第4章 西洋近・現代の思想
4.良心と道徳
4-4-4<視点・観点について>
4 次の三人(ジュン,ケイ,ヒデ)の会話を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。
ジュン:私たちの知識とか価値観とかがほんとに正しいかどうか,ときどき疑問に思う なあ。
例えば,地球が太陽の周りを回っているって学校では教わるけど‥…・。
ケ イ:それは,科学的に実証されてるでしょ?
ジュン:いや,地動説だって一つの見方にすぎないと思うよ。
ヒ デ:そうだよ。そもそも科学的な事実っていうものは,われわれがただありのまま
に写しとるものじゃなくて,自分たちの発想のパターンにあわせて組み立てるものな
んだ。
aカントもそう言ってるよ。
ケ イ:でもカントは,そういう認識のパターンが人や時代によって違うとは言ってな
いでしょ?
ヒ デ:そりゃそうだ。でも,最近のトマス・クーンっていう人が言うには,各時代の
科学はそれぞれ違ったbパラダイムに従っていて,パラダイムを離れた真理なんて存
在しないんだって。真理っていうのはすべて,人々の見方しだいなんだよ。
ジュン:「すべて」って言えるかどうかは,私にはわからない。ただ,今の科学の発想を,
それとは違った視点からとらえ直すことはできるし,そうすることは大事なことだと
思う。ところで,ものごとの真偽じゃなくて善悪の問題については,二人はどう思う?
ケ イ:私は,善悪の区別もちゃんと決まってると思うよ。
ジュン:そうかしら。
ヒ デ:そんなことないさ。道徳とか価値規範なんてすべて A だよ。例えば,今
は人を奴隷として扱うってことは認められないけど,昔は違ったし…。
ケ イ:昔の制度がまちがってたんでしょう?
ヒ デ:そんなことは言えないよ。それぞれの時代,それぞれの国や地域で,多くの人
が受け入れる規範が正しいことになる。だから,昔は奴隷制度が正しかったんだよ。
ケ イ:じゃあ,多くの人が賛成したら,例えばあなたを奴隷にしてこき使ってもいいの?
ヒ デ:そうなるかなあ。
ケ イ:たしかに,いろんな価値観が実際にあったし,今もあるっていうのは認めるよ。
だけど,それとは独立して,これは正しいとかまちがいだとか主張できることがあると思うのよ。
ジュン:私は、何か絶対的な基準があるとは思わないけど,昔の制度を批判することは
できるし,逆に、昔の視点を手がかりにして現状を問い直したり自分の立場を反省し
たりすることもできると思う。もっとも、その昔の視点も,今の自分の視点から見た昔の視点だけどね。
ヒ デ:ジュンは、ぽくの味方だと思ったのに、だいぶ違ってきたなあ。
ジュン:ヒデに聞くけど、何でも人々の見方しだいだっていうあなたの考え自体も人々
ヒ デ:だとするとどうなんだ?
ジュン:そうすると, B よね。
ヒ デ:そ、そんなのただの理屈じゃないかーっ!
問1 下線部aに関連したカントの主張として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。
@対象が我々の認識に従うのではなく,我々の認識が対象に従う。
A対象が我々に作用するのではなく,我々が対象を認識する。
B我々の認識が対象に従うのではなく,対象が我々の認識に従う。
C我々が対象を認識するのではなく,対象が我々に作用する。
問2 下線部bの「パラダイム」という語の用例として最も適当なものを・次の@〜Cのうちから一つ選べ。
@ デカルトは・近代の機械論的自然観を確立した代表的なバラダイムの一人である。
A 今日の科学は、大学や研究所といったバラダイムによって社会的に組織されている。
B 科学理論を検証するためには、バラダイムを正確に測定することが必要である。
C 生命現象は物理的に説明されるという考えは,近代科学の有力なバラダイムである。
問3 文中の A に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3
@逆説的 A非合理的 B表層的 C 相対的
問4 文中の B に入れるのに最も適当なものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。 4
@ 多くの人があなたの考えに反対するような社会では,あなたの考えはまちがいだってことになる
A 多くの人があなたの考えに賛成するかどうかにかかわらず,あなたの考えはまちがいだってことになる
B あなたの考えが正しいとしても、多くの人があなたの考えに賛成するかどうかはわからないってことになる
C あなたの考えがまちがいかどうかにかかわらず,多くの人があなたの考えに反対するってことになる
問5 本文の各人物の考え方に合う意見として最も適当なものを,次の@〜Dのうちからそれぞれ一つずつ選べ。ジュンについては 5 に、ケイについては 6 に,ヒデについては 7 に答えよ。
@ 過去の戦争や戦争犯罪の問題について,歴史的事実そのものは一義的に確定できるが,事実の評価の仕方はさまざまであり,後者について論争することは無意味である。
A 古代ギリシャの書物においては同性愛がごく当然の性関係として語られており、このことは,同性愛を拒否する社会の規範が歴史的につくられた偏見であることを示唆している。
B これまでの大学教育では抽象的な知識の伝達に重点がおかれてきたが,今日では,情報化社会に適した具体的で有用な知識を求める世論が優勢である以上 これに従うことが望ましい。
C 生と死をどうとらえるかは各人の見方しだいであり,したがって、尊厳死や安楽死の是非という問題については,社会的な規制を廃して個人の自己決定にゆだねるべきである。
D 学校教育で宗教を扱う場合には,愛や慈悲といった人類普遍の原理を強調すると同時に,創造や復活などをめぐる教義については,科学的に反証されている点を明確にする必要がある。
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