1-2.青年と自己形成

1-2-1 <人間関係について>

1 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。

 生物としてのヒトは,人間の中で人間らしくなる。青年期にあっても,私たちは,多くの人に支えられて様々な課題に挑む。しかしながら,時に支えとなる人間関係そのものが,まさに悩みや苦しみの原因となることもある。人間関係が苦しみの原因ともなることは,現代特有のことではない。仏教の言葉である四苦八苦のうちの 1  2 は,まさに人間関係にまつわる苦しみに焦点を当てたものと言える。様々な差別も,人間集団の中で作られ,多くの人々を苦しめてきた。現代においても古い差別が根強く残る一方で・欲求不満やストレス、a偏見などによる新しい差別が生まれてもいる。

 特に最近では,自殺者まで出してしまうことがあるいじめが,青年期の人間関係における深刻な問題となっている。また,いじめに悩んでいなくとも,b.自分らしくありたいと思いつつ孤独感にさいなまれたり,嫌われたくないために対立や困難を避けて馴れ合う関係に嫌気がさしたりすることは,多くの人が経験することであろう。青年期には,周囲に望まれる姿となっていく社会化と,自分らしいと思える姿になっていく 3 が同時進行している。その中で自分らしさを模索するゆえの苦しみは,避けられないものかもしれないし,意味のあるものでもあろう。そのようなトゲを持つ人間関係であるが,その傷を癒してくれるのもまた,多くの場合はやはり人間である。 c誰かに話を聞いてもらうだけで、心の痛みや重苦しさは軽減 される。同じ辛苦を味わった人の姿や経験談に励まされることは多い。今までは競争相手でしかないと思っていたライバルが,本当に辛いときに支えとなり真の友人であったとわかることもある。人間関係の機微は,奥深い。

  時には,近くにはいない人の支えが,別の人による仕打ちを耐えさせることさえある。過酷な極限状況を耐えたd.フランクルは,心身ともに衰弱した状況において,想像の中で生き生きと作り上げられた妻の眼差しに,励まされ勇気づけられた。その経験から,極限状況を耐え得たのは頑丈な身体の人々ではなく,精神の自由と内的な豊かさを持った人間であったと述べている。

  人間関係は,人生を束縛し暗くすることもあるが,力強い一条の光ともなる。

1  文中の 1 2 に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つずつ選べ。ただし,解答の順序は問わない。

 @艱難辛苦 A刻苦勉励 B愛別離苦 C求不得苦 D怨憎会苦 E難行苦行

 

2 文中の 3 に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。  

 @ 外在化  A 個性化  B 自動化  C合理化

 

3 下線部aに関連して,ベーコンはなぜ人間が誤った考えを持つのかについて考察 し,それを四つのイドラとして表現した。そのイドラについて述べたものとして最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選ペ。 4

@    種族のイドラは、民族や人種についての誤解から生まれる。

A    洞窟のイドラは、個人の経験や知識の狭さから生まれる。

  B 市場のイドラは,貧富の差による立場の違いから生まれる。

 C 劇場のイドラは,見る者と見られる者の違いから生まれる。

 

4 下線部bは,自己のアイデンティティを模索しつつある青年期ゆえの悩みと言える。そのアイデンティティとモラトリアムの関係として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5

 @ モラトリアムの期間に,自分が生涯を通じてうちこめる職業や生きがいを探すなどして,アイデンティティの確立が図られる。

 A アイデンティティを確立することで,周囲の変化によっても動じなくなり,その後に続く長いモラトリアムに移行できる。

 B 一度モラトリアムの状態に入ると,もはやそこから抜け出すことはできず,アイデンティティの確立は不可能になる。

 C 青年期以降は,およそ5年周期で,アイデンティティが確立された時期とモラトリアムを享受する時期が交互に現れる。

 

5 下線部cのような現象が起きるのはなぜか。相談する側の心理を説明しているものとして適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6

 @ 相手が真剣に聞いてくれることで,自分の悩みは軽視されておらず,自分自身が大切にされていると感じられるため。

 A 相手にわかるように話そうとすることで,自分が直面している事態を,言葉にしてまとめて検討することができるため。

 B 相手に事態の深刻さをうったえることで,相手やその知り合いが,その困難な状況を変えてくれるため。

 C 相手が共感して聞いてくれることで,自分の苦しみは誰にもわかってもらえないとは思わなくなるため。

 

6 下線部dに関して,彼が『夜と霧』の中で述べている極限状況とは,どのようなものであったか。最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7

 @ 百科全書派に不名誉な評判をたてられ,諸国を放浪した。

 A 祖国フランスに侵攻した敵と戦うため,危険な偵察飛行に従事した。

 B アテネの法律により死刑を宣告され,毒杯を渡された。

 C アウシュビッツ強制収容所に入れられ,労働を強いられた。

 

7 本文の趣旨と合致する人間関係に関する記述はどれか。最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8

 @ 人間関係は常に良いものであるとは限らないが,困難に立ち向かうための大きな支えとなることもある。

 A 人間関係は危険をはらんでいるので,どんなに信用できそうな人であっても,適度な距離を保っておく必要がある。

 B 人間関係はすばらしいものであり,その価値を実感できないのは,実感できない者の努力不足のためである。

 C 人間関係は努力すれば常に良くなるとは限らないが,自分を虐待する人に対して,恨む心を持つべきではない。

                                〔9-追〕

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