を持たせると、彼は再度隣に座って笑いかけた。

本当によく笑う少年だった。

同年代の友人どころか誰からも相手にされない勘九郎なので、こんな風に微笑まれてもどんな顔で返せばいいのか分からない。手にした瓶と、彼の顔を交互に見て、なにか言いかけては口をつぐむ。どうしよう、頭の中はそればかりだ。

 「飲んでよ。…あ、牛乳嫌い?それじゃおっきくなれないよん」

 「嫌いじゃないよ、あの、滅多に飲めないけど」

 「なんで?」

不思議そうに尋ねられ、ずきり、と胸の奥が痛む。

彼は知らないのだ。

昨日から働きだしたと言っていた。年格好は似ているから、彼もまた貧しい家の子供なのかも知れない。叔父のところであれば勤め先としては理想以上だろうが、なにも分からない土地で、自分に出逢ってしまったことは不運としか言いようがない。

 「あの…やっぱりこれ、もらえない」

 「嫌いじゃないなら飲みなよ。給料はいらないって言ったら、じゃあ牛乳を好きなだけ飲んでいいってことになったんだよね」

あっけらかんと言い放たれても、どうしていいのか分からない。働いて、その賃金を受け取らないという理屈も理解出来ない。

勘九郎は、段々と彼を恐れ始めた。

 「本当に、いいです。あの、ありがとうございました」

早口で礼を言うと、瓶は彼の膝辺りに置き立ち上がる。彼の呼び止める声が聞こえたが、構わず入ってきた方に走ると上がり口のところで何かと激しくぶつかった。

 「おっと、ごめんよ。大丈夫かい?」

 「す、すいません、あの」

 「あれ、きみは…」

若くはないが、老年でもない。物腰の柔らかそうな男は勘九郎を見ると眉を寄せる。その顔を見た途端、勝手に上がり込んだ形の我が身に気が付き、思わず全身が凍り付いた。

 「おじさん、その子のこと知ってるんですか?」

 「え、ああ…知ってるよ」

 「怪我してたから、手当をしてあげたんです」

 「そう。憲男くんは優しいね」

静かに、けれど確かに浮かんだ微笑みを呆然と見詰める勘九郎は、掌に当てられた冷たい感触で我に返る。

 「飲んでよ、ね」

 「でも…」

 「飲んで行きなさい、憲男くんはこう見えても頑固者だからね。きみが飲むまで諦めないよ」

 「おじさーん。なんと言われようと、いらないものはいらないんです。ここにおいてもらえればそれでいいんですから」

ふん、と鼻息を鳴らし、自分の牛乳を飲み干す。そしていまだに縮こまったままの勘九郎を見ると、一旦瓶を受取り、紙蓋を外すと勘九郎の手に握らせた。

迷って、彼と彼の叔父を交互に見やる。ふたりは、これまで勘九郎が家族以外には与えられたことのないような笑顔を向けてきて、それはとても不思議な感覚を心の中に呼び覚ます。暖かで、柔かで、信頼してもいいような、けれど裏切られるのではないかという哀しい疑い。それが生み出す痛み。

 「俺さ、ここに来たばかりで友達もいないし、よかったらこれからも仲良くしてよ」

 「え、あの、それは、」

 「そうだねぇ、憲男くんとは年もそう違わないだろうし、おじさんが相手をしてあげられないときは一緒にいてくれると助かるな」

 「いっ、しょって…」

自分のことを知っていると言った、それなのになにも知らない少年の遊び相手になれと言う。訳が分からなくて、勘九郎は手にした瓶を更に力を籠めて握りしめる。ちゃぷん、という音とともに、少しだけ牛乳が溢れた。

 「そう言えば、学校は?俺は明日からだけど、きみ、授業中じゃないの?」

勘九郎の手に付いた牛乳を、さりげない仕草で拭いてくれる。少年ながら、綺麗な長い指を持つ彼に益々気後れが膨らみ、なにも言えずに俯いてしまう。

 「えーと、進藤くん、だったよね。彼は学校には行っていないんだよ」

 「どうしてですか?」

 「おうちの事情だよ」

悪く、言わないでくれるの?

見上げた先で微笑んでいる彼の叔父を、不思議な思いで見詰める。この町は勘九郎に取って冷たく、痛みばかりを与えるものだったのに彼は。

彼等は、自分を受け入れてくれるのだろうか?

本当に?

 「じゃあ明日から行こうよ、一緒に」

 「そ、れは…」

 「なんで?だって子供はみんな、嫌でも学校に行かないとさ。なーんて、俺だって本当は行きたくないんだけど、約束だし」

 「約束?」

 「んー、まあ、色々ね。でも学校は行っておいた方がいいでしょ」

 「憲男くん、人にはそれぞれの事情っていうものがあるんだよ。無理を言って、困らせたらいけないよ」

 「…はあ」

納得している様子はないが、それでも彼は大人しく頷いた。

 「じゃ一緒に行くのは諦めるけど、俺が帰ってきたら遊んでね。えーと、自己紹介がまだだった。憲男くんです、よろしく。ほい、握手。」

 「しん、…進藤、勘九郎です。あの、でも遊んでは…いられないから…」

 「どうして?っていうか、なんでそうビクビクしてるの?だーいじょうぶよ、取って食べたりしないから」

がお、と噛み付く真似をしながら言うと、勘九郎は少しだけ笑ったけれどすぐ目を逸らしてしまう。

憲男から見れば彼の態度は不思議なばかりで、どうしてここまで怯えているのか皆目見当も付かなかった。ひとに優しくしたい、そして自分を好きになりたい。憲男には憲男の心に巣くう痛みやどろどろした感情から逃げ出したいという願望があり、叔父の言う"ひとの事情"というものも少しは理解しているつもりだった。

けれど目の前の、進藤という少年は、怯えた視線を彷徨わせ絶えず逃げ道を探しているように見えた。寂しそうなのに、哀しそうなのに近寄ってはくれない野良猫のようだと憲男は思う。

どうして?

心に直接語りかけられれば。人と話すことは"必要事項の伝達"でしかない憲男にとって、けれど勘九郎は違っていた。知りたいと思った。自分から知りたいと、教えて欲しいと本気で思う。その哀しそうな瞳の訳を、言いかけてやめる、諦め顔の、その訳を。

 「仕事…」

 「え?」

 「仕事、しなきゃ…だめだから」

 「あーそれはまあ俺もここで働くけどね、でも普通は俺たちみたいな子供を雇ってくれるところなんてないでしょ」

 「でも、探さないと…」

父には言っていないけれど、生活は苦しくなるばかりで父の疲れも目に見えて堪っている。生きるためには、父を支えるためには自分に出来ることはなんでもしなければならない。逃げ出してしまいたい自分を戒めるためにも、そうしなければならないのだ。

 「それで…転んだのかい?」

 「え、」

傷を示しながら言われたので、躊躇いつつも頷いた。知られているのだから隠しようがなく、この町の住人であれば誰もがそうすることも分かっている。

 「そうか、そりゃあ痛かっただろうね。でも憲男くんが手当てしてくれたから、少しは痛みも軽くなったかな?」

ぽん、と背を叩かれ、見上げると優しく微笑まれた。幽かに首を振り、なにも言わなくてもいいと目が語る。勘九郎は、こみ上げる涙を止められなかった。

 「えっ、ちょっ、痛いんじゃないの?おじさん、痛くなくないって!あれ、痛くないんじゃなくて、痛いんだよね、だからえっと、」

憲男が喚き、飛び跳ねるその前で。

父以外の人間と触れ合うことなどこれまで一度もなかった。母が行ってしまってから、勘九郎は常にひとりだった。父にも、本当の心を語ることは出来なくて、いつでもひとり、膝を抱えて蹲る。なにも言えず、手を伸ばせず、自分が人であることすら忘れそうな長い時間をひとり過ごした。

消えてなくなりたいと、何度でも思った。

 

 

泣いている勘九郎を、ただ黙って抱き締めてくれる。

やがて騒いでいた憲男も側に来ると、そっと頭を撫でてくれた。それはとても不器用な動きだったけれど、長い指が何度も、何度も髪に触れ優しく優しく、撫でてくれる。

 

触れてもらえる、それは久しく忘れていた温もりで、いつしか勘九郎の手は抱き締めてくれる温かさにしがみついていた。

裏切られれば、今度こそもう、だめだろうと。そう思いながらも強く掴む指先から力が抜けることはなかった。

もし。もし、これが夢だったら。嘘だったら。

 

 「男の子はね、本当は、泣いちゃいけないんだよ。でも今日は特別だ」

背を、肩を。

大きな手がさすってくれる心地よさに、勘九郎はそっと目を閉じた。

夢なら、覚めないで。

嘘なら嘘のままでいて。

神様にお願いなどとしたことはないけれど、どこかにいるならこれだけは聞き入れて。いままでなにひとつ耳を貸してはくれなかった、世界できっと自分にだけは優しくないと、そう思うことで遠ざけていた、見たこともない、神様でも。

 

 

 

白くなるまで力を籠めた、勘九郎の指に憲男の指が絡められる。

困ったように笑いかける、彼に今度は自分からも微笑みかける。

打たれたような、ぴくりと跳ねたその肩の意味を勘九郎は知る由もなかったけれど、それでも憲男の指を握り返すことは出来た。自分から触れることが、自分の中でも許せた。

関わり合いになれば面倒なことになる、それでも自分を迎えてくれた人がいる限り。

こうして強く、つよく指を繋げるひとがある限り。

 

まだ大丈夫。

きっと。

まだ、大丈夫。

 

 

大丈夫。

 

 

 

 

その日はじめて錆色の町に、違う色を見付けられた。