第4章 西洋近・現代の思想
2.近代科学と自然
4-2-2<近代化への歩み>
2 次の文章を読み,下の問い(問1~6)に答えよ。
ルネサンスにおいて「ヒューマニズム」の思想が成立して,人間と世界との関係が問い直される。芸術と学問が融合して確立された遠近法という絵画技法は,その一例と考えることができる。ルネサンス以前では,絵画空間は宗教的秩序に基づいて構成された聖なる空間であり,美とは神の恩寵の光が反映したものであった。これに対して,遠近法はそうした絵画空間を主体としての人間の視点から再構成するものである。そこには A が含まれているといえよう。
ルネサンスの思想を下地にしながら,デカルトは理性をすべての人間に備わった能力とみなしている。そして,彼は理性をよく導き正しく使用するための方法の確立を重視して, B など四つの規則を提示した。それらは 1 をモデルにしたものである。デカルトにとって,この学問こそ人間が自然を完全に解明する鍵となるのである。
a自然科学とはそうした解明の成果にほかならない。
さらにまた、彼はヨーロッパの立場を代弁することで、ヨーロッパ的理性の抑圧的な側面を内部告発するとともに、人間理性の理解に関するヨーロッパ中心主義を批判していく。c近代ヨーロッパ文化の基礎となった近代自然科学や人間理解は,現代ではむし
ヴィーコやディドロの考え方はその後の主潮流とはなりえなかったし,d彼らの考え
問1 文中の 1 ・ 2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの①~④のうちから一つずつ選べ。
1 ①数学 ②博物学 ③解剖学 ④法学
2 ①『判断力批判』 ②『法の哲学』 ③『学問芸術論』 ④『百科全書』
問2 文中の A ・ B に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの①~④のうちから一つずつ選べ。 A については 3 に、 B については
3 ① 人間が自然を支配しようとする意志 ②人間が自然の秩序を模倣しようとする態度
③ 人間が自然と戯れようとする態度 ④人間が自然にしたがって生きようとする意志
4
③あらゆる他者の立場へ自分自身を移し置いて考えること
問3 下線部aに関連して、ヨーロッパの近代的自然像の特徴を説明した記述として最も適当なものを・次の①~④のうちから一つ選べ。 5
①自然は市民社会でのストレスを癒やす.人生に不可欠の存在である。
②自然は自然法則の秩序にしたがって自動機械のように運動している。
③自然は数量化されつつも部分的には異質な時間・空間を含んでいる。
④自然はみずからのうちに運動の原理を持って,生成し消滅する。
問4 下線部bに関連して、代表的な啓蒙思想家を説明した記述として最も適当なものを次の①~④のうちから一つ選べ。 6
①カントはルソーから人間を尊敬することを学び,定言命法に基づいて自律と他律の調和をはかろうと試みた。
②ロックは基本的人権を侵害する政府に対して抵抗する権利を認めると同時に,無神論者の主張にも理解を示し宗教的寛容を説いた。
③モンテスキューはイギリスの政治制度を模範にしながら自由主義的な政治思想を展開して,立憲君主制と三権分立を主張した。
④ダランベールはベーコンの影響を受けて実験的精神の重要牲を説き,数学においても実証主義的立場と形而上学的立場を調停する試みを示した。
問5 下線部cに関連して,ヒューマニズムの思想の確立や自然科学に基づく科学技術の発達によってどのような問題が生じたと考えられるか。その説明の記述として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。 7
①人間の欲望が優先され,その結果として物質文明が進み生活が豊かになった反面廃棄物などが深刻な環境問題を引き起こしている。
②半永久的なエネルギー資源として期待された原子力にも、放射性毒物の処理と予期せぬ事故の危険がつきまとっている。
③細胞融合などの技術が発達することによって生み出されたバクテリアなどが,人間の生命を脅かす危険性がでてきた。
④情報機器の発達に伴い情報化が進むことによって女性が高学歴化し、その結果出生率の低下という問題が生じた。
問6 本文の趣旨に照らして,下線部dの持つ意味を考えてみよう。タヒチを「発見」したプーガンヴィルは『世界周航記』を著し,ディドロはそれを読んで『プーガンヴィル航海記補遺』を執筆した。ディドロはその中でヨーロッパ的理性のあり方を告発するために,仮想のタヒチの老人に次のように語らせているが,しかしその告発の仕方には同時に問題も含まれている。次の両者の文章を比較しながら,その問題を説明した記述として最も適当なものを,下の①~④のうちから一つ選べ。 8
『タヒチでは身分の差異がはっきりしており,身分間の不平等は甚だしかった。何人かいた王や貴族は,自分たちの奴隷と召使いに対して生殺与奪の権を持っている。 ・・・‥・肉と魚は貴族の食卓だけに供される。庶民は野菜と果実しか食べない。』
(プーガンヴィル『世界周航記』〔1771年公刊〕)
『おまえたちフランス人にできることといったら,われわれの幸福を台なしにすることだけではないか。われわれは自然がくれた純粋な本能にしたがって生きている。それなのにおまえたちは,われわれの心からこの長所を消し去ろうとした。この島では,何でもみな共有だ。それなのにおまえたちは,「おまえのもの」と「おれのもの」という,何だか訳の分からない区別をわれわれに説き聞かせた。…おまえたちは奴隷になるくらいなら死んだ方がいいと思っているくせに,なぜわれわれを奴隷にしようとするのか。』
(ディドロ『プーガンヴィル航海記補遺』〔1772年執筆〕)
① ディドロはヨーロッパ中心主義を批判するあまり,その意図に合致するタヒチのイメージを作りあげてしまう。
② プーガンヴィルとは異なって実際にタヒチを訪れていないので、ディドロのタヒチ理解は不十分で間違いを含んでいる。
③ ディドロは非ヨーロッパの立場を重視するあまり,逆に人々の目をヨーロッパ内部の問題からそらしてしまうことになる。
④ 非ヨーロッパ世界にもヨーロッパ中心主義の支持者がいて近代化を目指しているということを,ディドロは結局無視している。
〔11-追〕