第4章 西洋近・現代の思想
3.国家と権利
4-3-1<権力について>
1 次の文章を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。
近代の初頭,『君主論』を著した 1 が求めたものは、祖国の秩序の回復であった。
大国スペインが誇る,強大な艦隊の影に懐えたイギリスの町で,ホッブズは生まれた。ホッブズは後年、当時の事情を振り返り,自分は「恐怖の双生児」として誕生したと語ることになる。ホッブズは、a自然状態の恐怖を克服する、強大な主権の設立を説いた。
ルソーもまた,現実を批判するために,自然状態という概念に訴えた。ルソーは, ホッブズとは違って,現実にある抑圧と不平等を前に,失われた始原の調和としての自然状態に思いを馳せる。ルソーは「 A 」という。その思想は,変革を目指す運動の精神的支柱の一つとなる。だが,一般意志の絶対性を説くルソーの思想が、革命期には,強権的な独裁政治を正当化する根拠ともなったのである。
激動の余波は,隣国へと及んだ。ルソーを愛読し、革命に熱狂した青年ヘーゲルは、祖国の変革と統一という夢をみる。だが後に,ヘーゲルは,「理性的なものは現実的であり,現実的なものは理性的である」と書き記した。実際、経済社会としての市民社会にも,スミスのいう 3 「」によって秩序が保たれる。市民社会の秩序は,しかし、不平等と悲惨を内に含んで成立している。ヘーゲルにあっては,いわば,市民社会こそ
ヘーゲルは,あるべき調和の回復を集権的な国家の次元で構想している。近代を総括しようとしたヘーゲルの思想の内には,現実との緊張関係における、近代の政治・社会思想の問題点が集約されているといってよかろう。c近代の諸思想に学び、その問題点を見きわめながら,私たちがその内に生きている現実をも捉え返すという課題が、現在の私たちになお残されているのである。
問1 文中の 1 〜 3 に入れるのに最も適当なものを、次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。
1 @ベトラルカ A グロティウス B マキャヴェリ Cトマス・モア
2 @エセー Aリヴァイアサン Bデカメロン Cパンセ
3 @神の予定 A見えざる手
B自然淘汰 C快楽計算
問2 文中の A に入れるのに最も適当なものを、次の@〜Cのうちから一つ選ベ。
@人は自分の存在を維持するために、他人たちと一つの身体を構成する。
A各人は、平和の希望が存在する限り,平和に向かって努力すべきである。
B人間は自由なものとして生まれたが,至るところで鎖につながれている。
C国家という共同体の目的は共通善であり,それ自体が至高のものである。
問3 下線部aに関連して、ロックによるホップズ批判の説明として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5
@ ホッブズとは違って,権利は,すべて国家によって保障されるのだから,自然状態は万人の万人に対する戦いである,とロックは説いた。
A ホッブズとは違って,自然状態から社会状態への移行を可能にするのは,人間の本性であって,社会契約は関係ない,とロックは説いた。
B ホッブズとは違って,平和状態は,社会契約後の国家間に成立するものだから,自然状態には存在しえない,とロックは説いた。
C ホッブズとは違って,理性と自然法が自然状態を支配しているかぎり,自然状態は基本的には平和状態である,とロックは説いた。
問4 下線部bに関連して,ヘーゲル以降の近代社会批判の説明として適当でないものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。
@ マルクスは,資本主義社会にあっては,生産物が労働者から切り離されて資本家の所有に帰することで,「疎外」が生じると批判した。
A キルケゴールは,人々が大衆のなかで平均化されて自己を見失い,「単独者」としてのあり方を喪失してしまっていることを批判した。
B フーリエは,商業資本家の悪徳と市場の無政府牲とを批判しながら,無秩序的な近代社会に代わる,理想的な「生活協同体」を説いた。
C ニ−チェは,近代人は「権力への意志」に取りつかれ,本来の自分を見失っていると批判し,良心の呼び声に耳を傾けることを説いた。
問5 下線部cに関連して,ホッブズ,ルソー,ヘーゲルの三人の思想家に共通する近代の政治・社会思想の特徴と,その問題点はどのようなものであると考えられるか。本文の趣旨に照らして、その説明として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@ 近代の政治・社会思想においては,自然状態という概念は,単なる混乱状態を意味していた。その結果,近代の思想は,強大な権力をもった国家の形成を理論的に要請せざるをえなかった。
A 近代の政治・社会思想においては,自然状態という概念は,時代の現実を批判するために使用されてきた。だが,近代の思想はまた,権力の強大化を正当化する要素も革まざるをえなかった。
B近代の政治・社会思想においては,自然状態という概念は,単なる虚構を意味していた。だが,近代の思想は,その虚構に依拠することでは,権力の強大化に対して批判的でありえなかった。
C近代の政治・社会思想においては,自然状態という概念は,秩序状態を指すために使用されてきた。その結果近代の思想は,秩序と国家の必要性を正しく根拠づけることができなかった。
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