2-1.生と死と救い

2-1-2<苦難の中の生>

2 次の文章を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。

 人間の力では乗り越え難く,人を孤独の中に突き落とすような状況において,人は何を考えるであろうか。現代の哲学者 1 は,他者との争いや死など,人間が必ず挫折に見舞われる状況を直視して,これを「限界状況」として把握したが,先哲たちもまた,そのような困難な状況における人間のあり方について思索した。

 古来,過酷な事態を前にした時でも,人間としてより善く生きることを求める思想がみられる。たとえば,ソクラテスは,ポリスの神々を認めず,青年たちを堕落させていると告発されて、死刑を宣告されるに至った。 aこの判決を不当なものとして逃亡を勧める友人もいたが,その助言を退け獄に留まった。彼はあえて死を避けなかった。それは、自らの行為を通じて、正しく生きることがいかに大切かを市民に訴え,ポリスに正義が回復されることを願ったからでもあった。

 また,ゴータマは、享楽的快楽に身を任せても、いたずらに自身を痛めつける苦行を重ねても、孤独な人生の苦しみから逃れることができないと考えた。彼は、b.最高の悟りの境地において苦の消滅を見たのである。さらに,彼は,この境地を自分ひとりだけのものにとどめず,その教えを広めることを決心した。それは,生きとし生けるものを慈しむ心に目覚めたからであった。

 他方、この世を超越しているものとの関わりにおいて,直面する苦難の意味を捉え直させる思想もある。たとえば,古代イスラエルの 2 たちは,異民族の支配による民族滅亡の危機を,神からの試練として捉えた。この苦難の原因は,人々が神を軽んじ,自己中心的な生き方をするようになったためであるとし,悔い改めて神の意志に従うことを求めた。さらに、イエスはこれを徹底し,神から与えられた 3 は神聖なものだが,これに形式的に従うのではなく、その精神に立ち返る必要を説いた。それはc「敵を愛し、迫害する者のために祈れ」と教えたといわれるように,苦難の意味を各人が捉え直して行動することを求めるものであった。

 このように、ここであげた先哲たちは, A ことの大切さを説いたのである。

 

1 文中の 1  3 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。

1  @ ベルクソン  A ハイデッガー B ヤスパース C キルケゴール

2  @覚者 A覇者 B愛知者 C預言者

3  @理性 F律法 B五常 C礼楽

 

2 下線部aに関して、ソクラテスがそのような態度をとった理由として最も適当なものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。 4

 @脱獄することは,人間わざを超えた不可能なことであるにもかかわらず,それができると思うのは無知にはかならない。人はそのような無知に基づく行為はすべきでないから。

 A自分が教えた青年たちが,国家の有力者に働きかけて,国法を改正して自分を解放してくれると信じていたので、それに希望をつないで,じっと待機すべきであるから。

 B友人の助言を考慮することは,知らなくてもよいことを知るという結果になり、もっと長く生きたいという欲望も増すことになるので,これに耳をかさないことの方が無欲なあり方を保てるから。

 C判決が不当なものであるにしても、脱獄すれば不正を犯してしまうことになる。そうすることは、人間にとって最も大切なものである魂を害なうことにほかならないから。

 

3 下線部bを説明した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5

@ 自己や自己の所有物に対する執着を消し去って,心が何事にもとらわれなくなった澄みきった平安な境地。

A 天地に満ちる雄大な気を受けて,心が何物にも屈しないおおらかな力強さに満ちあふれた境地。

B 外の世界は人の心を恐怖によってかき乱すものなので,自己の感情を抑制して外界に対して無感覚になった境地。

C 人為的な心のはたらきを捨て,宇宙の生成原理である大道に従って自然のままに生きる境地。

 

4 下線部cに関して,イエスの考えの説明として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6

@神の愛は自己と世界の本質が同一であるということを示すので,この真理を認識して,迫害を乗り越えなければならない。

A神の愛は人間に分け隔てなく注がれているので,この愛を自覚して敵をも分け隔てなく愛することが必要である。

B神の愛は神殿における儀式を通じて人々に伝えられるものなので,儀式復興のためには迫書を乗り越える必要がある。

C神の愛はすべての人間を美や善といった理想的な価値へと向かわせ.不死なるものにするので,敵味方の対立は無きに等しい。

 

5 本文の趣旨に照らして、文中の A に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ遷ペ。 7

@人間に差し迫った苦難を、知識をさらに増大させることで突破する

A状況に翻弄される人間の惨めさを,仕方のないものとして認識する

B自己の状況の意義を見つめて,人間のあり方に新たな次元を見いだす

C人間の限界の体験を結晶させた芸術作品の中に,至福の美を見いだす

                                 〔8-追〕

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