コンコン、と控えめに病室のドアがノックされて、銀龍は視線を落としていた書籍から顔を上げた。
「どうぞ」
「失礼します。こんばんは、お姉さん」
「君は先日の…」
「如月と言います」
ひょっこりとドアの間から顔を出したのは先日の美少年。闇討ちか?と少し身構えながら見舞い客用の椅子を勧めた。
「闇討ちではないですよ。ちゃんとお見舞いです」
「心読むな」
はい、これ。と渡されたのは花籠と紙袋。紙袋がやけに重いと思ったが、中を見て得心した。まず、丹羽良親殿(おそらくあの関西訛りの美丈夫)からの懇切丁寧なお見舞いと謝罪の言葉が羨ましいくらい綺麗な文字で綴られた書簡。そして、
何故に酒――。
少なくとも銀龍は今まで(前世を含め)見舞いに酒を貰った事はない。
「女性のお見舞いにお酒はないですよね。でも、良親様は造り酒屋の跡取りなので、ご容赦下さい」
「そ、そうデスカ…」
妖艶な美貌でにっこりと微笑まれ、銀龍はツッコミを入れる事を諦めた。
「今日は、関西訛りじゃないんだな」
「お姉さんが聞きづらいかと思って。あ、そうだ。総代様にお姉さんの連絡先聞いてくるように頼まれてたんです。教えてくれますか?」
「そんなにほいほい関わりを持って大丈夫なのか? 仮にもそちらは――」
「表と裏二つの顔があるのはお互い様だし。それにお姉さん、あり得ない程強いから首根っこ捕まえておきたいんですよ」
どうせここで教えなくてもこの者達なら調べ上げるのは容易い事だろう。あくまでも笑顔でごり押ししてくる如月君に連絡先のメモを渡した。
「関西に来ることがあれば連絡下さいねお姉さん」
島田の一族を知った上で生きていく者を野放しにはできないのだろう。
「気が向いたら。あと、お姉さんじゃなくて、雲居銀龍ね」
「では、僕はそろそろおいとまします。また今度会う時は、手合わせしてくれませんか?」
「…気が向いたら…」
「約束ですよ。ほな、さいなら銀龍はん」
~Fine~ 09.11.14.
*宮原 朔様『翠月華』さんのところの転生現代パラレルへ、
ウチの“小劇場”の面々がお邪魔させていただきましたコラボ作品です。
少々解説をさせていただきますと、
前世を侍として過ごした記憶を持ちながら、現代へ転生した島田勘兵衛は、
その戦乱の世にて しばし共に過ごした顔ぶれと次々に再会しつつ長じてゆき、
今世での生まれに逆らえず、
二十四で島田家当主になると同時に、五代目六花会会長の座に就いた。
世にいう“極道”の頭目であり、闇の世界に生きることを選んだ彼は、
いまだまみえぬ古女房、七郎次との再会をあえて断念。
自分のような立場の人間とは逢えぬままの方がいいと、
名残は尽きぬが、敢えて探そうとしなかった。
そんなムーディなお話に、ウチの荒くたいのが乱入してもいいものか。
Morlin.の懸念を他所に、お見事に描いていただいて、
……すごすぎます、宮原様vv
大好きなギンリュウ様も大活躍でしたし、
ウチの西の総代も美味しいところを浚ってるしvv
何といっても圧巻は、
お若いのにウチの宗主様に負けないくらい錯綜しきった勘兵衛様…。
ウチのおっさまの屈折ぶりなんて、
青少年のやさぐれようくらいに可愛く思えてしまいます。
ややこしい時にややこしい人と逢ってしまった訳やね。
何て罪なシチさんだろか。
でも、現世では七郎次さんを探しはしないって言ってたのに。
あ、確かめたかっただけかしら?
途轍もない大作を、ありがとうございましたvv
掛かりっきりだったのでしょう? お疲れ様でした。
さてさて、次は私の手になる幕でございますが…。
お気軽に二つ返事で“構いませんよ”と承諾したことを
微妙に後悔しかかっております。
相変わらずに、何か外してるお話で相すみません。
先に謝っておきますね。(こらっ)
拙作 『青玻璃 宝珠』へ続きます。

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