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堂津岳=どうつだけ(1927m)

長野県 2003.05.02 8人パーティー(男・3 女・5 マイカー
コース 奥裾花駐車場(6.30)−−−自然園入口(7.00-7.10)−−−休憩(7.30-40)−−−稜線コル(8.35)−−−奥西山(8.55)−−−休憩(9.45-10.05)−−−休憩(10.30-40)−−−堂津岳(11.30-12.30)−−−稜線コル(14.35)−−−自然園入口(15.35)−−−途中でバスに乗車、駐車場へ
雪稜の先には三角錐の堂津岳

C子さんの一声で、堂津岳登頂のチャンスをうかがっていた彼女の山仲間が参集。  

私が信州百名山に挑戦していた当時、登山道がなく、難関ランク一、二番と考えたいた山である。堂津岳に関する登頂資料は手を尽くしたが見つけることができなかった。2万5千分の一の地図を広げて素人なりに研究を重ね、大きな不安を抱いてチャレンジした。それは9年前の5月7日のことであった。その日も快晴の好条件に恵まれて、東山〜堂津岳というハードコースを日帰りでやり遂げることができた。それ以来堂津岳は私にとって信州百名山の難関突破という思いとともに、ブナやダケカンバ、残雪、圧倒する山岳美の景観、そして変化に富んだ歩き甲斐のあるコースなど、山歩きとしての魅力がびっしりと詰まった山として、いまだに好きな山のベストスリーに数えている。
いつか再訪をと望みながら、なかなか機会に恵まれない歳月が過ぎてしまった。山を通じて知り会いとなったC子さんの登頂希望を渡りに舟として、積年の再訪願望を叶えるチャンス到来。彼女の声かけで集まったのは総勢8人、昨年堂津岳を登ったばかりのNさんがリーダー格となり、男3人、女5人いう混成パーティーが出来あがった。

朝6時、奥裾花渓谷奥の観光センター駐車場に集合。
駐車場から朝陽に輝く堂津岳の美形を望見して早くも胸躍るここち。
初対面の挨拶などを交わして6時半出発。閉鎖されているゲート脇をすりぬけて舗装道を行く。30分でミズバショウ自然園入口となる。ここからは様相が一変して残雪の世界となる
何人かはアイゼンを装着して、いよいよ残雪の山中へと入って行く。夏道コース(今は雪に埋まっている)へは入らずに、しばらく自然園遊歩道を進み、自然園案内板から樹林の中の緩やかな斜面を登って行く。もちろんたどるのは道もない残雪の上、めざすは稜線上のコル。

見上げるようなブナの巨木が林立、芽吹きはこれからだ。梢の上空はコバルトブルー一色。そして低潅木はすべて雪の下。ときおり野鳥の囀りが耳に届くほかは、森閑として神秘めいた雰囲気に包まれている。
ブナの根元の大きな穴は深さが1メートルから2メートルもある。別次元の雰囲気に融けこみ、心地よさを体いっぱいに感じながらも、下山時の目印として赤布をつけた小竿を雪に挿して行く緊張感、これもまた良い。
少しペースが速いかなあ?ちよっと気にしながらも、緩い斜面の雪上歩行を楽しんでいると、勾配は一挙に強まってきた。胸を突く急登がつづく。大幅にペースダウンして、頭上の稜線へ向けてひと汗もふた汗もかかされる。

稜線は雪堤が待ちうけていた。こちら側はほぼ垂直の壁となって我々の進行を遮っている。アイゼンをつけていないのはY子さんと私だけ。私はここを越えるだけのためにアイゼンを装着する。
突破口の目処をつけると、アイゼン無しのY子さんが果敢にステップを切りながら雪堤上に這いあがる。つづいて全員稜線に立って、朝のアルバイトを一つ終る。登り着いたこの稜線は、予定どおり最低コルという正確さだった。ここまでの所要時間は約2時間。
これからが会心の雪稜漫歩の始まりだ。駐車場で望見したときより、堂津岳が遠くに見える。もちろん目の錯覚だ。
雪堤を越えたあと、私はすぐにアイゼンを外す。
奥西山、堂津岳へと延びる稜線は、すべての潅木は雪に埋まり、雪上にあるのはブナの大木だけ。緩やかな勾配の雪稜からは、北アルプス白馬方面の銀嶺が望める。振り向けばいかにも登頂意欲をそそる東山の姿、東には高妻山、戸隠の名峰。すべてが至近の眺めであるのがこのコースの比類ない素晴らしさと言える。最高のプロムナードだと私は決めている。

あたかも天上を行く気分、心は舞いあがり、どっぷりとこの雰囲気の中に身を投げ出している。それに、今日のこの好天、広い稜線ではあるが、真正面に堂津岳をめがけて進めば間違いはなく、何の心配もないことが余計に心を浮き立たせてくれる。
前回単独の登頂時は、東山の山頂へ先に立ち、そのあと堂津岳へ向かったが、疲労感が強くてわずかの登りの奥西山を巻いてしまった。今回はしっかりとその山頂を踏んだが、深い残雪のために三角点を確認するのは不可能。
前方の堂津岳がようやく近くに感じるようになる。三角錐の美形を誇って、おいでおいでをしているようだ。

ブナの純林と思っていた樹相が、気がつくと半分はダケカンバの巨木が占めるようになって、一段と雰囲気が良くなった気がする。
ブナ、ダケカンバ、堂津岳、進むにしたがって構図は微妙に変化するが、歩きながらどこから眺めても絵になる景観がつづく。。まさに陶酔の漫歩である。
そぞろ歩く気分で堂津岳とのコルへ達すると、いよいよ本日一番のきつい登りが待っている。足場の悪いヤセ尾根の急登、そして藪。休憩のあと、一同気合を入れなおして最後の登りに取りついた。
藪に変りはないが、9年前に比べると登山者の数が増えたことで、かなり歩きやすくなっていた。
最初の藪を通過して痩せたナギの急登となる。ザレた足元は細心の注意が求められる。再び藪に突入する。この藪を突破すれば、あとは残雪が山頂までつづいていると記憶していたが、雪が途切れてまた藪に入らざるを得なかった。この藪は短いが最初の藪に比べると登山者の歩いた形跡が非常に薄い。さらにもう一つごく短い藪を過ぎると、あとは山頂への最後の雪の斜面を攀じり、そして傾斜が緩んで山頂の南端に到達した。

山頂はだだっ広い雪の円頂で、視界を遮る小枝一つない。どの方角を眺めてもため息の漏れるような景観が広がっている。目に入るすべてが“山岳美”と言ってはばからない。
胸の動悸を押さえるようにして、しばし全員で残雪の山々を眺めた。
名の知れた名山だけでも『妙高山・火打山・焼山・天狗原山・雨飾山・大渚山・雪倉・朝日岳・白馬三山・唐松岳・五竜岳・鹿島槍ケ岳・爺ケ岳、針の木・蓮華・・・・。手の届きそうな至近には高妻山、乙妻山に戸隠連峰。はるかにかすむ八ヶ岳』など。
知る人も少ない東山の逞しい姿も印象が強い。

1時間の長い昼食休憩は、山座同定を楽しみながら過ごした。
今度はいつ訪れることができるだろうか。去りがたい気持ちを残して下山の途についた。
気温の上昇で雪は少し腐り加減だが気にするほどのことはない。何回も堂津岳を振りかえっては、それぞれが「良い山だった」とか「こんなに良い山を知らずにいたなんて」とか言いながら、満足感に膨らんだ胸は、足取りも軽くさせる。
目印の赤布つきの小竿を拾いながら、きっちりと最初の入山口へと下りつくことができた。
ミズバショウ園には思い思いに散策を楽しむ観光客の姿が行き交っている。山の陶酔からいっぺんに覚める気分だ。
車道を少し下って、駐車場行きのバスに飛び乗った。3時間ほど前にその頂に立っていた堂津岳が、午後の陽を正面から受けて我々見送っていた。   めったにパーティ登山をしない私が、C子さんと知り合ってから、何回かの複数登山を体験している。
今回も健脚度にはばらつきのあるパーティだったが、互いに和み、カバーしあって、むずかしい山をほぼ予定に近い時間で無事下山できたのは何よりだった。そして私が事前にこの山の素晴らしさを喧伝したのが、大げさでなくその通りだったことを認めてもらえたのも嬉しい限り。
堂津岳をまた一段と好きな山にさせてくれた思い出の登山であった。
1994.05.07 東山〜堂津岳 日帰り登頂の記録はこちらへ
2005.04.30 堂津岳登頂の記録はこちらへ      
 
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