異聞・風聞 馬耳東風 (お侍 習作54)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
 



 「…そうそう、褐白金紅のとかいう ふざけた奴らだろ?」


知ってらぁな、こんだけ話題になってりゃよう。
州廻りのお役人までもが頼りにする、有名な賞金稼ぎのことだろが。
いやいや、俺はまだ逢ったこたぁねぇけどよ。
なに、そのうち此処いらにだって伸して来るさね。
それなりに物騒な奴らが犇めき合っているんだからな。

そうさな、賞金稼ぎってのは昔っからも居たこた居たんだがな。
こうまでドッと増えたのは、ほれ、
何年前だったかに、どこやらの荒野で“都”が墜とされた騒ぎがあっただろ。
あん時は、天主から追い詰められてた野伏せりどもが、結集しての討ちかかったもんの、
相討ちで双方ともに大打撃を受けて。
都は撃沈、野伏せりの方も、主力は大方やられて残党は四散。
そんな連中へ、
破れかぶれで襲われちゃあかなわんと思ったらしい、
各地の里や村、土地もちの分限者らが賞金を懸けた。
どこの誰とも限らず、野伏せりなら誰でも…なんてな、
乱暴な代物も結構あったらしくてな。
村の守護にという食い扶持、もとえ、配置を受け損ねた浪人どもは、
これを逃してなるものかと色めき立っての、
賞金首狙いに繰り出して、それで今みてぇな乱立状態になっちまったんだがよ。
そもそも生身の体の浪人に、鋼の機巧侍がそうそう斬れる訳がねぇのにな。
野伏せりって言やあ、機械の侍が大半でよ。
そもそもからして、そんな身だから普通には暮らせなくっての“凋落”だ。
だが、機巧の身体だってことは、
先の大戦で名を挙げての褒美をもらい、それを元手に擬体を手に入れ、
それからどんどんと手を入れての、デカくなってった奴だってことだからよ。
それが…本人の意志から生身のまんまでいたんだにしても、
体力や馬力、体の大きさも、強度だって、生身と機械じゃあ桁が違うんだ。
勝てっこねぇのに…目が眩んじまうもんなんかな、
噂を聞いちゃあ追っかける手合いが増えた。
まま、機巧侍には勝てないと察して、
ちゃっかりとそいつらの仲間んなるよな不心得者も現れたから、
そういう奴らを狩るって道がなくもなかったんだろうけれどもな。
な〜んか本末転倒してるよな、そりゃ。

え? 他の奴なんてどうでもいい?
褐白金紅の話が聞きたいって?
何だよ、あんた。奴らの追っかけかい?
まあな、ウチは酒場だ、色んな噂が集まっちゃあ散ってくところだ。
だけどもよ。
その前に…酒場なんだから商売してナンボってもんで…。
おお、そうかい。ラム酒だね、ボトルごと? 豪気だね、あいよ。
で、どこまで話してたっけかねぇ。
そうそう、褐白金紅の。
こんな呼び名を誰がつけたかも判ってないが、
どうやらそれは奴らの見栄えから来てるらしくてな。
褐色とも濃灰色ともいえない深色の蓬髪に白い衣紋の壮年と、
金髪痩躯に真っ赤な長っとろい衣紋を着た若いのと。
そんな派手な身なりした二人連れだってことから、
褐白金紅、なんてな呼ばれ方をし始めて。
ただ単に徒党を組んでる野盗から、大ヒグマに人食いザメに、
野伏せり崩れの機巧侍を助っ人に引き入れた、大所帯の山賊や海賊まで。
奴らが通る道行きの、その途中にでも居合わせたが最後、
そりゃあよく斬れる恐っそろしい刀でもって、
頭からずんばらりと斬り捨てられの、
草一本残らないってのがそっちの筋からの評判だ。

 「特に、その壮年の方。」

島田…何とか、つったかな?
野伏せりの残党連中がこぞって恐れてるってほどの練達で、
何でも直接逢ったことのある奴が、こんな風に言ってたんだと。

 『奴は死びとの眸をしておる』

生身の侍なのに、まるで死を恐れておらぬ、と。
先々に野望大望があるでなしの、死に場所を探してでもおるかのような、
そんな眸をしておったのが、それはそれは恐ろしゅうて。
何をどう構えたとても、あんな輩に勝てようものかと、
身震いまでして語っておったのだとよ………。






  ◇  ◇  ◇



 依頼を受けて手をつけた成敗、無辜の民らを苦しめる無頼な者共を平らげる仕儀が、それは鮮やかな太刀ばたらきの下、見事に一段落し。

 「それでは、ごゆるりとお休み下さいませ。」

 明日にも州廻りのお役人が検分にやって来ますで、それまではおらっしゃって下さるとか。離れに寝間を用意しておりますで、そちらで明日までお休みを。庄屋の老爺がそれは丁寧に挨拶をしつつ、小ぎれいに整えられた寮へと案内したは。今や売り出しの、褐白金紅のと呼ばれている賞金稼ぎ。壮年と青年という、やや年の離れた二人連れ。ではあれど、親子とも思えぬ“相方同士”のお侍様がたであり。
 お若い方の御方は、それはそれは身が軽く、目にも鮮やかな紅の、長い衣紋の裳裾を躍らせ、金の髪、揺らしながら、それは軽やかに胡蝶のように宙を舞っては。両の手に握った細身の双刀、順手逆手に巧みに操っての薙ぎ倒し。疾風のように駆け抜けたその後へ、ならず者らの屍を積み上げる。
 片や、壮年様の方はというと。多勢が一気に躍りかかっても、お見事に躱すだけのバネをお持ち。中空高々 跳ね上がっての退避にて、相手の注意を撹乱したその上で、正眼に構えた大太刀に、念を込めての波動を発動。蓬髪ひるがえしての豪快な一閃にて、気功を飛ばし剣圧を浴びせ、壁のような巨漢でさえ、山のような雷電でさえ、息を引く間もあらばこそとの瞬殺で、見ン事 仕留める剛の者。


 「はや〜、ほんに頼もしい壮年様だなや〜。」
 「あんなお静かな方だに、
  野伏せりの黒いのが一遍に二十は飛び掛かったの、
  たったお独りで平らげちまったそだと〜。」
 「オラはやっぱ、お若い方のお侍様がエエだ〜vv
 「んだ。あの凛とした男ぶりはどうだ。」
 「んだんだ。役者みてぇにお綺麗だ〜vv
 「だってのにまあ、お強いお強い。」
 「こ〜んなでっかい雷電も、あっちゅう間に粉々にしたんだと。」


 危ないから女子供は隠れていろと、頑丈な作りの蔵の中、押し込められていたものだから。大人数を相手の生々しくも凄惨な斬り結び、命を狩り合う修羅場の様子も実際にはその目で見ていない。そんなせいもあってのこと、鮮烈なまでにお強い方々だとしか聞いていない娘らは、胸に沸いたる好奇心を甘く疼かせこそするものの、それなりの存在感や重厚な気配を帯びた方々へは、圧倒されてしまっての、近づくなんてとんでもなくて。せいぜい遠巻きに眺めやるので精一杯というところ。

 「お侍様は凄げぇな〜。」
 「んだ〜。鉄砲も何も使わねで、刀だけで退治してしまわれた。」
 「鉄
(かね)の野伏せりも斬ってしまわれた。」
 「強ぇんだなや〜。」

 わんぱく盛りの子供らにしても似たようなもので、さぞや胸のすくような活躍をなさったのだろうに、なして大人は見せてはくれぬのだろうかと。口惜しさ半分、覗きに来たが、こらこらもう遅いんだ、帰れ帰れと追い払われるのが関の山。やっとのこと、枕を高くして寝られるのだと。そっちの幸いを噛みしめぬかと、長老や親御に諭されて、しぶしぶ帰る彼らの気配、

 「………。」

 壁越しのお背
(せな)を向けたままにても拾えるから、さすが練達は恐ろしい。どこの里でも同じよのと、苦笑混じりに彼らの気配が遠のくの、座したまんまの胸の内にて見送った壮年様。やっとのこと、落ち着いて気を抜けると息をつき、

 「久蔵。」

 囲炉裏を挟んだ向かいに端然と座した、相方様へとお声をかける。土間の上へ框で高さを取った、こちらは板張りの居室だが、次の間の畳敷きの部屋へと寝間を用意されており。食事も湯浴みも母屋でいただいたので、よほどの変事でも出來しない限りは、明朝までを二人きり、水入らずで過ごせるという運び。とはいえ、

 「疲れたであろう。先に休め。」

 どこから落ち伸びて来たものか、この片田舎の農村を蹂躙しようとしていた、野伏せり崩れの野盗ども。結構な数がいたのを一応は薙ぎ倒したが、万が一にも取りこぼしがいるやも知れぬ。形勢を読んでか、命乞いをし得物を捨てたのでと、殺すまでもないと捕らえたクチが。いきなり豹変しての勢いづいて、荒い言葉で見張りを脅して暴れるやも知れぬ。そんな突発事態が起きても…はっきり言って残党の残党。もはや彼らの敵ではない相手だが、それでもの念のため。勘兵衛の側は寝ずの番をと起きている構えでいるらしく。

 「…。」

 瞼が重たげなのは常のこと。眠くはないということか、じりとも動かず、鬱陶しい前髪の陰から赤い眼差しを向けてくる久蔵。四角く座してのいい姿勢だが、しゃちほこ張ってのそれではなくて。勘兵衛同様に泰然としているところが、何とも心憎いばかり。動作優先の仕立てを為された真っ赤な衣紋。刀さばきの邪魔にならぬようにとの配慮から、腰から上がその身へ張りつくような型をしており。彼のその、ただでさえ薄い肩や細い二の腕が、ひどく強調されているようにも見えて。この痩躯からよくもまあ、紅蜘蛛のあんな巨躯を、一撃で叩き伏せられる力が出るものだと。この身の下へと組み伏せるのへ、難儀を覚えたことが一度もないこと、思い起こせば尚更に。一体どのような制御をしているものかと、何とはなしにも思っておれば。

「随分と好かれておったようだの。」
「?」

 近ごろの若い娘御は年頃の合う若いのよりも、思慮深くて懐ろの尋も深い、壮年が好みであるらしいの。

「…久蔵?」

 精悍でおいでなのに理知的で重厚で。泥臭くはなくての知的な落ち着きが何とも凛々しいと、
「それは盛んに囁かれておったぞ。」
 目許をちょいと眇めての、ふふんと笑った彼だったが。

  “…ややこしい悋気を起こしおって。”

 怒ると饒舌になる彼だくらいは、既に覚えて久しい性分で。これがまだ、自分よりもちやほやされおってという種の腹立ちならば、煽ってからかうか、笑って取り合わないでおれたもの。そうではないからややこしい。

  「…。」

 溜息を零すでなく、物憂げに眉を顰めるでなく。無言のままに長い羽織や衣紋の裾をさばいて、膝を立てての立ち上がり。囲炉裏の縁を廻って、彼のすぐ傍らへと足を運ぶ。毅然と…にしては、視線が俯いたままなのが、何とも彼らしくはないままに、
「…。」
 こちらの気配を肌ででも感じつつ、逃げも振り払いもしないで待ち構え。すぐの傍らに そおと膝を落とした勘兵衛の、温みが、手が、腕が。伸ばされて、触れて、引き寄せてくれるのへ、為されるがままになっている久蔵で。

 「俺は、おかしいのかな。」
 「?」

 いつもの懐ろに造作なく掻い込まれ、充実した胸板へと頬を寄せ。

 「誰かをほしいと、思ったことがなくて。」
 「…。」

 重みのある武骨な手が髪を撫でるのが、泣きたいほど暖かくて。

 「こんなに際限
(キリ)のないことだとは思わなくて。」
 「…久蔵。」

 どこまでもを独占したくて際限がない。こうまで強欲になるものだとは思わなくって、それもまた自尊心をつついて苦々しい。物静かで優しい、年上の情人をば見上げれば。顎を引いての向こうからも、深色の双眸が案じるように、こちらを見下ろしていて。困ったような顔だと判るから、それがまた胸に重い。だというのに、

 「…すまぬな。」
 「…。」

 ただの勝手な我儘だ、謝らなくていいのにと。ゆっくりかぶりを振って見せれば、六花を染ませた暖かな手が頬へと触れた。

 「儂も、こういうことへは慣れがのうての。」
 「…島田?」

 大切にせねばならぬお主を不安にさせた。だが、繕い方を知らぬのだ、不遜な言いようだが許せ、と。自分もまた何処だか傷めたかのように、真摯に済まなさそうな顔をする勘兵衛であり。それが何だか、常よりも愛惜しく見えて。

  「違う。」
  「…?」
  「島田が変わっては意味がない。」

 如才なく気を回せるような、そんな男であったなら。

  「そもそも惚れてもないと思う。」

 無論、不器用者だからと惚れた訳ではないけれど。慣れぬ迎合からあちこちが塗り変わっての終しまいに、好きになった島田でなくなってしまっては意味がないと。さらり口にした久蔵へ、

 「…。」
 「島田?」

 言葉を無くしての、凝視をばかり向けて来る勘兵衛なものだから。かくりと小首を傾げたそのついで、視線は外さぬそのままに、ふわふかな髪とまだその線がすべらかな頬、相手の胸元へとぱふり押しつけて。どうした?と目顔で訊いたが、

「…。」

 訊かれた方は…それどころではなくて。

  “気がついて、いないのだろうか?”

 今、間違いなく、惚れたと口にしたことを。

 「島田?」
 「あ、ああいや。済まぬな。」
 「謝るな。」
 「いや、えっと…。」

 我に返ったのと同時、今度はいきおい挙動不審になってしまった壮年だったが、そこはどうかご容赦を。色々なことへ経験豊かな彼だとて、先程も言ったが、唯一これにだけは慣れてはいない。誰ぞをこうまで愛しいと思い、そのご当人からも全力懸けて愛されること。そして、それをこんな間近からの直球で、実感すること、だけは………ねぇ?
(苦笑)





  ――― お御馳走様でしたvv










   おまけ


 胸の閊えを吐露したせいで、ちっとは落ち着いて来たものか。いつもの定位置であるお膝の上へと。その衣紋の裾を踏みはだけつつも、乗り上がってきた若侍の痩躯。こちらからも支えるようにし、背へと回した腕と手で、しっかと抱きかかえた蓬髪の壮年様が。髪を撫でつつの、ふと、ぽそりと告げたのが、
「お主が“おのこ”でよかった。」
「?」
 そんな唐突な言いようで。不意だったこと以上に、その文言自体へも思い当たるものがなかった久蔵、何の話だと言いたげに眉を寄せれば。殊更に声を低めてのこそりと、勘兵衛がわざわざ相手の耳元へ唇を寄せて囁いたのが、
「なに。村の若い男らは、我らを見やって別な話をしておったからだ。」
「…別な話?」
 うんうんと頷いての、続けて紡いだは、

 『見たかあのお内儀。』
 『見た見た。』
 『何つー迫力ある別嬪だなや。』
 『んだな。怖ぇーくれぇ綺麗ぇだー。』
 『都会のおなごは皆、ああなんかな。』
 『いや〜、お武家様の奥方だからだで。』

 ここいらの方言までは再現しなかったものの、そんな会話を交わしておったぞと、苦笑混じりに伝えれば、

 「な…っ。////////

 たちまちのこと、真っ赤になってしまった久蔵だったのは、照れてというより憤慨してのことだろう。あまりの寡黙さと、その美々とした容貌とから、女性だという誤解をされていたその上に、お内儀だの奥方だのと、勘兵衛の妻扱いで把握されていたらしく。

 “以前にもなくはなかったが。”

 そいやありましたが、あの時(『
寒月夜』大ヒグマ退治話 )は。まだ完治には至っておらず、首から提げていた関係で、袖を通さずにいた腕を胸元へ添わせていたせいで。胸乳があると見えなくもなかったからだった。

  ――― それが、こたびは。

 ご亭にただただ柔順な、楚々と奥ゆかしいばかりな妻女ではなく。自らも背に負うた刀を振るうらしき剛の者。さすがはお武家で、淑
(しと)やかなだけじゃあない。そんな冴えをもはらんだ清冽な美しさに、誰しもが視線を奪われていたらしく。しかも、

 『あの、つんとした澄まし顔が、夜な夜なあの壮年に組み敷かれて。
  綺麗な御々脚、蹴りはだけてのあられもなく、どんなお声で啼きやるか。』
 『おいおい、無礼もんて斬られてもうぜ?』
 『だども、何〜んか艶っぽいのは確かだなし。』
 『ああいうお堅いおなごほど、情も濃ゆうての激しいそうな。』
 『んだんだvv
 『まだあの若々しさだで。
  きっとあの連れ合い様に、みっちり仕込まれていなさる最中だでよ。』

 そこはまま、彼らの邪推も当たらずしも遠からじで。
(笑)

 「…。///////

 確かに、夜ごと。この雄々しき肢体に掻い込まれての、そおっとそおっと組み敷かれ。その総身、甘くなれ熱くなれと蕩かされての、鋭意“調教中”の身であったがために。例えば目線の、例えば所作の端々につい。伴侶へと意志を向けたるそのついで、情のみならず隠し切れない艶までも、秘すこと能わずの多少ほど、滲み出していたかも知れず。ただただ清楚なだけ、きりりと颯爽と凛々しいだけという風情のみならず。秘しても匂い立つなまめかしさだとか、妖しくも甘やかで淫靡な気配だとか。これ見よがしに べちょり・ぬたりと、いやらしくもあからさまではないからこそ。楚々と秘やかに忍ばされておればこそ、却って気を惹き、そそられるものなのか。そんな気色を嗅ぎ取られ、そこからの良からぬ妄想を育てられてしまっていたらしいが。

 「お主が男だと判ってからは、
  そんな淫らな陰口も、さすがにぴたりと止まったからの。」

 おなごでなくとも侮辱も甚だしい言われようではあったれど…と、何ともしょっぱそうに苦笑をした壮年殿。懐ろへと掻い込んだ愛しいお人の、猫のそれのよにしなやかで細い、ここもお気に入りのお背
(せな)を撫でながら訊いたのが、

 「許してやれるな?」
 「…。(頷)///////

 素で笑っていないのは、彼こそが少々…自覚もなかろう次元にて“むっ”と来たことだからでもあろう。ある意味、自分の伴侶を貶められたようなもの。口にする気もなかったに違いないが、好いたらしいとの取り沙汰をされた話のついでのつもり、胸に引っ掛かっていたそれが、ついつい口をついて出てしまったのかも。そのくらいはと…それでも頬は赤くなったが、その頬を向かい合う懐ろへと揉み込んでの“こくり”と頷いて、了解の意を示す深紅のもののふ様。…お眠でしょうか?
(苦笑) それにつけても。確かこの村の人々は、狼藉者らの一群から あらぬ無体を受けていた筈なのだけれど。

 「…余裕だな。」
 「いかにも。」

 今日明日というほどもの切迫した窮地にあった訳ではなかったということか、それとも。噂の賞金稼ぎコンビが到着したことで、一気に緊張感が弛緩したものか。いやはや、人という生き物は、どうで逞しく出来ているらしく。そんなおおらかさに鼻面を叩かれてのこと。ちょっぴり混乱した久蔵が、自己嫌悪に打ち沈み、らしくもなく取り乱したことさえも。呆れた弾みですんなりと、相殺された威力は物凄く。
(苦笑)

 “もしかして、今一番強いのは庶民なのかも知れぬな。”

 遥か遠くに大望はなくとも、すぐの明日を見据えて生きてゆけるその逞しさ。節操がない訳ではなくの、弱い者なりの保身としての“忘れ方”も心得ており、くさくさしてても始まらぬと、三歩歩けばもう顔を上げられる切り替えは、いっそ大した潔さかも知れずであり。

 「…。」
 「んん?」

 ぼんやりと思案しておれば、衿をぐいと引かれてしまった勘兵衛様で。見下ろせば…少し潤んだ赤い瞳が、何か言いたげにゆらゆらと揺れており。

  ――― どうした? 眠いなら寝間へゆかぬか。
       ………。////////

 いやいやとかぶりを振っての、ぎゅむとしがみつく手に力が籠もる。もはや好き勝手に妄想されておるならば、存分に甘え倒してやろうとでも思うたか。大好きなお膝にこのまま跨がったままでいたいらしくて。しなだれかかる痩躯をくるむ、紅の衣紋の下肢部に入ったスリットからは。お行儀悪くも腿まであらわにするほど、綺麗な御々脚が踏みはだけられての大胆不敵さ。

 “傍から見やれば色香も何もあったものではなかろうな。”

 得てして実態はこんなものさねと、声を潜めてのくつくつと喉奥にて苦笑った壮年殿だったが、いやいや、どうしてどうして。そちらからは見えなかろう、お胸へと伏せられたお連れのお顔の、

 「…。//////////

 何とも切なげに含羞んでおいでのことかを見やったならば。そんなお気楽な言いようなんて、出来るはずがないのだけれど。

 「???」

 そうですよね、如才がないようなら惚れたりはしてないってか?
鈍感カンベエ様、こういう見落としもまた、精悍な色香を保つ秘訣なのかもしれません。(笑)





  〜Fine〜 07.5.26.〜5.27.


  *悋気狭量その3、なんつって。(笑)
   あられもない睦事への想像云々ってのは、
   もしかして“言葉責め”にあたるのでしょうか?
(笑)
   だとしても、
   この程度のものしか書けない芸無しですんません。
(とっほっほ)

  *これでは久蔵さんばっかりが不甲斐ないので、
   も1つ おまけを捻り出しましてvv 
こちらvv (別窓開きます)


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