5章 現代の諸課題と倫理

3.異文化理解と人類の福祉

5-3-1<ボーダレス社会の進展と日本>

1 次の文章を読み,下の問い(問17)に答えよ。

 現代はボーダレスの時代といわれる。国際化 a情報化の進展に伴い、人、モノ、情報の国境を越えた交流が活発になりつつある。日本人の海外渡航者は年間延ベ1000万人を超え,海外からも多くの人が様々な目的で日本にやって来るようになった。このように交流が盛んになったとはいえ,b外国の文化を理解し,その中で生活することはそれほど簡単なことではない。

 そもそも,人の移動には様々な制約が伴う。例えは,ある人が,自分がc国籍を持つ国以外の国へ行こうとする場合,通常は,旅券(パスポート)や査証(ビザ)を持ち,入国審査を受けなければならない。また,その在留資格や在留期間も定められている。

 このような出入国管理はどの国でも行われているが,国によってその仕組みや内容が違う。日本では,d旧植民地出身の人々やその子孫以外,原則として外国人の永住は認められていない。また,日本は外国人の就労できる形態を大幅に制限している。それにもかかわらず,働き口を求めて多くの外国人が入国してきており,低賃金で危険な労働に従事している。この背景の一つには、経済のe南北格差があると考えられる。

 しかも,彼らは言語の壁に苦しみ,劣悪な住居や生活環境に甘んじ,医療や教育でも悩みを抱えている。地域社会においては外国人に対するf偏見や差別も依然として存在している。このような偏見や差別は,自分たちの文化の優位牲を強調する 1 的な考えに基づくものだけではない。外国人による犯罪が報道されると,外国人すべてを危険視するような,過度の一般化をしてしまう我々の思考もこれに関係している。

 こうした現実をみるとき,我々一人一人が,日本の制度や仕組みについて考えるとともに,自分自身を謙虚に見つめ直す必要があるといえる。

 

1 文中の 1 に入れるのに最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。

 @ 個人主義 A 文化相対主義 B 欧化主義 C 自民族中心主義

 

2 下線部aに関達して,情報化の進展が社会や個人の生活に及ばす影響の記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 2

 @ 世界中を結ぶインターネットの普及に伴って,個人が各種の情報にアクセスできるようになったため,作品の著作権や個人のプライバシーが侵される危険性が増した。

 A ビデオ,書籍,CDROMなど様々なメディアを利用して,世界各地の名所や旧跡を見られるようになったため,発展途上国では観光収入が減少し,国民の生活水準が低下する傾向が現れてきた。

 B 衛星放送の出現が東欧の社会主義体制の崩壊の一因になったと言われるように,国内外の情勢についての大量の情報が入ってくるようになった反面,巨大メディアによって世論が操作される可能性もある。

 C 世界中の出来事を,自宅で映像を通じて知ることができるようになった反面,湾岸戦争の報道時に指摘されたように,出来事に対する現実感が薄れ,人の生命に対する感覚が麻痺してしまうことが懸念される。

 

3 下線部bに関連して、異文化の中で生活する人は様々な不安やストレスを感じることがある。このような不安やストレスから自我を守るためのメカニズムである防衛横制(防衛反応)についての記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 3

 @ 仕事の関係で海外に赴任したAさんは,早く日本に帰りたいという欲求を無意識の世界に閉じ込め、日本のニユースにも関心を示さず,仕事に打ち込んだ。このように、自分にとって受け入れ難い観念や欲望を意識から追い出し,無意識の中に閉じ込めておこうとすることを「抑圧」という。

 A 仕事の関係で日本に‘赴任して来たBさんは,自分の不注意から大きなミスを犯してしまったが、これは日本の国の制度が整っていないためだと思った。このように、自己の欠点や失敗を他人や制度のせいにするなど,もっともらしい理由をつけることを「代償」という。

 B 日本語を学びたいと思い日本に留学したCさんは,勉強があまりうまく進まなかったため、自分の部屋に閉じこもって自国語のラジオ放送を聞きふけった。このように、欲求が満たされないとき,その問題を解決しようとせず,自分の中に閉じこもってしまうことを「退行」という。

 C 外国に留学したDさんは,心の奥ではその国の文化や習慣に反発を感じていたが、その国の文化を積極的に日本に紹介した。このように,憎悪など意識にのぼらせておくことが望ましくない感情を抑えるために,愛情などその反対のものをことさら強調することを「合理化」という。

 

4 下線部cに関連して,出生による日本国籍の取得に関する説明として最も適当なものを・次の@〜Cのうちから一つ選べ。 4

 @ 父と母が共に日本国籍でなければ,その子は日本国籍を取得することができない。

 A 父または母が日本国籍であれば,その子は日本国籍を取得することができる。

 B 母の国籍に関係なく,父が日本国籍でなければ,その子は日本国籍を取得することができない。

 C 父または母の国籍に関係なく,日本国内に出生した子は日本国籍を取得する。

 

5 下線部dについて述べた文として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 5

 @ 旧植民地出身の人々やその子孫には,今日も指紋押捺が義務づけられている。

 A 戦後まもなく,旧植民地出身であることを理由に日本国籍を失い,無国籍とされたため,生活の場を奪われた。

 B 日本社会で生きるため,民族に固有の姓名ではなく,日本式の姓名を名のっている場合もある。

 C 日中戦争と太平洋戦争の期間に,日本の労働力不足を補うために国策として強制連行された人々は,戦後補償を受けている。

 

6 下線部eに関連して,南北格差に基づく労働力移動についての記述として適当でないものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 6

 @ 日本では,従来外国人が単純労働に従事することが認められていなかったが,内外人の平等を達成するため,認められるようになった。

 A 発展途上国より日本の賃金の方が高いため,高賃金を求めて労働者が日本にやって来る。

 B 日本では,いわゆる「3K業種」への就業が敬遠されるため,それらの業種で発展途上国からの労働者が多く見られるようになった。

 C 発展途上国は経済発展の努力をしているが,依然として十分な雇用機会をつくり出すことができず,人々が職を求めて日本にやって来る

 

7 下線部fに関連した記述として最も適当なものを,次の@〜Cのうちから一つ選べ。 7

 @ 自分の費任を逃れ,人を差別することによって優越感を得ようとする人の気質を,クレッチュマーは「循環気質」として特徴づけた。

 A ユングによれば,偏見や差別のもとには,各民族に固有な「集合的無意識」があり,そこから離れた「個人的無意識」を形成する必要があるとされる。

 B 権威に依存し,人種,宗教などに基づく偏見と差別意識にとらわれているような特徴を持つ人の性格を,アドルノは「権威主義的性格」と名づけた。

 C 自分の価値観を絶対のものとし,他者の価値観を認めず,偏見や差別にとらわれた人を,レヴィンは「マージナルマン」として批判した。

                                  〔11−追〕

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