2-4.家族・国家・共同体

2-4-2<権威と批判>

2 次の文章を読み,下の問い(問18)に答えよ。

 古来,偉大な哲学者や宗教家は,伝統的権威や既存の価値観などと対決しつつ、自らの思想を生み出してきた。古代ギリシャの思想家であるクセノパネスは,「死すべき人間どもは,神々が自分たちと同じような装いや声や姿をもって生まれ出たものと思っている」と述べ,ギリシャ神話における 1 を批判している。aギリシャの哲学者たちは,当時の社会において支配的であった神話を批判することから出発して、神についても理性的な探究を行ったのである。そこに表明されているのは,自分の内なる理性によって,自然や人間社会を支配する理を解明しようとする姿勢である。伝統的な権威に対する批判的精神は,b異なる立場の思想家が互いの違いを意識することを通して, 多様で個性的な思想へと結実していったのである。

 こうした既存の社会的権威との対決は,古代ギリシャ以外の文化圏においても広く確認することができる。たとえば,アーリア人が支配していた北インドで設立されたc仏教教団においては,民族の枠組みを超えて世界宗教へと向かう動きが見られる。また,古代イスラエルの宗教思想においても,イザヤやエレミアといった 2 は,バビロン捕囚などの民族存亡の危横に直面して,伝統的な民族宗教の価値観を超える,新しい宗教思想の担い手となった。彼らの思想は、dキリスト教に受け継がれ,キリスト教が世界宗教として展開する基盤の一つとなる。パウロは,「もはや,ユダヤ人もギリシャ人もなく,奴隷も自由な身分の者もなく,男も女もありません。あなたがたは皆,キリスト・イエスにおいて一つだからです」と述べて,自民族中心主義を乗り越えようとした。こうした思想は,キリスト教や仏教のみならず,eイスラームにおいても見ることができる。

 以上のような合理的批判精神や平等思想を現代社会において実践するのは決して容易ではないであろう。というのも,私たち自身が社会的権威や既存の価値観に縛られているからである。ここで大切になるのが,自分とは立場が異なる他者との出会いである。他者からの批判を真筆に受け止め,対話に努めることを適して,私たちは,社会的権威に束縛されている自分の姿に気づくのである。これが 哲学者や宗教家の思想的遺産を現代に生かすための第一歩となるのではないだろうか。

1 文章中の 1  2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。

1  @ アニミズム的な神観念  A 一神教的な神観念        B 理性主義的な神観念   C 擬人的な神観念

2  @ 知者 A 預言者 B 教父 C 殉教者

 

2 下線部aの古代ギリシャの哲学者の一人としてソクラテスが挙げられるが,その思想内容として最も適当なものものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3

 @ 人間はポリス的動物という本性に従って社会生活を営む存在であり,正義と友愛の徳もポリスを離れては実現しないと考えた。

 A 対話的方法を通して自己の魂のあり方を吟味していくことが,「よく生きること」の根本であると主張した。

 B 自然と調和して生きることを理想とし,自然を貫く法則性と一致するように意志を働かせることによって魂の調和が得られると説いた。

 C 富や権力や名誉などの外面的なものや社会規範といったものを凝議し,自然に与えられたものだけで満足して生きる生活を理想とした。

 

3 下線部bに関して,古代中国思想もその一例と考えられる。老子,荀子に関する記述として最も適当なものを,次の@〜Dのうちからそれぞれ一つずつ選べ。老子については 4 に,荀子については 5 に答えよ。

 @ 他者への親愛の情にもとづいて行為することが,人間社会の理想であるとし,法や刑罰のみによって人民を統治することに反対した。

 A  生があり死があるのは運命であり,両者を一体と見てありのままに受け入れるところに束縛からの解放があると考えた。

 B 水のように柔弱なあり方に従い、人からさげすまれる地位に甘んじてこそ、真の勝利者となることができると説いた。

 C 強盗殺人が不義である以上他国を侵略して多くの人を殺すのはより大きな不義であるとして,侵略戦争を否定した。

 D 人に善があるのは、曲がった木が矯め木や蒸気でまっすぐになるのと同様に,後天的な矯正によるものであると主張した。

 

問4 下線部cに関連して、インドの仏教教団は上座部と大衆部に分裂した。その中で,上座部仏教に関する記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選ベ。  6

 @ ブッダを理想化した大乗経典を用いて俗人への布教を重視し、中央アジアを経て,中国,朝鮮 さらに日本に伝播した。

 A ブッダが制定したとされる戒律を忠実に守り、スリランカでは国家の保護を受け,さらに東南アジアに伝わった。

 B アーリア人上層階層出身者の部派であったため,保守的で,外国人への布教を好まず,インド国内にのみ伝播した。

 C 中観や唯識の大乗仏教教理を完成し,チベットに伝播して国家の保護を受け,さらにモンゴルに伝わった。

 

5 下線部dのキリスト教における隣人愛の「隣人」とはどんな人を指しているのか。 次のマザー・テレサの言葉を読み,最もよく合致するものを、下の@〜Cのうちから一つ選べ。 7

  『この世の中で,私たちがたんなる数ではないと思うことは,すばらしいことです。私たちは神ご自身の子どもです。インド・日本・アメリカ,ヨーロッパに住む人も、そして世界のどの地域に住む人びとも,みな,私の兄弟、私の姉妹なのです。あのとてもさみしそうな人とても貧しい人,とてもかわいそうな人、そしてとても偉い人も,私の姉妹、私の兄弟です。‥‥‥神はすぐそこにおられます。どこ?貧しい人びとのなかに,私の家族の母・兄・妹・夫や妻のなかに。そこにいらっしゃるのです。』

(マザー・テレサ『生命あるすべてのものに』)

 @ 同じ神を信じ,互いの利益をはかり合う宗教的な共同体のメンバー。

 A 血縁でつながった家族や親族,あるいは同一の民族に属する人間。

 B 恵まれた人たちからの経済的な助けを必要とする社会的弱者。

 C 様々な状況において出会い・神の愛のもとで共に生きる人間。

 

6 下線部eに関して,世界宗教であるイスラームについての記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選ベ。 8

 @ 神は世界を創造しただけでなく世界の終末をももたらすが・この終末のとき、死んだ人間はすべて復活し,天国に入るとされている。

 A 神はあらゆる事物を超越した唯一絶対の神であるから,いかなる偶像によってもそれを表現することはできないとされている。

 B ムスリムは唯一の神に帰依を誓う人々であるが,ユダヤ教徒やキリスト教徒なども同じ神の啓示を受け入れた者として認めている。

 C 「神から見て,箇らのなかでいちばん貴いのはいちばん槌な人間」とあるように,大切なのは信仰心であり,人間は平等だとされている。

 

問7 下線部fに関連して,近代以降の宗教論に関する記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 9

 @ シュヴァイツァーは,伝統的なキリスト教的倫理思想を人間中心主義であると批判し「生命への畏敬」を提唱したが,同時にそれは伝統的な宗教を超える新しい宗教の創出となった。

 A ニーチェは、強者を否定し弱者を讃えるキリスト教の道徳は強者に対する弱者のルサンチマン(怨み)から生まれたものであり,それに代わる新しい価値を創造しなければならないと説いた。

 B キルケゴールは,当時のデンマークでも影響力のあったヘーゲル哲学を批判しつつ,本来的な自己とは神の前に立つ単独者としてのみ可能になると主張した。

 C ユングは,個人的無意識と集合的(普遍的)無意識とを区別し,宗教的象徴は集合的(普遍的)無意識の中に存在する元型が意識によってイメージとして把握されたものであるとした。

 

8 本文の趣旨に合致する記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 10

  @ 自由や平等といった普遍的な理念の実現のためには,それを妨げる他者とのかかわりは敢えて無視することが必要である。

  A 他者の意見を批判する前に,まず相手の気持ちが理解できる柔軟な感性と思考力を身につけることが肝心である。

  B 社会的権威に追従しない自立性を確立し,ありのままの他者と向き合う勇気を養うことが大切である。

  C 既存の権威に左右されない主体性を確立し,日常生活においては他者に迷惑をかけないことが重要である。 

                                   〔14-本〕

    to センター試験もくじ