2-2.自然と人間,思索
2-2-1<根源の探求>
1 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。
古代中国の人々は,四季の移り変わりや、月の満ち欠けなどを見て、それらをそのようにさせているものを解明しようと試みた。そして彼らは,そのような自然現象の原因を,「之を使むるもの」,あるいは「然る所以」などと呼んだ。また古代ギリシアでは、万物の根源を意味する 1 が議論の対象となった。先哲たちの「知ること」の希求を,自然現象の根本の探求という点から考えてみよう。
中国の道家では,万物自然の根本が道と名づけられる。『老子』は「道は一を生じ、一はニを生じ,二は三を生じ,三は万物を生ず」と表現し, A と規定する。加えて,この道は「天下の母」とも呼ばれ,自然現象を成立させるだけではなく、育み主宰するものでもある。また,『荘子』には「天下を通じて一気のみ」とあって、生死すらも道における気の集散にすぎないものとして説明する。このように、a中国における道の探求は、単に現象や存在の根本を追求するにとどまらず,超越的な原理のレベルにまで議論が及び,やがては政治・道徳とも結びついていく。
一方,ギリシアの議論は,万物の根源を求める自然哲学という形で展開した。たとえば 2 はそれを水と言い、アナクシマンドロスはそれを無限なものと言った。これらの説は,『老子』で道が水に喩えられたり,無と呼ばれたりすることと類以しており興味深い。また,気による説明に類以したものとして,万物の根源を空気とするアナクシメネスの説がある。そしてこのような考えは・デモクリトスのb原子(アトム)と空虚
古代の人々にとって,自然現象の原因は,重大な「知」の対象になる問題の一つであった。そして,中国とギリシアの議論を比較してみると,ともに出発点を同じくし,似かよった考え方も存しているが,その探求の姿勢は異なっている。その差異が生じた原因の一つとして,ギリシアの自然哲学者たちは, B という視座に立っていたことが挙げられる。この視座に立つことによって、c自然をより理性的に見これを対象として思索を展開した。この点において,道を定立し、それに超越的性質を付与していった中国とは明らかに異なる。しかしこれらの議論は,いずれも「知」の探求のあらわれであり,それぞれ後の時代に様々な方向へと展開していったのである。
問1 文中の 1 ・ 2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。
1 @ アレテー A アルケー B プシュケー C ドクサ
2 @ セネカ A タレス B ヒポクラテス C エピクロス
問2 文中の A に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3
@ 道は,万物との間に幾層もの断絶をもち,自然や自然現象を意志的に生み出すものである
A 道は,一から二、二から三という,人間の数学的思考によって生み出されたものである
B 道は,段階的に人間をも含むあらゆる自然・自然物を生み出し成立させるものである
C 道は,万物生成とは直接関係することなく分裂して細分化し,自己運動するものである
問3 下線部aに関連して,『荘子』には次のような説話が見られる。この説話が示す道の性質を述べたものとして最も適当なものを,下の@〜Cのうちから一つ選べ。 4
『南海の帝を鯈といい.北海の帝を忽といい,中央の帝を渾沌といった。鯈と忽とはときどき渾沌の土地で出会ったが,渾沌はとても手厚く彼らをもてなした。鯈と忽とはその渾沌の恩に報いようとして相談し,「人間には誰にも(目と耳と口と鼻の)七つの穴があって,それで見たり聞いたり食べたり息をしたりしているが,この渾沌だけはそれがない。ためしにその穴をあけてあげよう」ということになった。そこで一日に一つずつ穴をあけていったが,七日目に渾沌は死んでしまった』
@ 道(渾沌)は、道に反する自己の功績や名声に執着しているような人間(鯈と忽)には捉えることはできない。
A 道(渾沌)は,すべての人間がのっとるべき儒家規範であり,それに反する人間
B 道(渾沌)は、自分の世界にとらわれた人間(鯈と忽)の経験的判断を超えたものであり,彼らには認識することはできない。
C 道(渾沌)は・日常的な場での礼儀を重んじる人間(鯈と忽)によってこそ,その本質が明らかにされる。
問4 下線部bを説明した文として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選ベ。 5
@陰気と陽気であるアトムが,空間としてのケノンにおいて運動する。
A木火土金水の五種のアトムが,空間としてのケノンの内で万物を構成する。
B全体としてのアトムが,空間としてのケノンの中で分離し万物を構成する。
C分割できないアトムが・空間としてのケノンにおいて運動し集合離散する。
問5 文中の B に入れるのに最も適当なものを次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6
@それまでの神話的世界観に基づく自然の説明を否定する
Aそれまでの合理的世界観による自然の説明を否定する
Bそれまでの神話的世界観を規範とした自然の説明を展開させる
Cそれまでの合理的世界観に基づく自然の説明を発展させる
問6 下線部cのような思索の上に立って,アリストテレスは形相と質料という概念を導入した。この二つの概念の関係を説明する例として最も適当なものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@それぞれの猫が持っている性質と,私の猫の能力。
A机の機能や構造と,机の素材となる木材。
B水という物質と,両脇どの自然現象。
C大理石でできた神像と,それを制作した彫刻家。
問7 本文の内容に合致するものとして最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8
@万物の根源に関するギリシアの議論は、目に映るものから根源へと遡るという手続きを踏まなかった。
A万物の根本に関する中国の道家の議論は、観想を重んじるという土壌の中で知の探求として発展していった。
B万物の根源に関するギリシアの議論は,ロゴスの排斥という基本精神も一因となって自然哲学へと展開していった。
C万物の根本に関する帽の道家の議論は,道を定立したことで多様に解釈されていく可能性を得た。