1-1.人間と文化
1-1-1<遊びと文化>
1 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。
ギリシアの昔から,「遊び」ないし「遊戯」とよばれる人間活動の重要性について言及した学者や思想家は,決して少なくない。例えば,19世紀以降,教育学や心理学の領域で、子どもがa.文化を身につけ,自我を発達させるうえで,「遊び」が大きな役割を果たすことが強調されてきた。
しかし,「遊び」を人間存在そのものに関わるものとして捉え,人間を 1 と定義したのは・オランダの歴史家ホイジンガである。彼によれば,「遊び」とは 2 であり,物質的な利益や効用とは無関係に,限定された時間と空間のなかで,一定のルールに従って秩序正しく行われるものである。ホイジンガは,b.人間の文化は,「遊びのなかにおいて,遊びとして成立し,発展してきた」と大胆に主張したが,これが彼の最も特徴的な考え方である。つまり,裁判や祭り,スポーツや戦争,そして芸術や哲学など,c.すべての文化は遊びの形式のなかで発生したというのである。
このように遊びの形式のなかで発生した文化も,その発展の過程のなかで「遊び」の要素が失われていくようになる。そのことを,ホイジンガは,スポーツを例にとって説明する。スポーツは「遊び」の典型と考えられがちであるが,その歴史を見てくるとd.純粋な「遊び」の要素が失われてきたといえるのである。
ホイジンガは,現代文化の「危機」のひとつの根源を,この「遊び」の喪失という傾向のなかに見いだしたのであった。ホイジンガにとって、e.文化は、ある種の自制と克己を前提にするものである。すなわち,
文化とは一定の範囲のなかで成り立つものであることを認め,自己の文化を最高のものとはみなさない精神を前提とするというのである。これが「遊び」の精神なのであり,真の文化は何らかの「遊び」の内容を持たなければ存続できないと,彼は主張する。
ホイジンガの著書が刊行されてから,すでに50年以上の歳月が過ぎた。しかし,彼が指摘したことは,古びていないばかりか,f.われわれの生き方を反省するうえで,むしろますます重要性を持ってきているように思われる。
問1 文中の 1 ・ 2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。
1 @ホモ・ファーベル Aホモ・サピエンス Bホモ・エコノミクス Cホモ・ルーデンス
2
@快楽を求める行為 A自由な行為 B非合理的行為 C疎外された行為
問2 下線部a.のような過程を表す語として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。
3
@社会化 A情報化 B合理化 C 国際化
問3 下線部b.の説明として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。
4
@ 文化は,物質文化、精神文化、制度的文化の3種類に分類されるのが一般的である。
A
文化とは、人間によって生みだされた、社会によって共有されたすべての行為様式である。
B 文化は,伝達することができないが,それは人種によって規定されているためである。
C 文化を意味する英語cultureの語源は・「耕作」を意味するラテン語である。
問4 下線部C.に関連して,ホイジンガの言う「遊び」の本質についての説明として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5
@「遊び」の本質は、ルールを守ることにある。
A「遊び」の本質は、仲間との連帯にある。
B「遊び」の本質は、新奇なものを求めることにある。
C「遊び」の本質は、相手に勝つことにある。
問5 下線部d.のような状態をもたらした原因として適当でないものを,次の@〜Cのちから一つ選べ。 6
@スポーツ競技において特に勝敗が意識されるようになったため。
Aスポーツに参加する競技人ロやファンの数が増加したため。
Bスポーツ選手に要求される技術の専門化・高度化が進んだため。
Cスポーツがナショナリズムや商業主義と結びついたため。
問6 下線部eに関連して,国際社会における協力・協調にとって障害となるような文化のあり方を示す語は何か。本文の趣旨に照らして最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@ 文化相対主義 A 自由放任主義
問7 下線部fに関連して,ホイジンガの言う「遊び」の精神にふさわしい生き方として
@社会的な価値や規範との衝突を避け,穏やかで静かな人生を送ることに喜びを見いだす。
A社会的な価値や規範を受け入れつつ,覚めた心や寛容の精神を持って生きる。
B社会的な価値や規範との衝突を恐れず,自分の信念に基づいて熱狂的に生きる。
C社会的な価値や規範を受け入れて,法や慣習を厳格に守ることに喜びを見いだす。
〔9-本〕