第5章 現代の諸課題と倫理
2.家族・地域社会と情報化社会
5-2-1<ボーダレス化と現代社会>
1 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。
今日の世界はボーダレス化しつつあるといわれる。交通や通信の発達によって,人間やモノや情報が国境を越えて容易に動くようになった。また,職業や業種などの相互浸透によって,社会的役割の伝統的な区分も曖昧になってきた。政治や経済や文化など様々な領域で従来の境界が消滅しつつあるが、現代の家族もまたその例外ではない。わが国では、1960年代以降、一組の夫婦と未婚の子どもから成る 1 が増加してきたが、この家族形態も同様の波にのまれつつある。
a性差別の色彩も持っていた「男は仕事,女は家庭」というかつての性別役割分業が徐々に崩れ,男らしさや女らしさの伝統的な枠組みから私たちが解放されるにつれ,家庭における夫婦のあり方も開い直されるようになってきた。家庭外に仕事を持つ女性が単に増えただけではなく、家庭内でも家事の分担が,夫婦間の試行錯誤の中で再構成され始めている。また、このような状況に対応していくために,b新しい社会制度の構築も始まっている。性別役割のボーダレス化が夫婦関係を変えつつある。
一方,近年の日本のように、経済的に豊かではありながらも過去のような成長をもはや期待できない社会においては、c絶えざる進歩や発展という近代を特徴づける観念になかなか実感が伴いにくい。いきおい、「子どもから大人へ」という発達のリアリティも希薄になりがちである。こうして、大人と子どもの境界が曖昧になっていくにつれ,家族内での親子のあり方も,かつての垂直的な関係から水平的な関係へと変わってきた。単に友だち感覚の親子が増えているだけではなく、d子どもを一つの人格とみなすような観念も強くなっている。年齢役割のボーダレス化が親子関係を変えつつある。
現代社会におけるボーダレス化に伴い,私たちは、e伝統的な家族観の拘束から解放
問1 文中の 1 に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。
@直系家族 A拡大家族 B核家族 C複合家族
問2 下線部aに関連した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 2
@ わが国の所得税法は課税単位を世帯から個人へと移行させたので,妻は夫との合算所得を気にせずに就業時間を延長できるようになった。
A 先進国と途上国とでは女子労働をめぐる環境が異なっているため,国連においても、女性差別を撤廃する条約が採択されるには至っていない。
B 女性労働者を保護する法律を廃止するか否かをめぐって意見が対立しているため,わが国の男女雇用の機会均等を保障する法律はまだ成立していない。
C 世界人権宣言は,人種や宗教,政治的意見や社会的出身などと共に,性別によっても差別を受けることがあってはならないとうたっている。
問3 下線部bに関連した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3
@ 仕事と家事の両立を可能にさせるため,日本の企業は女性の労働者に対してフレックス・タイム制を導入するよう義務づけられている。
A 共働きのために転勤の際に別居せざるをえない夫婦が増加し,日本の企業は単身赴任手当を支給するよう義務づけられることになった。
B わが国では,母性を保護するという見地から,育児に専念するために一定の期間を休業することが,法律によって女性労働者にのみ認められている。
C わが国では,家族の介護に専念するために一定期間を休業することが,法律によって,労働者の権利として男女に平等に認められることになった。
問4 下線部cに関連して,近代の思想家の主張についての記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 4
@ フランクリンは,より多くの価値を絶えず生み出していくために、人間は常に時間を有効に使わなければならないとし,時は貨幣だということを忘れてはならないと述べた。
A パスカルは,人間は考える葦であるが,そのために進歩の固定観念にとらわれてしまって精神疾患を患う唯一の生物でもあるから,人間は偉大さと共に悲惨さをあわせ持っていると述べた。
B ウェーバーは、神の栄光を増すために世俗内で禁欲的な生活を送り、それを救いの証にしようとするプロテスタンティズムの倫理が,懸命に働こうとする勤労精神の一因になったと述べた。
C ホッブズは,人間の生それ自体が絶えざる運動にほかならず、欲望の生起にも終わりがないから,継続的に欲望を充足しつづけていくことが,人間にとって幸福な生活なのだと述べた。
問5 下線部dに関連した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5
@ 国連総会で採択され,わが国も批准した子どもの権利条約(児童の権利条約)は,子どもを保護の対象とみるにとどまらず,権利行使の主体としてもとらえている。
A わが国の教育基本法は,教育のあり方を全国一律に定めていたが、子どもの個性を伸ばし教育の自由化を推進するという見地から批判を受けて、廃止されるに至った。
B 子どもが権利と自由を享受できるようにとの願いから国連が定めた国際児童年を契機に,わが国でも少年法が廃止され,子どもの犯罪も成人と同じ法律で裁かれるようになった。
C 多くの先進諸国では,子どもにも働く権利を認めようという気運が高まってきており,わが国においても,労働基準法における15歳未満の就労禁止規定は廃止された。
問6 下線部eに関連して,現代の家族をめぐる状況についての記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6
@ わが国では,老人の在宅介護は専門知識を持つ者が行うのが望ましいという観点から,国家資格を有する著しかホームヘルパー業を行えない。
A わが国では,女性の高学歴化や社会進出に伴って、女性に晩婚化の傾向が顕著に見られるが,男性の結婚年齢には大きな変化が認められない。
B わが国では,婚姻率は低下する傾向にあるものの,非婚の母(シングル・マザー)の増加によって,出生率は上昇する傾向を見せ始めた。
C わが国では,家は継承すべきものという意識は残存しているものの、戦後の民法改正によって,家長を中心とした家制度の法的根拠は失われた。
問7 下線部fに関連して,自由についての記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7
@ 自由であるということは、自分のすべての行為に責任を伴った決断を否応なく迫られることでもあるから、サルトルが指摘しているように,「人間は自由という刑に処せられている」といってよい。
A 本来、人間にとって労働は最も喜ばしい活動であるはずだから,レーニンが述べるように,「疎外された労働」に陥ることを防ぐためには,各人のいかなる自由も制限されることがあってはならない。
B 自由はときに耐えがたいはどの重荷となることもあり,人々はその重荷から逃
C 自由は、人間としてよき生活を送るために尊重されるべきだが,同時に,社会的弱者の便益を配慮しなければ、ロールズのいう「公正としての正義」は実現されない。
〔10−追〕