2-2.自然と人間,思索

2-2-2<源流思想の知識と知恵>

2 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。

 宇宙の誕生,人間の起源,国家の成立についての知は,古代社会において神話として語られた。しかし,さまざまな技術が発達し,a自然現象の観察が進むと、従来の神話的世界観は次第に効力を失った。また,相次ぐ戦乱による共同体の崩壊や,貿易の発達によって文物の交流が盛んとなった状況の中で,旧来の社会制度に囚われない自由で独創的な思想が生まれてきた。

 古代インドでは, 1 をはじめとする新しい思想を実践する出家修行者(沙門)たちが現れた。仏典において「六師外道」と呼ばれている人々である。古代中国では,諸子百家といわれる思想家たちが登場し,b社会のあり方についてさまざまな見解を提示し た。古代ギリシャでは,ソフイストたちが現実の藷間膚に対する実践的解決法を考えた。 しかし,これらさまざまな自由な思想の営みの中で,知識は,議論や弁論,策謀や出世のための道具と化す傾向があった。

 このような知識のあり方に対して,ゴータマ・ブッダ,孔子,ソクラテス,さらには 2 を批判したイエスは,あらゆる人々に共通のよく生きるための知恵を求めた。c彼らにとって,知は倫理的価値観に裏付けされていなければ,無意味なものであった 彼らの説いた正しく生きるための知恵は,個人の道徳を確立するばかりでなく,よりよき社会を実現することをも目指すものであった。

 ブッダやイエスの教えは,人生に悩み,争いに傷つく人々の心を癒やし,正しく生きることを自覚させるものであり,d民族や国家の枠を越えた宗教として,世界各地に広まっていくことになる。さらに,e自らを預言者の一人として自覚したムハンマドは, 現実社会における神の意志の実現を強調し,信仰に基づく共同体を形成していった。

 科学や産業の発展はより多くの知識をもたらし,人々の生活をより便利で快適なものにする。我々は今日さまざまな問題に直面しているが,その中で大切なのは, A である。その意味で,先人が命がけで現実と格闘し,築いていった思想とその実践の足取りは,我々に常に反省を促し,指針を与えているのである。

1文中の 1  2 に入れるものに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。

1 @バラモン教 Aジャイナ教 Bヒンドゥー教 Cゾロアスター教

2 @観想的生活 A 万人祭司説 B律法主義 C 懐疑論

 

2 下線部aのような試みの中で,自然界を構成する原理が探究されるようになった。

 古代ギリシャにおいて,「万物は流転する」ということばを残した思想家は誰か。次 の@〜Cのうちから一つ選べ。 3

 @ ヘラクレイトス     A ピタゴラス      B プロタゴラス      C ストア派のゼノン

 

3 下線部bに関して,諸子古家の書物が提示している見解についての記述として適当でないものを・次の@〜Cのうちから一つ選べ。 4

 @『荀子』は、身分秩序の守られる社会を実現するには・君主が人間に生得の同情心に基づく政治を行うべきだと説いている。

 A『老子』は,君主が民に武器や交通手段のような文明の利器を使わせなければ,社会の平和が保たれると説いている。

 B『墨子』は,戦争がなく国々が共存する社会を実現するには、君主が質素倹約につとめるべきだと説いている。

 C『韓非子』は,君主が褒美や刑罰を有効に活用することで・社会の規律が保たれると説いている。

 

問4 下線部cに関して、それぞれの思想、宗教が語っている道徳についての説明として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5

 @ブッダは,正しい知恵を得るために、正しく生活し、正しく修行すべきことを、八正道として説いた。そのうち最初に挙げられる,正見が正しい知恵にあたる。

 A孔子は,親への孝、兄への悌は倫理の基礎であるとした。それらをもとにまごころを尽くして人々を慈しむことが仁であり、それをさまざまな人間関係に推し広める人が君子である。

 Bソクラテスは,完全な友愛を通じて人と人が和合するとき、個人のよく生きることが実現すると考えた。したがって,共同体におけるよりよき生のためには、正義だけでは十分ではなく,友愛が必要とされる。

 Cイエスは,神から万人に注がれる無償の愛に応えて,隣人愛を実践るように説いた。この隣人愛の教えは「何事でも自分のしてもらいたいことは、ほかの人にもそのようにせよ」と表現される。

 

5 下線部dに関連して,仏教は中国に広まったが,詩人白楽天は禅僧造林に,仏教とは何かと尋ねた。道林は原始仏典の『ダンマパダ(法句経)』以来説かれるアのことばを踏まえて,イのように白楽天に回答した。道林の最後の答えの趣旨として最も適当なものを,下の@〜Cのうちから一つ選べ。 6

諸の悪をなすなかれ,諸の善を行ぜよ。自らその意を浄めよ,これが諸の仏の教えである。

(「七仏通戒偈」)

白楽天:仏の教えとは,一言で言うと何でしょう。

道 林:悪いことをせず,善いことを行うことである。

白楽天:そんなことは三歳の子供でも言えますよ。

道林:三歳の子供も言えるというが、八十の老人でもこれを実践することはむずかしいのである。          (『景徳伝燈録』巻4)

@子供は素直で自然に善いことが出来るが,大人には煩悩が多くむずかしいのである。

A修養して心が清らかでなければ・善いことを自然に行うことはむずかしいのである。

B善悪は相対的であり,状況に応じて善悪の判断をすることはむずかしいのである。

C仏教は儒教とは異なるから,両者にかなって善いことを行うことがむずかしいのである。

 

6 イスラーム(イスラム教)について述べた下線部eに関する記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7

 @ イスラーム以前の預言者たちの教えには間違った点があるので,ムハンマドは、特にアブラハムとイエスを非難して,神の正しい教えを確立した。

 A ムハンマドは,アラビア半島に広まっていた世界の終末と復活の教えを踏襲し,伝統的な部族結合を重んじながら神のことばを伝えた。

 B 神は,さまざまな民族に神のことばを伝える預言者を遣わしてきたが,アブラハム,モーセ,イエスなど一連の預言者の最後にムハンマドを送った。

 C ムハンマドは,イスラームの信仰が十分に守られず,不正・不義が蔓延する時代になると,再度この世界に現れ,抑圧者を排除し,正義を実現する。

 

7 本文の趣旨に照らして,文中の A に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8

 @ 科学や技術などの専門的知識だけではなく,他者の立場を理解できる心に支えられた知恵

 A 科学や技術を手段としながら,情報化社会の中で自己の能力をよりよく発揮していくための知恵

 B 時代的地域的にさまざまな制約をもつ技術や知識ではなく,普遍性を求める科学や技術の知恵

 C 事実に基づいた客観的な知識や技術よりも,親しい人間関係において養われる知恵

                                  〔12-追〕

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