2-4.家族・国家・共同体

 2-4-1〈共生と連帯〉

1  次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。

 最近「共生」という言葉がよく使われる。そこには,人と人とのつながりを大切にし,他者を尊重して,共に助け合って生きたいという,人々の願いがこめられている。「人と人とのつながり」について,古代の先哲たちが,どのように考えてきたかを見ることにしたい。

 孔子は,あるべき人間関係を「仁」と捉えた。それは、家族の間に自然に生まれる 1 を根本において,この感情を,社会の中で人間がもつ、互いに相手を思いやる心にまで広げたものに他ならなかった。一方, 2 の弟子アリストテレスは,「人間は,本性上ポリス的動物である」と述べて,aポリスを離れては,人は人間として生きていけないと考えた。彼によれば,ポリスの中で,人間の協同的な関係を支えているのは, A であった。孔子が,親子・兄弟という家族の関係を基本に,より広い人間関係の望ましいあり方を構想したのに対して,アリストテレスは,血縁とは異なる関係によって支えられた社会のうちに,「人と人とのつながり」のあるべき姿を見いだしたのである。     

 宗教者はどうだろうか。仏陀となったゴータマは、b慈悲の教えを説き,イエスは,無償の神の愛にこたえて,神が愛するようにすべての人々をわけへだてなく愛することを,人々に説いた。またcイスラム教の開祖ムハンマド(マホメット)は,唯一絶対の神アッラーへの共通の信仰を,人と人との新しいつながりの原理として打ち出した。dらは,血縁の結びつきはもちろん,民族をも超えた,より広い共生の原理を唱えたのである。しかしその一方で,これらの宗教も・教団を構成する人々の関係については、親子関係や兄弟姉妹関係をモデルとして語っている。それは,信徒間の協同的な結びつきの強さを,「家族」との類比で捉えたものに他ならない。

 このように見てくると,「人と人とのつながり」の捉え方にもいくつかの可能性があることがわかる。 e古代の人々の考えにも学びながら、家族や友人地域の人々との身近な関係から,地球規模の連帯まで,知恵と想像力を思いきり働かせて,これを模索しなければならない。

1 文中の 1  2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。

  1  @羞恥の情 A羞悪の情 B偏愛の情 C親愛の情

  2  @ プラトン A タレス  B ピタゴラス C プロタゴラス

 

2 下線部aに関して,アリストテレスの考えを説明したものとして最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3

 @ 社会を離れては理性の活動は完成しない,と考えた彼は,現実生活の中でそれを可能にするためには,理性の純粋活動としての政治活動を実琉しなければならないと説いた。

 A 社会を離れては人間は生命を維持できない,と考えた彼は,現実生活の中でそれを可能にするためには,ひたすら現実の利書関係を重視して生きなければならないと説いた。

 B 社会を離れては人間の幸福は実現しない,と考えた彼は,現実生活の中でそれを可能にするためには,両極端を避けた中庸の徳を身につけ実践しなければならないと説いた。

 C 社会を離れては正義は達成できない,と考えた彼は,現実生活の中でそれを可能にするためには,富と権力を公平に分配する強大な権力機構を設けなければならないと説いた。

 

 問3 文中の A に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。  4

 @ 克己と無欲という二つの原理  A 正義と友愛という二つの徳       B 知恵と勇気という二つの徳   C 自由と権利という二つの原理

 

4 下線部bに関する記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5

 @ 慈悲とは,生命あるものすべてをいつくしみ,あわれむ心である。この心は、仏教教団内に戒律と修行を重視する傾向を生み出した。

 A 慈悲とは,生命あるものすべてをいつくしみ,あわれむ心である。この心は, 無我の立場や空の教えと不可分の関係にあるものである。

 B 慈悲とは・生命あるものすべてをいつくしみ,あわれむ心である。この心は, 阿羅漢を理想とし自分一人の悟りを求めて修行する立場において見失われがちであった。

 C 慈悲とは,生命あるものすべてをいつくしみ,あわれむ心である。この心は,すべての人々の救済を第一にめざした菩薩のうちに理想化された。

 

 問5 下線部cの聖典には,イスラム教徒が果たすべき五つの宗教的義務(五行)が定められている。そめ組合せとして最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。  6

   @ 信仰告白・礼拝・断食・黙想・巡礼

 A 信仰告白・礼拝・懺悔・黙想・巡礼

 B 信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼

 C 信仰告白・礼拝・懺悔・断食・巡礼

 

6 下線部dのような特徴から,このような宗教は何と呼ばれているか。最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7

 @国家宗教 A民俗宗教 B世界宗教 C自然宗教

 

7 下線部eに関連して,本文の趣旨を述べたものとして最も適当なものを・次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8

 @ 古代の思想家はすべて,「人と人とのつながり」について、もっばら家族のような血縁による結びつきを,基本として考えていた。これに対して宗教者、血縁による結びつきを否定する新しい人間関係のあり方を説いた。我々は,そのいずれからも学ぶべきである。

 A 古代の宗教者は,「人と人とのつながり」の基本である、血縁による結びつきを否定した。それは神を前にした,個人の実存の自覚と信仰から生み出された考えであるが,人間の社会的な連帯を模索している我々は,この考えから多くを学ばなければならない。

 B 古代の宗教者や思想家の中には,「人と人とのつながり」の理想として、血縁による結びつきを超えた共同体における,社会的な関係を考えた人々がいた。しかし我々は,家族関係を原型とした血縁による結びつきからなる共同体のあり方にこそ,多くを学ばねばならない。

 C 古代の思想家や宗教者の中には,「人と人とのつながり」について、家族のような血縁による結びつきを基本にする考え方と,血縁の結びつきを超えた共同体的な連帯を基本とする考え方があった。我々は,そのいずれの考え方からも学ぶべきであろう。

                                  〔9-本〕

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