第4章 西洋近・現代の思想
1.人間と理性,感情
4-1-2<考えることについて>
2 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。
人間を「考える葦」と呼んだのはaパスカルである。彼によれば、人間は宇宙のなかで最も弱い存在にすぎないが,しかし,考えることによって全宇宙をも包み込むことができる。それゆえ,人間の尊厳のすべては「考えること」のなかにあり,「よく考えること」のうちに道徳の原理が存する,という。
理性を人間の本質とみなした古代ギリシアの哲学者たちの多くもまた,「よく考えること」,つまり理性に従うことによって、ソクラテスの求めた「よく生きること」が可能になる,という思想を抱いていた。それは
1 を理想としたストア派などにおいても同様である。目を東洋に転ずるならば.中国宋代の朱子を挙げることができよう。
彼によれば,事物の根源を探究し,感情や欲望を抑制することによって,b万物の秩序
cドイツの啓蒙思想を代表する哲学者カントは,一般にわれわれの思考の正しさを測る試金石として三つの規則を挙げている。一つは,自分の判断を他人の判断と比較することである。両者が一致しなければ,それは,自分の判断が間違っているかもしれないという警告と受けとめなければならない。何をなすべきかを考えるときにも,われわれは,「 A 」が必要なのである。次にカントは,「つねに自分自身と一致して考えること」をも要求している。つまり B である。われわれは,ともすれば自分に対して甘く,他人に対して厳しい判断を下しがちであるが,このような態度は,行為の善悪を判断する基準がバラバラであるという意味で公平ではない,というのである。だが,カントにおいてさらに大事なことは,「自分自身で考えること」である。もちろん これは独善的な考え方を認めているのではない。カントは、世間の人々の意見やd権威を
どのような生き方がよい生き方であるのか,どのように考えることがよい生き方につながるのか、eわれわれもまた自分自身で考えてみなければならない。
問1 文中の
1
に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。
@ 世間から障れて生きること A 神々の庇護の下で生きること
問2 下線部aのパスカルの思想を説明した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 2
@ パスカルは,繊細な精神と幾何学的精神を対置し,推論や論証の能力である後者に基づいてこそ正しい道徳的判断が可能になる,と説いた。
A パスカルは,人間を偉大さと悲惨さという両極端の中間に揺れ動く存在とみなし,生への激しい意志によってこの悲惨さを克服すべきだ,と説いた。
B パスカルは,水圧機の原理を発見したことに見られるように,自然科学的な探究を重視し,信仰も科学によって基礎づけることができる,と説いた。
C パスカルは、自分のありのままの姿を直視せず、気晴らしに走る人間に対して警鐘を鳴らし,まず自分が何であるかを反省すべきだ、と説いた。
問3 下線部bに関連して・明代の王陽明は栄子学を批判することによって独自の思想を打ち立てたといわれる。彼の朱子学批判の内容を説明した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3
@ 理を万物に内在する秩序原理として客観視することは,人間の心の本性である気を無視し,人間の感情的側面を不当に眩めるものである。
F 理の重視は,もっぱら自己の心を重視することにもなり、それはこの世界の調和と秩序をかえって破壊し、争いを招くもとになる。
B 理を万物に内在する秩序原理として客観祝することは、本来相即している心と理とをことさらに分離し,対立させるものである。
C 理の重視は、理想的な統治を性急に追い求めるあまり、礼の形式を無視することになり,正しい君臣関係を見失わせてしまう。
問4 下線部cに関して,彼の哲学はその思惟方法の特質から「批判哲学」と呼ばれるが、それはなぜか。最も適当なものを・次の@〜Cうちから一つ選ベ。 4
@ カントは、彼以前の経験論や合理論の哲学をすべて斥け,それらの成果にはまったく依存しない新たな哲学を形成し,ドイツ観念論の基礎を築くことになったから。
A カントは,認識や実践における理性の役割を強調しただけではなく、理性能力そのものをも吟味し,理性のできることとできないことを明確に区別しようとしたから。
B カントは、道徳に関する通俗的な考え方を斥け,常識の持つイデオロギー性を明らかにすることによって,倫理学を厳密な学問として形成しようとしたから。
C カントは、理性がさまざまな概念を駆使して他の学説の欠点を見いだし,それを非難することから哲学的思考が始まると考え・従来の形而上学に対する批判を出発点としたから。
問5 文中の A ・ B に入れるのに最も適当なものを・次の@〜Eのうちから一つずつ選べ。 A については 5 に, B については 6 に答えよ。
@ 自分に厳しく他人に優しく考えること
A 原則に基づいて首尾一貫して考えること
B 他人の立場を最も優先して考えること
C つねに結果を見通しながら考えること
D 自分を他人の立場に置いて考えること
E 自由な創造的精神をもって考えること
問6 下線部dに関連して、過去の大哲学者の理論や宗教的権威に縛られたものの見方を「劇場のイドラ」と呼んで批判した哲学者がいる。彼の哲学的立場を説明した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@ 知識の源泉を感覚的経験に求め、観察と実験を重視する。
A あらゆる実体の存在を否定し,心を単なる知覚の束とみなす。
B 存在することを知覚されることと同一視し、知覚経験を重視する。
C 人間の心は本来白紙であるとし、すべての観念の起源を経験に求める。
問7 下線部eの自分自身で考えるとはどのような態度を指すのか。本文で述べられたカントの立場に照らして最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8
@ 何が正しいか人々の間で意見が対立している問題に関しては,良心に恥じるところがないかぎり,自分の信念に全幅の信頼を置く。
A 自分のことは自分が一番よく知っているのだから,自分の行動に関しては他人の意見に左右されず,ただ自分はどう考えるかを追求する。
B どうしたらよいか迷ったときには,古人の知恵の結晶である金言やことわざのなかから最も信頼できるものを自ら選び出し,それに従う。
C どのように行為すべきかについて,多数の人々の考え方が正しいと感じても,さらになぜそれが正しいといえるのかを自ら吟味する。
〔10−本〕