生命倫理課題 -3-  「死にゆく人のケア」

 

課題:次の文章を読んで、以下の設問に答えてください。

 日本で医療関係者が中心となって「死の臨床研究会」が生まれたのは、それからちょうど10年たった1977年のことです。核となったのは神戸市で開業されていた河野博臣先生と、当時大阪の淀川キリスト教病院で精神神経科の医長をしておられた相木哲夫先生(現・金城学院大学学長、淀川キリスト教病院名誉ホスピス長)で、私もその研究会に参加しました。

1982年には、欧米では小・中学校の授業でも教えている@サナトロジーが、日本ではおろそかにされていることを知った上智大学の哲学科教授で神父のアルフォンス・デーケン先生が、日本でも(A)の準備教育をするべきだと提唱され「生と死を考える会」を発足させました。そして、こうした動きが医療関係者や一般の人が長いあいだとらわれていた、B死は忌むべきものという呪縛を解いていったのです。

 今から約60年前の1947(昭和22)年には、日本人の九割以上が自宅で死んでいました。30年後の1977年には病院と自宅の死亡者が半々になり、今では八割以上の人が病院で死んでいます。がんの患者さんに限っていえば、病院で死ぬ方は95パーセント近くです。

 私は病院の医師に、自分が死に至る病気になったとき、どこで死にたいかを聞いたことがあります。すると、ほぼ全員が「痛みさえコントロールできれば自宅で死にたい」と言いました。そして「最後まで気管に管を突っ込んだり、栄養の点滴をしたりするのはやめてほしい」と。自分で患者さんにそうしたC処置をしている医者が、そう言っているのです。今の病院のあり方というのは、D何と皮肉なものでしょうか。

 病人にとって、入院することがプラスになるのは、まず、診断や検査のための入院。二つ目は成功が期待される手術、あるいは危険な手術でもそのままにしておけば、死が避けられない場合。そして痛みや苦しみがひどかったり、病人の精神がひどく錯乱して、自宅ではコントロールできない場合です。

 それ以外の状態であれば、自宅で人生の最後を過ごしたいと願うのが、患者さんの本心でしよう。私の師であるオスラーは、化学療法のなかった1919年に肺膿瘍を病み、膿胸を起こして死にましたが、彼は入院を断り、自宅で看護を受けて、咳や痛みをモルヒネでコントロールしながら、静かにこの世を去りました。

これは誰にとっても、理想の死の迎え方ではないでしょうか。だからこそ、患者さんを末期の状態で入院させている医療従事者には、次のように自問してほしいと思います。

「あなたは、患者さんをひとりの(E)として扱っていますか?」

「あなたは、患者さんの痛みや苦しみを和らげていますか?」

「あなたは、不適当な検査や治療を避けていますか?」

「あなたは、死別の悲しみをまもなく味わおうとしている、家族のケアをしていますか?」

「あなたは自分で独走するのではなく、チームで患者さんを支えていますか?」

 (略)

 Fターミナル・ケアというのは、死に至る患者さんの生の終焉にサービスする医療。患者さんが亡くなるまでの何日、何週間、何カ月の痛みを取り除き、豊かに生きるための手助けをしながら、心の安らぎを与えることです。

ターミナルには「(G)」という意味のほかに、乗り換えて「新しく出発する場所」という意味もあります。人生の最後には必ず死が来ますが、死はただその人が消えてしまうのではなく そこからもうひとつの魂の世界が開かれている、という意味で、私はターミナル・Hケアを「次の世界に旅立つための癒し」だと考えるのです。

 今から20年以上前、ロンドンでホスピスの創始者シシリー・ソンダース先生に会い、がんの末期患者にターミナル・ケアがいかに大切かを実感して以来、私は日本にもホスピスをつくりたいと思い続けてきました。

 真心を込めて人をもてなすことをIホスピタリティーといいますが、「ホスピス」はラテン語で、「お客さんをもてなす人がいるところ」という意味で、もともとは修道院で旅人や病人を泊めた場所のことです。J病院という言葉の由来でもあるホスピスを、「末期がんの患者を入れる近代的な施設」にしたのが、女医のソンダース先生でした。

 ホスピスでは、患者さんに不必要な治療はしません。検査は最小限にし、患者さんの痛みをとってあげる。そして、K医師と看護師、ソーシャル・ワーカー、神父などの宗教者とボランティアなどが、どうしたら患者さんのこころを慰めてあげられるか、どうすれば家族の不安や心配をサポートできるかということに、チームとして取り組みます。

 こうした機能がホスピスであって、建物をいうのではありません。そして、ホスピスは患者さんの残された日々を豊かに保つための援助をする場所であって、L死ぬところではないのです。

 

『私が人生の旅で学んだこと』 日野原重明 集英社(p.160)から引用


1.           下線部@を日本語の訳でなんと言いますか。                   

2.           空欄(A)に適語を入れてください。       

3.           下線部Bの具体例に使用される食品名を答えてください。   

4.           下線部Cは「治療する」の意味ですが、treat 以外の英語に直しなさい 。  

5.           下線部Dについて、説明してください。(

 6.           空欄(E)に適語を入れてください。       

 7.           下線部Fに該当する仏教での用語をなんと言いますか。   

 8.           空欄(G)に適語を入れてください。     

 9.           下線部Hを英語に直してください。     

 10.       下線部Iを英語に直してください。      

 11.       下線部Jを英語に直してください。      

 12.       釈尊には、「十の尊い名前」が付けられていますが、下線部Kに相当する呼び方はなんですか。

 13.       下線部Lの意味を本文から抜き出して、説明してください。

 

 

     年   組  番 名前(               )

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