4章 西洋近・現代の思想      

2.近代科学と自然

 4-2-1<信仰と科学>

1 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。

 近年,自然科学の発達は目覚ましい。このことは,宗教の消滅を意味するわけではない。ある調査によれば,現在でも「神を信じている」アメリカの自然科学者は全体の39%である(注)。西洋思想史を振り返りながら,宗教的信仰と自然科学的知識との関係について考えてみよう。

13世紀の 1 は,理性的認識は神の恩寵の下でこそ成立することを前提として、両者の調和を説いた。けれども,14世紀のオッカム以後,自然を研究することと神を信仰することとを切り離す傾向が見られるようになった。

 近代自然科学が成立するころ,aベーコンは,科学技術を通じて、知識および人間のあり方の革新を企てた。また,実験および観測機器を用いた自然観察というガリレイの方法は,自然研究の基本となった。ところが,コペルニクス,ガリレイ, 2  ニュートンなど,近代自然科学の成立に寄与した人々のほとんどは,科学者であると同時に,敬虔なキリスト教信者でもあった。b彼らは,神が創造した自然的世界の法則を 探究することによって神の意志を知ることができるという確信をもって,自分たちの研究を推し進めたのである。つまり,彼らの科学に対する態度は,創造主である神の言葉を自然のなかに読み取ろうとするものであった。この意味において、彼らの自然研究はキリスト教的色彩を強く帯びていた,と言うことができよう。

 その一方で1718世紀のヨーロッパでは,c啓蒙主義と呼ばれる思想運動が展開された。その特徴の一つとして,知識をキリスト教の枠組みから解放しようとしたことが挙げられる。とりわけフランスの啓蒙主義者たちの間では, A という態度をとる傾向が存在した。そして,彼らは自然科学を,d経験的な事実に基づいて構成される知識の体系として考えた。

 自然科学とキリスト教信仰との分離を要求した啓蒙主義の思潮は,近代科学の発達に寄与した。これは宗教の力を弱める一因ともなった。しかしながら,科学と宗教は複雑にからみあっており,そう簡単に分離できるものではない。

 (注)この調査は,1996年に米国ジョージア大学のエドワード・ラーソン氏らが実施したものである(199744日付「朝日新聞」による)。

 

1 文中の 1  2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。

 1  @クザーヌス A アウグステイヌス B アンセルムス Cトマス・アクィナス

 2  @ ピコ・デラ・ミランドラ A ケプラー B マキァヴェリ C ヒューム

 

2 文中の A に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選ベ。  3

 @ 強い意志によって個性的で自由な生き方を開花させよう

 A 科学的・合理的な方法や考え方で伝統的な権威を打破しよう

 B 唯一の真理である自然科学的真理のみを追究していこう

 C カトリック教会の支配を否定して純粋な信仰心に目覚めよう

 

3 下線部aのベーコンは,正しい知識の獲得を妨げるものとして四つのイドラを挙げた。次の会話において,「劇場のイドラ」に囚われていると読みとれるのは誰であるか。下の@〜Gのうちから一つ選べ。 4

 妹(中学生):たまたまテレビをつけたら,大学の先生がしゃべってたわ。なんだ

  か面白くて,最後まで見ちゃった。その先生はねえ,プラトンという哲学者を研

  究してるんだって。そして,イデアというものが存在しているって言ってたよ。

  お見ちゃん,プラトンやイデアなんて知っているの?

 兄(高校生):プラトンというのは,有名な古代ギリシアの哲学者だよ。イデアっ

  てのは,一口で言うとねえ,事物の本質としての理念的な実在,とでもいうとこ

  かな。倫理の時間に習ったよ。

 母:お見ちゃんは,事物の本質としての理念的な実在なんて偉そうに言うけど,

  わかってんのかな。ところで,その大学の偉い先生本当に自分でもイデアが存

  在していると思っているのかしら?わたしたちのふだんの生活では、イデアな

   んて意味があるとはとても思えないわ。

 妹:じゃあ,お母さん,プラトンは間違っているの?お父さんはどう思う?

 父:お父さんは、イデアかどうかは知らないけど、なにか理想的な本物の世界と

   いうのは,あってもおかしくないと思うよ。

 母:そう思うのはお父さんの性格からじゃないかしら。昔から何事も理想化しな

   いと気がすまない性分だったからね。

 兄:お父さんもイデアみたいなものはあるって言うし,倫理の教科書や高校の先

  生の説明もわかったな。やっぱりイデアはあるんだよ。

  母:そうかしら。

 妹:みんなの話を聞いてたら、なんだかよくわからなくなっちゃった。せっかく

   面白い考え方だと思ったのに。

 

@妹 A母 B兄 C父 D父と妹 E母と兄 F父と兄 G母と妹

 

4 下線部bの例の記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。  5

 @コペルニクスは,地動説を提唱し『地球の回転について』という書物を著した。これを書いた彼の考えは、この世界を支配しているのは神である,という信念によって規定されていた。

 Aパスカルは,「パスカルの原理」を発見する一方で『パンセ』を著した。この中で彼は、神との対比において人間を考える葦とみなし,考えている限りにおいて存在するものであると論じた。

 Bガリレイは,宇宙は神が創造した絶対空間であり,地球はそのなかを動き回る惑星だと主張し,『天文対話』を著した。これは教会の見解を自然科学によって実証するもので,ひろく受け入れられた。

 Cニュートンは,万有引力の法則を発見して,『自然哲学の数学的原理』を著した。そこでの見解が聖書の記述に反するという理由で、彼は宗教裁判にかけられたが,自説は神の意にかなうものだと主張した。

 

5 下線部cに関連して,「啓蒙の思想家」とも呼ばれるカントの考え方として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6

 @行為の道徳性を判定する根本的基準は,科学的知識が与えるものではなく,科学がいかに進歩しても変わらない。

 A行為の道徳牲は状況の中で決まるのであって,人間がいついかなる場合でも従うべき普遍的な道徳的基準は存在しない。

 B人間に生まれつき備わっているような理性は存在しないのであって,科学的認識はすべて経験の積み重ねによって形成される。

 C霊魂は不死か、神は存在するか、といった形而上学的な問題は,各人の信仰の問題であって、実践理性がかかわるべき事柄ではない。

 

6 下線部dのような知識を得る方法の一つに帰納法がある。その実例として最も適当なものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7

 @太郎がいれば花子は笑う。花子は笑っていない。ゆえに,太郎はいない。

 Aこれまで発見されたどのカラスも黒い。ゆえに,カラスは黒い。

 B太郎がいれば花子は笑う。花子は笑っている。ゆえに,太郎はいる。

 Cすべてのカラスは黒い。この鳥はカラスである。ゆえに、この鳥は黒い。

 

7 本文の趣旨に合致する記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8

 @ 現代では,科学のはうが宗教よりも優れていることは,明らかである。近い将 来,宗教は科学によって駆逐されるだろう。これは時代の流れから見ても理解できることである。

 A これまでの歴史を振り返ると,宗教は世界中のどこの文化でも見られる現象である。科学が宗教を駆逐することはありえない。多くの人々にとって,宗教は生きていく上で大切なものである。

 B 複雑にからみあった宗教と科学だが,両者はいつか統合されて,それらに本質的な区別はなくなるだろう。宗教と科学という二つの領域は,たがいに他を排除することなく,調和することが最も望ましい。

 C 宗教と科学とを独立した二つの領域としようとする考え方もある。しかし、両者の関係は,こうした考え方だけにおさまるものではない。むしろ,科学者の真理探究が信仰に裏打ちされている場合もある。

                                 〔11−本〕

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