5章 現代の諸課題と倫理

 2.家族・地域社会と情報化社会

5-2-3<労働環境の変化と労働観>

3 次の文章を読み,下の問い(問18)に答えよ。

 高度成長期の日本人は,「ワーカホリック(仕事中毒)」と言えるほど,多くの時間を労働に費やしてきた。しかし、a経済的な豊かさという一応の目標が達成されたかに思われる今日,労働のあり方は転換期を迎えている。

 統計資料からは,労働条件の向上や余暇の増加がうかがえる。労働基準法の改正や 1 の制定もあって,労働時間の短縮や女性の職場進出が進展した。また、就労形態が多様化し,働く人にとっての選択肢も増えてきた。産業の重心が 2 に移り,知的労働やサービス産業の比重が増加するとともに,フレックス・タイム(自由勤務時間制)といった新たな就労形態も増えている。こうして,仕事に対する充実感や職場における人との結びつきなど・労働に精神的意義を求めたり,逆に労働を最小限にして時間的なゆとりを求めたりすることが容易になったと言われる。

 それにもかかわらず,現代社会の問題の一つとして職場におけるストレスの増加が指摘できる。その背景には、能力主義の強化などがあると思われるが,このような労働環境のもと、働く人の間には二つの対照的な傾向が見られる。一方には,評価ややりがい,あるいは収入のため、仕事への傾斜を強める結果になっている人々がいる。たとえば、管理的な労働や専門的な労働などは、仕事に充実感を見いだしやすいだろう。このような人々からは能力主義にもとづく雇用や昇進を歓迎する声も聞かれる。もっとも,それは過酷な競争原理にさらされるということでもある。

 他方には、生活の中での労働の比重をできるだけ軽減しようとする人々がいる。これらの人々の間では、「仕事人間」という言葉は否定的な意味で用いられ,プライベートな時間を重視するライフスタイルが広まっている。だが,労働の比重を軽減しようとすると、職種や就労形態の選択の幅が狭められてしまう。また,時間的なゆとりが直ちに充実した生活をもたらすわけではないという問題もある。近年、cボランティア活動が注目を浴びているが、その参加者の中には、社会に貢献することによって自分の生活を充実させることを活動の動機として挙げる人も少なくはない。

 これらの現象は,d今日の労働環境においては仕事の充実と,気持ちや時間のゆとりとの両立が困難であることを示している。女性の場合、事態はさらに深刻である。e性別役割分業の見直しが不十分な現状では、働く女性は、家事労働に加えて職業労働でも男性並みの仕事量をこなすか、補助的な労働に甘んじるかという選択を強いられがちである。

 今後は,仕事における充実と生活におけるゆとりとが両立するように,労働環境を整備し、働く人の生活の質を高めていく必要がある。そして、まさにそれが各々のf自己実現につながっていくのではないだろうか。

 

1 文章中の 1  2 に入あるのに最も適当なものを,次のそれぞれの@〜Cのうちから一つずつ選べ。

  1  @男女雇用機会均等法 A男女均等待遇法 B男女雇用平等法 C男女同等賃金法

  2  @軽工業 A製造業 B第一次産業 C第三次産業

 

2 下線部aに関連して・、済発展に伴う問題についての記述として適当でないものを次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3

 @ 現代の経済は消費者の欲望を駆り立てることにより発展してきたが,環境破壊や資源の椿渇は・経済成長には限界があることを示している。

 A 南北格差の拡大に伴い,発展途上国への経済援助が必要となっているが,近年の先進国の人口増加は、このような援助を困難にしている。

 B 経済発展に伴う都市化の進展により,地域社会のきずなが損なわれ,道徳心の低下や福祉コストの増大といった問題が指摘されている。

 C 経済のグローバル化に伴い,投機的取引が拡大するなど,金融市場の不安定要素が増加し、その管理はますます困難になっている。

 

3 下線部bに関連して・現代社会の問題についての記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 4

 @    携帯電話やインターネットなどの通信手段の発達により,直接的で対面的な出会いはもはや不必要なものとなった。

A 都市化に伴う大衆社会の形成は,地位や財産にとらわれない個性豊かで自立的な人間をますます多く生み出している。

B 高齢化社会においては,高齢者の公的年金や医療福祉を充実させるため,若い世代は以前より多くの人数で一人の高齢者を支えざるをえなくなった。

C 国際化が進展する今日,ボーダレス化が様々な領域で起こっている一方で,民族的アイデンティティを主張する動きも世界各地に見られる。

 

4 下線部cのボランティア活動に関する記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5

 @ 福祉活動や災害援助活動だけではなく,無償で地域の子どもたちにスポーツを教えることも,ボランティア活動と見なすことができる。

 A ボランティア活動を促進するために,特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されたが,コーディネーターの不足など多くの課題がある。

 B 高齢化社会の到来により,参加型福祉社会の構築を目指すボランティア活動が展開され,公的な福祉活動全体は次第に減少の方向に向かっている。

 C 発展途上国に赴き,農業や技術の指導を行う青年海外協力隊の活動もボランティア活動と見なすことができる。

 

5 下線部dに関連して,19世紀資本主義社会の労働における人間疎外を指摘した思想家としてマルクスがいる。マルクスの考え方として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6

 @ 労働者の生産物が資本家の支配下にあるという資本主義の問題を克服するために,革命による社会主義社会への移行が実現されなければならない。

 A 数多くの矛盾が存在する資本主義社会において,商業は文明の弱点であり,商業資本家の悪徳と無政府性は強く非難されなければならない。

 B 帝国主義の時代においては,議会制度を通じて社会を変革することは困難であり,社会主義社会は武力闘争によって実現されなければならない。

 C 議会制度を通じて,生産手段の公有化宮の公平な分配社会保障制度の拡充を推進し,資本主義社会の弊害を除かなければならない。

 

6 下線部eに関して,性別役割分業の見直しをめぐる記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選ベ。 7

 @ 女性は,結婚や子育てを理由に職場で差別的な待遇を受けることが多かった。今後は,子育てを男女で分担していくだけではなく,社会もまたそれを支援する措置をとり,女性が働きやすい環境をさらに整備する必要がある。

 A 女性の社会進出に伴って,家事を代行する企業が増加しつつあるが,そこには 家族を解体させる危険がある。そのため,男女がそれぞれ生来もっている役割に専念することで,家族を守る必要がある。

 B これまで仕事に忙殺されてきた男性もまた家庭生活に参加しやすい環境を整備していかなくてはならない。しかし,育児・介護休業法が男性に育児休暇を認めていないなど,不備も多く,さらに法を整備する必要がある。

 C 日本では女性の就業率は,結婚後低下するが,育児を終えた後,パート就労を中心に再び上昇するというパターン(M字型就労)をとる。女性をとりまくこのような雇用構造は今後も維持していく必要がある。

 

7 下線部fに関連して、ヘーゲル、JS・ミル、マズローの思想を説明する記述として最も適当なものを・次のア〜エから選び,その組合せを下の@〜Gのうちから一つ選べ。 8

 ア 自己実現の欲求という最高次の欲求は・階層構造をなす生理的欲軋安全欲求,所属と愛の欲軋承認欲求が順次すべて満たされたとき達成される。

 イ 画家がキャンバスに描きたいものを描き,そこに自らの才能や思想を見いだすように,人間は自分の考えを具体化することによって自己を実現する。

 ウ 自己実現は,こころの全体牲の二つの要素である「意乱と「無意義」とが相互に補償し合うことによって,達成される。

 エ「満足した豚であるより・不満足な人間であるほうがよい」のは,精神的快楽の ような高次の快楽の追求が人間の幸福に不可欠な要素だからである。

   ヘーゲル   JS.ミル   マズロー

@   ア       イ      エ

F   イ       ウ      ア

B   ウ       エ      イ

C   エ       ア      ウ

D   ア       ウ      エ

E   イ       エ      ア

F   ウ       ア      イ

G   エ       イ      ウ

H   ア       エ      ウ

I   ウ       イ      ア

 

8 本文の趣旨に合致する記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 9

 @ 職種や就労形態が多様化すれば,働く人は,やりがいやゆとりを自分で選択し,自分に合った仕方で働きやすくなる。このような多様化の推進によって,労働環境の改善が可能になる。

 A 高齢者や女性を含めて,人々が働きやすい環境を整えていくとともに,仕事や家事を分かち合っていくことが求められる。そのことによって,充実した家庭生活や自ら選んだ活動を行いやすい状況を作ることが可能になる。

 B 能力主義や分業の推進は,働く人に充実感を与えるだけではなく,より一層の効率化を可能にし,より多くの余暇時間をももたらす。そのことによって,充実とゆとりとの両立が可能になる。

 C 派遭社員やアルバイトといった就労形態が増加することによって,女性は仕事と家事を両立させやすくなる。そのことによって,女性の社会進出が促進され,女性に不利な労働条件の改善が可能になる。

                               〔14−本〕

 

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