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山梨百名山 源氏山(1827m)
登頂年月日 1994/04/10 天候 曇り 同行者 単独 マイカー利用
甲府南IC===五開林道起点(5.25)−−−登山道入口(5.50)−−−T字路(6.25)−−−源氏山(8.05-25)−−−登山道入口(9.40)−−−五開林道起点(10.00)

源氏山々頂
2週間前、源氏山を訪れたが登山道がわからず、5時間半さまよったあげくに退却した。

今回は再挑戦である。
十谷温泉の先で土砂崩壊による倒木が林道は遮断、仕方なく標高800メートルあたりに自動車を止めた。
2週間前には凍結していた雪の林道も、すっかり融けて地肌が見える。
源氏山の道標から林道を離れて登山道に入る。急降下して谷底に下って行く道である。この前は雪の下に隠れていた道だが、今日ははっきり確認できた。下降路は歩き良いじぐざぐ道で、すぐに造林小屋の建つ谷底に下りついた。
膝上まで雪のあった小屋周辺も、雪は消えて明瞭な登山道が現れていた。谷川沿いに植林帯を急登して行く。道ははっきりしているし、今度は難無く山頂を踏むことができるだろう、早くもそんな楽観的な気分になって、足の運びも快調である。
源氏山は眺望がないというが、好展望をのぞめる烏森山が楽しみだ。右下に沢音を聞きながら、急登をひと踏ん張りすれば源氏山へ向かうなだらかな水平道となる。幅広の手入れされた気持ちいい道だ。昔は鰍沢方面の人々が農閑期に西山温泉等へ湯治に通った峠道で“湯道”と呼んでいたとう。この湯道は登山道  として地図にも表示されている。

前回の苦労が嘘のように、鼻歌でも出そうな浮いた気分になってきた。
昨日降った雨は、標高1400メートルあたりから上では雪だった。登山道を白く染めている。カラマツ林の下刈りで切り倒された雑木が、そのまま登山道に倒れ込んで道を遮っている。またいだりくぐったりして通過しなくてはならない。その度に舞い落ちる雪を浴びる。そんなことを何回となく繰り返す

水平道と思っても、緩い上り勾配で、少しづつ標高を稼いでいく。また山襞をひとつ越えたところで、急に雪が多くなった。ややためらいながら登山道らしいルートを拾って登って行く。雪に埋まった小沢を渡ったところで、10メートルほどの雪の壁に突き当った。一歩足を踏み入れると、ずるずると滑ってしまう。頼りにする手掛かりもない。わずか10メートルの登りに一汗かいてようやく通過した。その上にもうひとつ吹き留まった深雪の急斜面がある。腰まで潜る雪に、一歩登って二歩ずり落ちるような状悪を繰り返して、ようやく登り切った所が倒壊した小屋跡で、少し広い平地になっていた。湯道として湯治客が通っていたころの休憩小屋だろうか。ここも太腿まで沈んでしまう雪だった。

単独で雪のラッセル、源氏山まで到達するのは難しいかもしれない。最初の楽観気分はとうに吹っ飛び、今では真剣そのものの緊張感に包まれていた。

さて、倒壊小屋からどうするか。源氏山か烏森山か、どっちを先にするか・ ・・見当をつけて源氏山方向へ足を踏み出した。表面はクラストしているが、体重をかけるとずぶずぶと足の付け根まで完全に沈んでしまう。一歩足を踏み出す、ずぶずぶ、よいしょと足を抜く。これではとても山頂にたどり着けそうにもない。「もうこの辺で引き返そう、無理はすまい」すでに頭の中では退却を決めているのに、体の方は踵を返すことなく、相変わらず前へ向かっていく。幸いにも狭い尾根に変わった途端、 様変わりに雪が少なくなった。

帽子のひさしから、汗が水滴となってしたたり落ちている。雪をかきわけて手袋も濡れてしまったが冷たさは感じない。
ピーク直下の最後の急な登りはわずかで、それを登りきると傾斜のない平坦部となり、コメツガ原生林の空間が広がっていた。平坦部の奥が源氏山々頂だった。山名表示ひとつない。
コメツガの根元に年古りた小さな石碑があった。『強歩大会記念碑  昭和26年』と読めた。敗戦による混乱時代、日々の生活さえままならないこの時期に、強歩大会があったということに、ひとしおの感慨を覚えた。

樹林の山頂は静まり返っている。ジーンと耳鳴りを感じるような静寂。 積雪の中に人の足跡は皆無、シーズンオフのこの時期にマイナーなこんな山を訪れるのは、よほどの山好き以外にあるはずがない。ひたひたとした孤独に包み込まれるが、寂しいという気持ちはない。

山頂を後に下りにかかる。帽子から滴となって落ちていた汗が、いつの間にか小さなツララになっていた。
倒壊小屋まで戻ったが、もう雪をかきわけて烏森山を往復する気は失せてしまった。一等三角点烏森山を横目にして自動車まで戻った。

このあと、午後からは富士見山へ登って帰宅した。
(1994年4月記)

2004.11.03 丸山林道池の茶屋からの登頂はこちらへ


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