2-1.生と死と救い
2-1-1<救済と悟り>
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次の文章を読み、下の問い(問1〜5)に答えよ。
キリスト教と仏教は,東西を代表する宗教としてしばしば対比されてきた。その対比の一つに・キリスト教を「救い型」とし、仏教を「悟り型」とする見方がある。キリスト教では,神は世界の創造主で人間を超越した存在であり,人間は原罪を背負った罪深い存在だとされる。したがって,人間は、神の愛を信じ、a.神の恩寵にすがって救済を願うことになる。すなわち, 1 の十字架上の死において贖罪がなされ、神による罪の許しの道がひらかれたのであり,このような神の恩寵を信じることで人間の救済が成り立つとされるのである。
一方・仏教では、世界の創造主というような超越神の存在は認めない。仏陀は神ではなく人間だが、真理を悟って苦しみの原因である無知を滅ぼしたところに,偉大さがあるとされるのである。したがって,仏陀が見いだした真理を修行によって悟ることが,仏教徒の理想となる。すなわち、現在でも小乗(上座)仏教で見られるように,仏教徒はまず世俗的な社会生活を捨てて出家し,不殺生などの五戒をはじめとする数多くの戒律を守って自己を浄化する。そののち、禅定によって心を鎮めて b.真理を悟ることで,無知を完全に滅ぼして 2 へと至ろうとするのである。
キリスト教と仏教には,このように対照的な面があることは確かである。だが,キリスト教の中にも「悟り型」と呼べる信仰が存在し,仏教の中にも「救い型」と呼べる信仰が存在することも見落としてはならない。例えば、仏教では・籠樹やc.世親によって理論化された大乗仏教の中からは、後に中国・日本で盛んになった浄土教のような「救い型」に近い信仰もでてきた。なかでも 3 の絶対他力の信仰は,煩悩具足の凡夫が自ら悟る可能性を否定し、すべてを阿弥陀仏のはからいにまかせるほかはないとする点で,典型的な「救い型」の宗教だといえよう。
だが、より注目すべきは、両宗教がd.人間存在を否定的な観点から捉え,そのような人間のあり方からの解放として、救いや悟りを説いているという共通性であろう。
問1 文中の 1 〜 3 に入れるのに最も適当なものを・次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。
1 @ ヤーウェ A イエス B モーセ C パウロ
2 @ 自然法爾 A 無為自然 B 身心脱落 C 涅槃寂静
3 @ 親鸞 A 法然 B 道元 C 日蓮
問2
下線部aに関連して,神の恩寵のみによる救済を説いた思想家にアウグステイヌ
@神学大全 Aキリスト者の自由 B神の国 Cローマ人への手紙
問3 下線部bに関して、仏陀および小乗(上座)仏教の考え方を示すものとして最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5
@あらゆる現象はうつろいゆくもので・真の実在ではなく,現象の背後にある永遠不変な存在こそが真の実在であると悟ること。
A自然のままの世界には,一切の対立差別がなく,すべては同一なので,虚心に天地自然と一体になるべきだと悟ること。
B人生のすべては苦しみにほかならず,すべてのものは常に変化しとどまることがなく,存在するものはすべて永遠不変の実体ではないと悟ること。
C現象としてのあらゆる存在は,そのまま真の実在のあらわれであり,存在するものすべてがそのまま真実の姿であると悟ること。
問4 下線部cの説明として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6
@身・口・意の三密という神秘的な行により,修行者が大日如来と一体化し,即身成仏できることを説いた。
A縁起説を深化・発展させ,すべての事物は因縁によって生じたもので,固定な実体を持たないとする空の思想を理論化した。
B法華経に深く傾倒し,すべての人が仏になれるとする一乗思想を強く主張した。
Cすべての事物は,認識する心の働きの所産にすぎず,実在しないとする唯識の思想の発展に大きな貢献を果たした。
問5 本文の趣旨に照らして、下線部dの説明として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@人間は生まれつき徳の萌芽を備えているが,それを正しく養い育てることができないために,罪や悪に陥って苦しむのである。
A人間は生まれつき清らかな心を備えているが,それが欲望のためにくもって罪や悪に陥りやすくなるために苦しむのである。
B人間は生まれつき罪や悪に陥りやすい有限な存在であり,そのような有限性から逃げられないために苦しむのである。
C人間は生まれつき利己的な性質をもっており,それを社会的規範によって矯正することができないために,罪や悪に陥って苦しむのである。
〔7-追〕