5章 現代の諸課題と倫理

1.生命と環境

5-1-1<環境問題と環境倫理>

1 次の文章を読み,下の問い(問18)に答えよ。

 当初、a環境問題は、地域レベルの公害問題として把握されたが,日本でも1970年代 初頭になって環境庁が設立されるなど,国家レベルでの対応が図られるようになった。また,ローマ・クラブは,産業化の傾向がそのまま加速し続ければ, 1 などによって,世界は100年以内に成長の限界に達すると予測した。この提言は,自然環境の有限牲への意識を喚起するきっかけとなった。こうした動きを踏まえて,環境問題に国際レベルで対応する必要性が深く認識され,bストックホルムで開催された国連人間環境会議が,我々は「歴史の転換点」を迎えたと宣言した。これらの事実は,環境破壊の問題がすでに70年代の段階でいかに深刻になってきたかを物語っている。

 今日,現実に差し迫った危機的な状況に対応する必要から,自然環境をめぐる倫理的な問題領域が新たに成立し,c伝統的な諸宗教の自然観や従来の倫理的な思考の枠組みが改めて問い直されるようになった。こうして登場した環境倫理の前提には,地球という生態系は,「宇宙船地球号」と呼ばれるべき,閉ざされた有限な空間であるとする基本認識がある。

 環境倫理には,自然との調和を図りつつ,自然の賢明な利用や開発を志向する 2 を中心に考える立場」と,原野などをそのままの状態で残すべきであるとする「生態系を中心に考える立場」の二つが考えられる。なかでも,後者の立場に立つ環境倫理の大きな特徴は,d自然にも存続する権利を認めることである。

 また,環境倫理の観点からすれば,e現在生きている人々は将来生まれてくる人々が生存する可能性を狭めてはならない。1990年代初頭にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)では,このことに配慮して, 3 が主要なキーワードとなった。この会議は同時に、環境問題には、環境破壊の責任の所在をめぐるf南北間の対立が含まれていることを明らかにした。

自然環境の破壊が急激に進む現在、我々には、g自らのライフスタイルの転換,さら には社会のあり方の改革も含めて,環境倫理が提起している諸問題について考え,行動することが求められているのである。

 

1   文中の 1  3 に入れるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。

 1  @ 科学技術の進歩 A 地球の温暖化 B 南北格差の増大 C 資源の枯渇

 2  @利 潤  A 人 間  B 地 域  C 地 球

 3  @ かけがえのない地球  A 地球にやさしい技術          B 持続可能な開発   C 無理のない成長

 

2 下線部aに関連して,次のア〜エの記述が当てはまる人物の組合せとして最も適当なものを,下の@〜Eのうちから一つ選べ。 4

 ア 工場廃液による汚染のために公害病に冒された人々を取材し,被害者に強い共感を示して公害問題の実態に迫った。

 イ 生態学的な視点から,神社合祀令による神社の統廃合によって鎮守の森が破壊されることに反対した。

ウ 消費を中心とする社会を批判し、農民の立場に立って自然と協調しながら生きる世の中の確立を説いた。

エ 地元の鉱山の鉱寺によって農民が被害を受けている現実に直面して,鉱山の操業停止を求める運動を起こした。

@ ア 田中正造  イ 南熊楠   ウ 安藤昌益  エ 石牟礼道子

A ア 南方熊楠  イ 安藤昌益  ウ 石牟礼道子 エ 田中正造

B ア 安藤昌益  イ 石牟礼道子 ウ 田中正造  エ 南方熊塙

C ア 石牟礼道子 イ 南方熊楠  ウ 安藤昌益  エ 田中正造

D ア 田中正造  イ 石牟礼道子 ウ 南方熊楠  エ 安藤昌益

E ア 石牟礼道子 イ 田中正造  ウ 安藤昌益  エ 南方熊楠

 

3 下線部bの説明として最も適当なものを、次の@〜Cのうちから一つ選べ。  5

 @ いまや我々は国家の垣根を超えて,生活水準の格差を縮め、貧困をなくすという重要な課膚に直面している。

 A 人口爆発と呼ばれる危機的な事態が目前に迫っており,第三世界を中心として,多くの餓死者が出る可能性がある。

 B 我々が環境のことを慎重に考えて行動しなければ,回復不可能なほどの重大な害を地球環境に対して与えることになる。

 C 環境保護と国際平和と経済成長は、相互に関連しており,互いに切り離すことができない。

 

4 下線部cに関連して,歴史上の宗教や思想における自然概念をめぐる記述として最も適当なものを・次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6

 @ 『古事記』は、古代日本の自然観を伝えている。自然は神々によって創造され,神々は自然現象を超越している。イザナミは自然や国土を支配する神として描かれている。

 A デカルトの『方法序説』では,世界は二元論的に理解される。自然の事物は思惟」を本質とする精神から区別され、「延長」を本質とする物体として,機械論的に捉えられる。

 B マルクス=アウレリウスの『自省録』は、ストア派の自然観を明らかにする。それによれば、自然とは理性を超えた生命である。人間は理性による計らいを離れて、心安らかに生きなければならない。

 C 『荘子』では、万物斉同が説かれる。それによれば,自然のままの世界には実際上差別が厳然と存在しているが・我々はその対立の克服に努めて,はじめて万物と同一のものとなることができる。

 

5 下線部dの立場の事例として適当でないものを・次の@〜Cのうちから一つ選べ。  7

 @ 自然観察グループを中心とした人々が、アマミノクロウサギなどの野生生物を原告として自然環境保全のための訴訟を起こした。

 A 動物愛護運動をしている人々が、動物の生命を尊重する立場から毛皮製品の販売や使用に反対した。

 B 絶滅の危険があるオオタカがダムの建設予定地に生息していたため,建設計画が行政によって大きく変更された。

 C 森林の伐採が進み洪水の危険性が高まったので,地方公共団体が近辺の山岳地帯に植林を行った。

 

6 下線部eの考え方を表す語句として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 8

 @ 世代間倫理  A 間柄の倫理  B生命倫理  C 責任倫理

 

7 下線部fに関連して,環境問題をめぐる南北間の対立についての記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 9

 @ 開発を促進してきた先進諸国は,環境問題に早くから配慮してきた開発途上国からその政策を取り入れるように要求されている。

 A 気候や風土に恵まれた南の国々は,項境破壊に悩む北の国々への援助を拒否しているので,後者から反発を招いている。

 B これまで環境破壊を引き起こしてきた先進諸国が,開発途上国の開発のあり方に種々の要請を行っていることに対して,抵抗や反発が生じている。

 C 豊かな自然が残っている開発途上国では,先進諸国からの工場移転は,公害輸出として受けとめられ,認められないことが多い。

 

8 下線部gに関して,我々に求められているライフスタイルの転換や社会のあり方の改革の例として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。  10

 @ 文明化した都市社会の中で,次々と与えられるものを消費するライフスタイルから,自然と共生して簡素に生活するライフスタイルへの転換。

 A 大量に消費し,大量に捨てるという無駄の多いライフスタイルから,不要物を再利用して廃棄物を減量するライフスタイルへの転換。

 B 廃棄物の処理などを人口が密集した都市環境の中で集中的に行う方式から,人口が少ない野山や過疎地域に分放させる方式への改革。

 C 限りない開発や発展を主要な目的とする社会のあり方から,個々人の精神的な豊かさを重視する社会のあり方への改革。

                                 〔13−本〕

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