第4章 西洋近・現代の思想
2.近代科学と自然
4-2-3<合理化の精神>
3 次の文章を読み、下の問い(問1〜7)に答えよ。
西洋近代の特徴の一つは、経験的事実に即して物事を理解し,効率的に処理するという意味での「合理化」を徹底して遂行する精神にある。それは,政治や経済,文化など生活のあらゆる領域に及ぶ広範囲なものであった。この精神は,自然研究の領域では,17世紀ごろ、a科学革命として具体化したのであった。
18世紀以降,この「合理化」の精神が歴史の観念と結びつことによって、b「進歩」と
しかし,「進歩」はバラ色の世界だけをもたらしたわけではない。現に,我々の社会は多くの深刻な問題を抱えている。その中で根本的と思われるものの一つは,自然を支配するために用いられる技術が、人間を支配する道具として用いられるようになったことである。現在それは、c人間の振る舞い方の特性を法則的に捉え,それに基づいて人々操作するという段階にまで達している。そしてもう一つは,一般に 1 と呼ばれる考え方である。これは、今まで価値があると思われていたものの一切が実は虚偽であり、無価値であるという認識である。こうした認識が,生や死の観念にまで及ぶのは避けられない。今日、生や死の意味が希薄化しているように見えるのはその現れである。
ところで、こうした深刻な事態は、「合理化」をうながした近代理性のうちにすでに準
とはいえ、我々は古い共同体に帰るわけにはいかない。また,科学技術がもたらした様々な恩恵を簡単に捨て去ることもできない。すなわち、歴史的に生じてきたこの場から逃げるわけにはいかないのである。この意味で、今日人類は大変困難な問題に直面していると言うことができるであろう。
問1 文中の 1 ・ 2 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。
1 @アナーキズム Aニヒリズム Bリベラリズム Cヒューマニズム
2
B 人間を取り巻く生態系の破壊
問2 下線部aの科学革命に関係した人物の記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3
@ガリレイは,望遠鏡による天体観測を行うとともに,振り子の実験などに基づいて物体運動の理論を展開し,近代科学の基礎を築いた。
Aコペルニクスは,古代ギリシャ以来の宇宙観を批判し,地球を中心とする天文
Bニュートンは,物質と精神の二元論の立場に立って、外界の事物を数量化可能なものとし,機械論的自然観をはじめてとなえた。
Cベーコンは,中世のスコラ哲学にかわる新しい学問を模索し、普遍的原理から出発して自然現象を数学的に説明する方法を提唱した。
問3 下線部bに関連して,「進歩」という観点から人間の歴史を考えたJ・S・ミルの思想についての記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 4
@人類の歴史は,神学的段階,形而上学的段階,実証的段階という知の発展段階に並行して,軍事型社会,法律型社会,産業型社会の順に進歩する。
A生物進化論は社会にも適用可能であり,適者生存の原理によって社会は進化する。
B個々人の多様な個性の自由な発展こそが社会の進歩をもたらすのであるから、他者に危害を加えない限り,自由の規制はするべきではない。
C人類の歴史は自由が実現される進歩の過程であり,人間の自由は国家において最高の形で実現される。
問4 下線部cに関連して,現代における事例として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5
@ 自動改札を導入することによって余剰人員が生じた鉄道会社は、その人たちを別の部署に配置転換した。
A あるスーパーマーケットでは専らクラシック音楽をかけているが,それは、他の音楽を流すよりも売り上げが伸びることが分かったからである。
B マスコミは,選挙の際,投票所の出口調査に基づいて結果を予測し、当選確実者名をいかに早く報じるかを競争する。
C ワクチンや抗生物質などの開発により,古来人間を苦しめてきた様々な伝染病が克服され,天然痘のように消滅した病気もある。
問5 次の文章は,下線部dのパスカルが『パンセ』の中で,人間を「考える葦」にたとえて書いたものである。その意味を記述したものとして最も適当なものを,下の@〜Cのうちから一つ選べ。 6
『人間は一本の葦にすぎない。自然の中で最も弱いものである。だが,それは考える葦である。これを押しつぶすために,宇宙全体が武装する必要はない。‥・‥・しかし、たとえ宇宙が人間を押しつぶすとしても,人間は人間を準すものより高貴であるだろう。なぜなら、人間は自分が死ぬこと、宇宙が自分よりも優勢であることを知っているからである。宇宙はそれについて何も知らない。』
@人間は自然の中にその起源をもつ存在である。だが,その自然を考える力をもつ人間は神の似姿であって,そこに人間の尊厳がある。
A人間はそもそも無力で孤独な存在である。だが,合理的な思慮によって人間は社会の形成へと向かい,そこに人間の尊厳がある。
B人間は定めなく思考を浮遊させる存在である。だが,自然の一部として大地に根づいて生きるところにこそ人間の尊厳がある。
C人間は自然の中で最も無力な存在である。だが,その自然全体を包み込むことができる思考のうちに人間の尊厳がある。
問6 下線部eの自律性に関しては様々な考え方がある。その記述として適当でないものを・次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@ カントは,道徳法則が我々自身の理性によって立てられるものであり,それに自ら従うことが自律的であると考えた。
A ルソーは,人間が欲望の奴隷になるのではなく,自分が自分の主人になるべきことを重視し,自ら立てた法に従うことが真の自由だと主張した。
B モンテスキューは,自律とは実は内面化された他律にすぎないことを指摘して,個人の自律に基づく自由主義的な政治思想を批判した。
C フロイトは,従来自律的なものと見なされていた精神の中に,自己のコントロールの及ばない無意識の領域を発見した。
問7 本文の趣旨に合致する記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選ペ。 8
@ 近代の理性は人間生活の全般を合理化することで様々な困難を解決してきた。我々が今直面している問題も,理性にとっては解決可能であり,おのずから解決されるはずである。
A近代の理性は人間を旧来の生活から引き難し,様々な不幸を人間にもたらした。それが最大の問題なのだから,理性ではなく非理性的なものに望みを託すことが我々の今後とるべき道である。
B 近代の理性が人間にもたらしたと思われる困難は偶然的な要素に由来する。理性そのものに問題はない以上我々は偶然的な運命を受け入れる覚悟を決め,これを愛するようにするほかはない。
C 近代の理性がもつ合理化の働きは,それ自身肯定的な面と否定的な面とをもつ。
〔13−追〕