2-4.家族・国家・共同体
2-4-4<家族観こついて>
4 次の文章を読み,下の問い(問1〜8)に答えよ。
私たちはみな何らかの家族関係のなかに生まれてきており,人がよりよく生きるためには,社会での人間関係のみならず・家族のあり方を反省することも大切である。古代においては家族の形態とその構成員の役割は,共同体内の慣習によって強く制約されていた。そうしたなかで先哲たちもまた,それぞれの価値観にもとづいて,家族といかにかかわるべきかをめぐって考察を重ねてきた。
ギリシャでは,万物の根本原理を数であるとした 1 が,輪廻する魂を肉体から解放するために禁欲的な出家教団を創設した。プラトンはソクラテスを処刑したアテネの政体に幻滅し,現実の社会制度を大胆に改革して理想国家を建設することを熱望した。そして「国を守る軍人は妻子をもたずに婦人を共有し,生まれた子どもたちを共同で養育するべきだ」とまで主張した。しかし弟子のアリストテレスはa自然のなかで働く生
中国思想の主流となったのは孔子が確立した儒教であったが,社会秩序の維持は自然な家族愛にもとづいて達成できるとする儒教の考え方に批判的な思想家もいた。 2 を説いた墨子はその一人である。また法家思想を大成したb韓非子は、人間は常に自分一人の利害を考慮して行動するのであり,家族のなかでさえ打算を離れた愛情による絆は存在しないと断言した。
インドのアーリア人社会では,息子は父親の生命を受け継ぐ者と見なされ,ゴータマ・ブッダの時代までには,階級の固定化が進行していた。ゴータマ・ブッダは出家教団を創設し,志ある者たちに,社会や家族内での人間関係に起因する苦しみと欲望から離れることを勧めた。ただし彼は,出家者に家族を含む世俗社会と接触することを認め,c俗人にも可能なかぎり教えを説いた。
古代イスラエル人たちは,唯一の人格神と契約を結んだ共通の祖先をもつと信じ,連帯して民族としての独自牲を保ち続けた。それに対しeイエスは,人はみな神の前では平等であると唱えた。やがてキリスト教の伝統から,家族構成員各々が信仰により等しく神と結びつくという新しい家族観が形成されてきた。
以上見てきたように,いずれの地域においても家族関係についての社会通念を問い直した思想家たちが現れていた。f家族の形態は歴史のなかで様々な変貌を遂げてきたけれども、家族は現代に至るまでその構成員の精神形成に大きな影学力を保ち続けている。しかもg現代日本においては,家族を取り巻く社会環境が大きく変化しており,核家族化が進んだのみならず,家族のあり方はさらに多様化している。それだけ現代においては,結婚するかどうかを含めて,どのような家族形態を選ぶかを各人が主体的に考える必要性が増してきている。
問1 文章中の 1 ・ 2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。
1 @ タレス A ヘラクレイトス B プロタゴラス C ピタゴラス
2 @ 友愛 A 仁愛 B 兼愛 C 慈愛
問2 下線部aに関連して、自然の事物に関するアリストテレスの思想の記述として最も適当なものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3
@ 眼前の花が美しいのは,その花の個体としての色や形のゆえではなく,その花が永遠の「美そのもの」にあずかることによる。
A 動植物に様々な違が存在しているのは,種類ごとに固有な形相が各個体に内在し,それが発現してくることによる。
B 生物を含むすべての事物のあり方が個体ごとに異なるのは,それを構成する原子の形態と配列と位置が異なることによる。
C 事物全体は永遠の火として存続するが,個体ごとに変化していくのは・そこにおいて相互に対立する力のうち一方が他方に優越することによる。
問3 下線部bに関して,次の文章を読み,孝についての韓非子の見方の記述として最も適当なものを、下の@〜Cのうちから一つ選ベ。 4
『魯の人が,君主に従って戦場におもむき,三度の合戦で三度とも逃亡した。孔子がそのわけをたずねた。すると,「わたしには年老いた父親がおります。わたしが死ねば,だれも養ってくれるものはございません」とこたえた。孔子は,孝行者だと思い,上位に取り立てた。こうしたことからみると,父親にとっての孝子というものは,君主には逆臣なのである。』
(『韓非子』)
@ 孝は国家秩序と衝突するものであるから,為政者が孝を尊重するのは国家の混乱を招くだけである。
A 孝は国家秩序と衛突しないので,為政者が社会の秩序を維持するためには,何ら孝をめぐる政策を立てる必要はない。
B 孝は国家秩序の基盤となる徳であるから,為政者が人民に孝を奨励すれば,君主への忠も同時に促されることになる。
C 孝は国家秩序を超越した徳であるから,為政者は国家の利益にとらわれずに、人民に孝を奨励するべきである。
問4 下線部cに関連して,次の仏教伝説は,ゴータマ・ブッダが難しい教理を用いず
『或る貧しい家の娘が稼ぎ先で子どもを産んだ。子どもは走り回って遊ぶまでに成
(『長老尼の詩註』原文を一部省略して引用した。)
@ いくら家々を回って探しても指示された芥子粒は手に入らないことを体験させ,子どもを生き返らせる薬が手に入らないのは,母親自身が前世で犯した悪い行いの報いであると諦めさせるため。
A いくら家々を回って探しても指示された芥子粒は手に入らないことを体験させ,家族の死で悲しみ苦しむのは自分ばかりではないことに気づかせ,人は死を免れえないことを理解させるため。
B 苦労を重ねて最後には指示されたとおりの芥子粒を手に入れることによって,その芥子粒を用いた供養をして,幼くして亡くなった子どもが来世では幸福に暮らせるように祈願させるため。
C 苦労を重ねて最後には指示されたとおりの芥子粒を手に入れることによって,困難にめげずにブッダの教えに従い努力を重ね続ければ,人はやがて必ず報われることを信じさせるため。
問5 下線部dに関連して,唯一の人格神を古代イスラエル人たちと同様に信仰していたイスラームの預言者ムハンマドについての記述として最も適当なものも次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6
@ ムハンマドは,自分はアラブの高貴な家柄に生まれた預言者であり,預言者はアラブ人のなかからのみ出現すると説いた。
A ムハンマドは,自分は唯一の神によって選ばれた頭言者であり,預言者は自分の子孫からしか出現しないと説いた。
B ムハンマドは,自分はイエスと同様に神の子であり,人々に神の言葉を伝えるために預言者として出現したと説いた。
C ムハンマドは,自分はモーセやイエスを選んだのと同じ神によって選ばれた預言者であるが,自分の後に預言者は出現しないと説いた。
問6 下線部eに関連して,平等観にもとづいたイエスの言行についての記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@ 当時の社会で嫌悪されていた徴税人や罪人と食事を共にするなど,当時のユダヤ教の社会規範に反してまでも,被差別者と共に生きようとした。
A 「何事でも人々からしてほしいと望むことは,人々にもそのとおりにしなさい」
B 自らメシア(キリスト)と称して、すべての人が生まれながらに負っている罪から救われるには,十字架の贖いを信じるしかないと主張した。
C 神は律法を守った人だけを祝福するのではなく,おちぶれて帰還した放蕩息子を喜び迎える父のように,無償の愛を万人に及ばしていると教えた。
問7 下線部fに関連して,日本の「家」意識に閑する柳田国男の研究の記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8
@ 日本各地の村落社会に赴いて,「家」意識を支える祖先崇拝を調査した。
A アジアの「家」意義をアラビアとヨーロッパの家族意識と比較した。
B 「家」意識は儒教とともに日本にもたらされたことを歴史的に解明した。
C マルクス主義の立場から「家」意識を経済の発展段階のなかに位置づけた。
問8 下線部gに閑達して,現代の日本における家族を取り巻く状況の変化についての記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 9
@ かつては一般に,子どもは養育期間を終えると通過儀礼を経て地域社会の一員に組み込まれたが,現代では,人々の生き方が多様化したためにいつまでも自分の進路を決定せずにいる青年が増加した。
A かつては一般に,家族と地慧社会とが生産と教育に携わっていたが,現代では,これらの役割は外部の機関に委ねられる傾向にあるため,家族は主に安らぎの場となり,地域社会の住民どうしの連帯は強まった。
B かつては一般に,娘よりも息子のほうが優遇されていたが,現代では,少なくとも戦後に改正された民法によれば,娘と息子との間で財産相続の権利や親を扶養する義務の面での区別はまったくなくなった。
C かつては一般に,家族は子だくさんであったが,現代では,経済水準の向上と少子化が進むなかで,親の関心が子どもに過度に集中して,子どもの自立が妨げられる事態が起きている。
〔14-追〕