青玻璃 宝珠 〜 お侍様 小劇場へのコラボ


 

 「……さようか。うむ。
  …ああ、大事なければそれでよい。
  こちらから仕掛けることもなかろうて。」

 報告の電話に重々しい声で応じ、それではと切れた携帯を、しばらくほどその手の中に見やる。外出している七郎次へ微妙な存在が近づいたとの報告で。だが、しばらく歓談しただけなようだし、そもそも それの前提となったのが、七郎次の愛車へ何者かが細工を施したせいだとのこと。性
(たち)の悪い車上荒らしでも出やるのだろとの目串をすぱりと立てて、本来は反則技だが静止衛星からの映像を拡大解析し、怪しい影を捕捉しての取っ捕まえてやれと。警察という公的組織には法が邪魔して出来ぬこと、手を回していいからとあっさり許可するは、倭の鬼神との二つ名を冠された、絶対証人様であり。

 “六花会の総代、か。”

 手をつけることになれば、どんな案件であれ相手を軽んじることはない。慢心はそのまま、自らを損なう暗器にもなりかねず。そして こたびほど、その心掛けへと忠実にいたことに安堵した例も少なくはなかろう。確かに自分が乗り出すほどのことでもなかった。泳がせておいて良かった小者。何ならいずれかの支部の下部組織にでも任せて間に合ったような対象だったのだが。直接の対象はそうでも、勘兵衛をそうまで動かした当事者…欲の皮を突っ張らかしたあの議員の“暗器”として、悪事を執行しもする手足を担っていた存在は。たかだか地回りの大将、チンピラの元締め程度に思っておれば、倭の鬼神の実在を知っていたのみならず、こちらの動静にも俊敏に反応し。勘兵衛の感情的な憤懣が、事態をより深刻にしたのだという流れを察してか、問題の政治家の隠し帳簿や何やとそれから、お怒りの源となった七郎次への調査書類とをすべて揃えて差し出して来た。

 “…とはいえ、謝辞はなかったが。”

 あくまでも抗いはせぬとしつつ、だが、だからと言って屈服もしない。それどころか、約定を破れば…と前おいて、こたびも相当な仕置きを受けて思い知った筈なこと、勘兵衛の逆鱗へあたろうことと重々判っていつつも、七郎次へどんな奇禍が及ぶかと言わんばかりの、何とも物騒な言いようを置き土産にしてった剛の者。たかだか二十五、六の若造だのに、闇の道を進むこと選んだ者は、それなりの修羅を呑んでの飛び抜けて早成するということか。

  “惜しいことよの。”

 まだ幾らでも道は選べる年頃だろに、まるでこの自分のように、茨の道をゆくしかない生まれででもあるものか。肩を張ることもなくの、それでも重厚な威容に満ち。それにより静謐を保たれたその風情の中に、深い見識持つ懐ろの尋の深さを窺わせてもおり。闇という名の泥に染まり切る前に、せめてその重荷を判ってやれる者こそが、彼の周囲へより多く集えばいいのだが。例えば自分にとっての七郎次のようなと、そこまで思考が進んだその間合いへ、軽やかなチャイムが鳴り響き、玄関の扉を開閉する物音が届く。

  ―― ただ今 戻りました。
     おお遅かったの、如何した。
     それがですね、勘兵衛様…。

 買い物の荷をキッチンまでへと運びつつ、とんでもないことがあったんですよと屈託なく語り始める女房殿へ。何にも知らぬ、今初めて聞いたぞというお顔、押し通すことは出来ましょうが。

 「それでですね、勘兵衛様。どういう用事か、良親様がおいでになっていて。」
 「…良親が?」
 「はい。車は結局、JAFの人を呼ばないと動かせませんと言われたので、
  それではと連絡をしてから、
  じゃあ私はタクシーでも拾いますと話していたところへ、
  どこまでホントの偶然か、結構な車で通りかかったのが良親様で。」

 それは美しい女性を乗せておいででしたが、その方が停めさせたらしくって。六葩さんのお知り合いだからと、あっさり車を乗り換えてしまわれて…と。つまりは振られたところを目の当たりにしたんですようと、クスクス笑い出した七郎次、

 「じゃあ、おシチは俺が送ったるとかお言いになって、
  そこの門口までを送って下さったのですが。」

 でも確か、良親様、肩を脱臼なさる大怪我負われたんじゃなかったですか? だってのに、こんな遠くまで伸して来られてたなんて。あやつほどの女好きは滅多におらぬからの、そのくらいの怪我なぞ おしてでも逢いたい美姫ででもあったのだろうさ…などと。すっかりと他人事扱いで語り合うお二人だったが、どちらかが片やへとそれ以上の深入りせぬように、歯止めを請け負い、わざとらしい台本構えて顔を出したのが真相だとは。さしもの知将や練達にも、察しさえつかなかったらしくって。晩秋の黄昏もとっぷりと暮れ、お腹が空いたよぉと駆け戻った次男坊へ、いつもと変わらぬ笑顔でのお出迎えを果たしたおっ母様。そんな坊っちゃまと同じくらい何にも知らぬまま、はてさてどこまで行けるやら……。






  〜Fine〜  09.11.14.


  *たまたま上京していた、若しくは須磨へ戻ってなかった良親殿。
   あの二人をくっつけておくのはまずくはないかと持ちかけて、
   銀龍様とのドライブを取りつけたらしいです。
   さすが、転んでもただは起きない関西人。
(おいおい)
   六葩様の側の事情は知らねど、
   勘兵衛様そっくりのお人が、
   しかも意味ありげに七郎次さんを見やってる図を知れば、ねえ?
   余計な波風が立つんじゃなかろうかと危惧するのもしょうがない。
   ……とか何とか、言ったんでしょうかしらね?

  *何だか理屈三昧の、重いばっかな代物になっちゃったですね。
   宮原様、激しく後悔されてませんか?
   こちらと一の章と、決して比較なさらぬように。
(こらこら)
   せっかく軽快なお話を書いていただいたのに、
   下手な辻褄合わせしか出来なかったようで、何ともはやです。
   あちらの勘兵衛様にも、
   七郎次さんとの出会い(再会?)が早く訪れればいんですのにね。
   楽しいコラボを持ちかけて下さり、どもでしたvv
   如月くんまで出していただけて、どひゃあと喜んでいたのに、
   こちらからはこの爲體
(ていたらく)ですいません。
   懲りずにまた遊んでくださいませね? ではではvv


        宮原 朔様『
翠月華』さんの担当なさった一の幕はこちら →

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